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バスケ道  作者: yama14
本編
70/72

第56Q 「糸満の覚醒」

「3位決定戦の前半終わったら俺らもアップするからなー」

和泉先輩が3位決定戦の立修学園と王陵のアップを見ながら言った。

 そこに桜がやってきた。

「よっ!試合お疲れ様!」

「おう、桜か」

「試合すごかったよー!かっこよかった!」

 そう言われると素直に照れてしまう。この馬鹿正直な性格をなんとかしたい。

「あ、ありがと!」

 すると横で恭介と翼が顔を抑えて吹き出していた。

「こいつマジで顔にでるよな」と恭介。

「こいつは馬鹿だから感情を表に出すことしか出来ないのだよ」

 なんかカチンと来た。

「よしお前らを地獄に葬り去ってやろう」

 俺はその後ずっと恭介と翼を追いかけ続けた。




 和泉先輩に試合会場を俺、恭介、翼で走り回っていたことに対してこってり絞られ説教を受けた後、俺は榊先輩と2人で3位決定戦を見に行くことにした。

 会場は独特の熱気に包まれていて、会場に入ると会場外よりは5度ほど温度が高い気がした。

「すごい熱気だなあ…」

と榊先輩がぽつり。

「やっぱ試合会場っていいですね」

 独特の熱気とピンと張り詰めた空気。

 これはバスケをやらないと分からないであろう。

 試合を見てみると、立修学園が2Q残り5分、24対16で王陵を上回っていた。

 今は立修学園のオフェンスだ。

「うーん、やっぱ王陵は厳しいか…準決勝と3決の時間そこまで空いてないしなあ…連戦だろ?」と榊先輩がポツリ。

「そうですねー、人数も少ないし」

 立修学園のみんなに申し訳ないと思いながらも、ここは長い付き合いだ。俺は叫んだ、「旭、頑張れ!」

 すると自分の声が届いたのかは分からないが、橘が竜太郎へ出したパスを見事にパスカットした。立修学園はもうエルボーパスは使えないと判断したのか、この試合では使っていないようだ。

 旭は橘にすぐ追いつかれたものの、ダブルクラッチでボールをリングに沈めた。

 立修学園 24対18 王陵。


「下馬評は立修学園の方が上だけどなあ…見てる限り、立修学園、王陵に食われるかもしれないぞ」

 俺の隣にいたバスケ好きそうなおじさんが独り言を呟いていた。

 でも、まさにその通りだ。この試合、どっちが勝つかなんて全く予想できない。

 そう考えていると、丁度竜太郎が3Pを決めたようだった。

 立修学園 27対18 王陵、3Q残り4分。


 王陵は旭がボールを運び、糸満へパス。糸満はフリー。見事なパスだったが、倫太郎が追いついてきた。だが糸満はシュートと見せかけてポンプフェイクをした後、ドリブルで抜きミドルシュートの体勢に入った。

「上手い!」

 俺はつい叫んでしまった。

 だがシュートは惜しくもリングに2度あたり、外れた。そのリバウンドを橘がキャッチ。

 糸満のやつ、俺らの試合よりも急激に上手くなってる。俺らとの試合で相当悔しかったんだろう、1試合でこんなに上手くなるとは…

 俺、いつこいつに足元すくわれるか分からんぞ…

 立修学園は橘から竜太郎へパス。ポストへ入ろうとする小清水のディフェンスをしていた野中に倫太郎がスクリーンをかけ、小清水がポストへ走りこんでくる。見事に小清水へポストを入れたが、糸満がカバーに入る。糸満、やっぱ上手くなってる…!

 だが立修学園の方が一枚上手だった。

 空いたところに糸満がディフェンスしていた橘が走り込み、0度線のあたりでシュート。見事に2ポイントが決まった。

 立修学園 29対18 王陵。


 だが王陵も負けじと旭から糸満へパス、また旭へ戻し、ボールを取りに来た野中へパス。パスゲームを展開し上手くボールをフロントコートへ運んだ。

 野中はすぐ脇を通り抜けた旭にボールを渡し、そのまま旭は得意の3Pを3Pラインから半歩離れた遠い位置から放った。リングにボールは当たったものの、上手くボールはリングに沈まり、立修学園 29対21 王陵。


 さらに王陵は橘から竜太郎へパスを出そうとしたところを糸満が見事にパスカット。そのまま糸満はレイアップを打った。だがそのフリーで簡単であるはずのレイアップはリングの奥にあたり、空中にボールは浮いた。

「あいつ、レイアップ外すんじゃねーだろーな?」

 榊先輩は焦ったように席から乗り出したが、なんとかボールはそのままゴールに沈んだ。

 立修学園 29対23 王陵、2Q残り2分。


 立修学園はその後のオフェンスで橘を中心にボールを展開したものの、最後のシュートが決まらない。

 一方王陵は旭と糸満のダブルガードによる堅実なゲーム展開で、1年生チームとは思えない。

 最後は野中が華麗にゴール下を決め、29対25。

 立修学園はその後のオフェンスでもシュートを外すが、王陵は旭がドライブでペネトレイト(ペネトレイトとは英語で突破のこと。バスケでは、オフェンスがディフェンスを抜いて、ドリブルをしてゴール下へ斬りこむカットインプレー。

単に抜くということだけでなく、抜き具合もその後の流れに影響する。)をしレイアップを決め、立修学園 29対27 王陵。

 旭がシュートを決めた瞬間、会場は大盛り上がりした。

 2Q残り40秒。


「絶対、追いつくぞ!!」

 旭が叫ぶのが聞こえる。

 バスケ、してえ…

 俺は切実に思った。


 橘はそれでもゆっくりと時間をかけてオフェンスをする。こういうところが橘のうまさだ。プレイは派手に見えても、その派手さの裏には基本的なこういったゲームメイクがあってこそなのだ。

 橘、竜太郎、小清水とボールが渡る。

 竜太郎がインサイドへパスランしようとするも、松田の必死のディフェンスでボールは中に入らない。

 王陵は天童とやった時とは別人のようなチームになっていた。旭を中心にまとまっている。

 その必死さに押し負け、小清水が上田にパスした時、上田がファンブルした。 ボールはそのままコロコロ転がっていく。

 橘がボールをとろうとした瞬間、糸満が滑り込んだ!

 糸満はボールをなんとかキャッチした。

 会場から「いいぞー!!」と歓声があがる。

「糸満、後は俺に任せろ!!!」

と旭がボールを貰おうとする。そして糸満はなんとかボールを旭へパス。そのまま旭はレイアップを決めた。

 29対29!!同点!


「いいか、試合勝って終わるぞ!」

 竜太郎が叫ぶ。

 王陵は必死のディフェンス。だが立修学園も負けてはいない。会場は試合がもうすぐ終わるかのような盛り上がりだった。

 2Q残り2.6秒。橘から見事なビハインドパスが決まり、倫太郎がスリーを放とうとした。だがその倫太郎にフォローに入った旭が、精一杯手を伸ばした。

 俺らからは、ボールが旭の手の先をかすった様に見えた。

 ボールはリングの手前にあたり、その瞬間、ブザーがなった。

 ビーーーーーッ!!

 会場には大きな溜息が漏れた。

「すげえ…」

 俺はぼそりと呟いた。

「こんなにレベルの高い3決、久しぶりに見た。決勝みたいじゃん」

 榊先輩も呟いた。

 すると後ろから和泉先輩が来て、「アップするぞー」と言った。

 俺らは試合を見たいという気持ちに後ろ髪を引かれながらも、俺らも試合があるんだと気持ちを引き締め、アップへ向かった。


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