第55Q 「旭の涙」
「え…でも…うちが慰めに行った方が…」
うららは俺を上目遣いで見てくる。
「もちろん慰めに行きたいのは分かるよ。うららは優しいもんな。けど、旭は今1人で戦ってるんだ。あいつは絶対に周りに弱いところを見せない、みんなを引っ張って行くことを糧に今チームを引っ張ってる。周りに弱いところを見せないで溜め込むのもまた問題だけどな。もちろん俺と旭は言うまでもなく親友だよ。だけど、同じチームで、同じスポーツで戦ってるっていうことは自分たちが思ってるよりも強い絆で結ばれてると思うんだ。あいつは俺に泣いてる所を見られたって良いだろうけど、同じチームのチームメイトやマネージャーであるうららには逆に見られたくないだろうよ。しかもあいつはお前のことが好きだろうからな」
うららの顔がほんのり赤くなったのが分かった。
「な、なにいってんの!旭がうちのこと好きなわけないでしょ!いっつも私にデブだのブスだの痩せたらどうだだのデリカシーのない発言ばっかりしてるんだから!あー、思い出すだけでもイライラしてくるっ!」
「好きな子には意地悪しちゃう、そういう心理だろ」
俺は笑いながら言った。
「小学生じゃないんだから!」
「あいつの精神年齢は小学生だぞ」
俺は大笑いしながら言った。
「うらら、マネージャーとして旭より、他のチームメイトを慰めに行ってやれ。旭は俺に任せろ。旭のことなら、誰よりもわかってる自信があるから」
改めて俺はうららの目をみて言った。
「うん…分かった」
うららは下を向いて返事をした。若干納得出来てなさそうではあったが、俺を信頼してくれているのが分かった。
俺は旭の泣き声を影でずっと聞いていた。旭が泣きはじめてから30分くらいたっただろうか。旭は泣き止んでいた。
旭が物陰から出て来た。
「お、遼…」
旭は目に驚きを持って俺を見た。しかし顔は相変わらず悔しさと苛立ちが顔に現れていた。
「悔しいもんやな、本当に。氷陵に合わせる顔がないんや」
僕達は旭と一緒に、ベンチに座りながら喋っていた。
「でもいいんじゃないのか?王陵の1年たちには伝わったみたいだし。負けることが悪いわけじゃない。負けることによって得られる物もあるはずだよ」
「そーやな。それもある。だけど、悔しいんや。ホンマに。俺の実力不足で…」
「誰も旭が下手なんて思ってねーよ。みんな思ってるのは、チームとしての実力不足。やっぱり新チーム結成して1ヶ月だし、まだ練習不足の感じが否めなかったのはあると思う」
「ホンマにそーやな…その通りや。励ましてくれてホンマおおきに、遼」
その時、向こうから氷陵が歩いてきた。
「おお、旭じゃないか」
氷陵は話しかけた。
「わりーな。相手にもならへんくて。ホンマごめん。勝ってやるとか豪語してたんやけど…やっぱ天童の実力は本物や」
「いや、そんなことはないよ。やっぱり旭は凄かった。旭を抑えるのも俺と宇都宮さんで精一杯。なんとか抑えたって感じ。これで旭以外の他のみんなも経験者だったら、普通に負けてた」
「そういってくれてホンマ嬉しい。ありがとう。やけど、覚えとけよ。次に勝つのはこっちや!」
「その台詞、受けてたつ!」
そして旭は俺を向いてこう言った。
「この大会では天童に負けてしまった。この借りを、遼、お前に返して欲しい!絶対勝てよ、遼!」
「おう、もちろんだ!」
そして俺は氷陵を指差し、
「勝ってやる!天童!」
「言ったな、遼!勝つのはこっちだ!」
2人の間で火花が散った。
「まーとにかく、旭!まずはお前らの3位決定戦だ!全市出場権争い、絶対勝てよ!」
「もちろんや!」
その時、旭の顔が青ざめた。
「あー!あいつら帰してしもうた!3位決定戦、忘れてたー!」
そう言うとすぐに走って会場の外へ向かった。
「バカだ」
俺は氷陵と笑い合った。