第53Q 「完封」
「ちょっとトイレ行ってくる」
俺は階段を下り、トイレへ向かった。
下に降りると、丁度立修学園のミーティングが終わったところだった。
「お、西成のセンター!遼だよね?」
倫太郎が話しかけてきた。
「はい!ほんとお疲れ様でした!」
「おー!ダンク坊主!試合はどーよ?どっち勝ってる?」
橘もやって来た。
「天童です!」
「やっぱなー。王陵なんて去年まで聞いたことなかったよな?弱そ」
橘が馬鹿にしたように言う。
「だからなー、橘?そう言う発言を慎めって言ってんの!」
「うるっさいなー、竜太郎はー」
橘のあいかわらずの毒舌には早田兄弟も困っているようだ。
「いやそれが、17対11なんですよ」
「ええ?本当?結構いい勝負してるじゃない!王陵に誰かうまいやついたっけ?ってか去年まで聞いたことなかったけどなー」
「今年から出来たんです。しかも、1年だけのチームで」
「ええ?本当!?」
早田兄弟の声が重なる。さすが双子、と言ったところか。
「はい。だから1年生だけのチームなんです」
「ふーん。1年だけで今年から出来たってのに準決までくるとは結構やるじゃん。さっきの弱い発言、撤回、撤回ー」
橘はワックスを付けた髪の毛をいじりつつ言った。
「ところで鉄平たちはー?」
「先輩方は僕らと違うところでうちの顧問と試合見てると思います。研究してるんじゃないんですかね」
「おお、そっかー。そっち行くかなー。鉄平ちゃんいじりたいし」
橘は笑いながら言う。
バコッ!橘は竜太郎に後頭部を叩かれた。
「あいつらは仮にも試合前だぞ?やめておけ」
「ほんと厳しいなー、竜太郎は。もー泣いちゃうぞ?」
「ごめんなー、遼。うちのアホ橘が。こんなやつほっといていいよ」
「あ、はい…」
俺は苦笑しつつトイレへ向かった。
「お!新太!」
「おー!遼!絶対的に会いたかった!」
トイレの入口で新太に会った。
「無理矢理絶対的に○○使いすぎ!文脈おかしいだろ」
「いいだろー日本語は自由だ!」
お互いに笑い合う。
トイレをしつつお互いに話す。
「で、どうよ?遼も試合みてたんだろ?どっち勝つと思う?」
「俺は両チームに昔からの知り合いいてさ。どっちが勝つとか言えねーよー」
「へー、そーなんだ!俺は王陵には申し訳ないが天童だなー」
そりゃそうだろう。天童は氷陵以外にもミニバスMVPの1人の神杉炎太や、母親か全日本のPG・宇都宮賢がいるのに対し、王陵は旭だけ。層の厚さは目に見えてわかる。
時計をみると、もう2Qが始まっていそうだった。
「やっべ、時間が!もう2Q半分終わってんじゃね?」
新太も気づいたようだった。
俺らは走ってコートへ向かった。
階段を上ると、2Qは残り3分半。30対11。なんと王陵の得点は1Qから1点もないのだ!
「あっちゃー、こりゃ天童の勝ちは決まったも同然かな」
新太はそう言い残し、颯爽と階段をさらに登り、先輩の元へ向かって行った。
「くっそ!」
またもや宇都宮賢、氷陵のダブルチーム。旭は相当苦しんでいるようだった。
そして宇都宮がボールを奪い取り、そのまま宇都宮がレイアップ。
32対11!
「審判、タイムアウトお願いします」
旭は言った。
意外と知られていないが、一応顧問以外にもそのチームのキャプテンはタイムアウトを申請出来る。
「王陵ってチームは姫宮君がなんでもやるのね…すごいって思うけど…逆に姫宮君を潰したら本当に王陵は終わりってことかな」
宇都宮京子監督はボソリとつぶやいた。
「タイムアウト、遅いな。やっぱ生徒が顧問兼任してるみたいだし。あそこにいるおっさんは、単なる飾りだろーな」
西内は言った。
「そーっすね…もう21点差。トリプルスコアくらいついてますし、普通の顧問なら点差が2ケタに到達する前にタイムアウト取るでしょう。俺が顧問ならそうします。やっぱり生徒が顧問やってるから、心のどこかにまだできるっていう思いがあったんでしょうけど…それが逆に仇となったというか…」
新太は言った。
「完全に完封されたか、王陵、そして旭…」