第51Q 「宮対決」
体育館は独特な熱気に包まれていた。区の準決勝ということもあり、観客もどんどん増えていた。
俺が体育館に入った瞬間、神杉炎太がジャンプボールに勝ったところだった。
「あの子…でかっ!」
女バスでは1番小さい彩がビックリして言った。
ボスッ!また腹を蹴られた。なんだこいつは、本当の超能力者か?
ボールをPGの宇都宮賢が受け取る。身長は170前後だろうか。中3で、天童中の顧問・宇都宮京子の息子だ。
宇都宮京子…全日本女子の4番をつけていた選手で、オリンピックではチームを20年ぶりの銅メダルに導くなど、PGとしては頭脳明晰、冷静かつゲームメイクも完璧で、読みも当たる、隙のないPG。その頭の良さとインタビューの受け答えの素っ気なさから、頭の良さそうな外見と真面目なイメージになぞらえて一部メディアでは「お坊お京」と呼ばれた。そんなあだ名のくせに、宇都宮の出身地は京都ではなく大阪であることを付け加えておく。
その宇都宮から氷陵にボールが渡る。
「頭からかますよ。準備はいいかい、旭?さあみんな、Ready…go!」
氷陵の英語の無駄に良いので腹が立つ。
「なにあのイケメン…英語めっちゃ流暢だし」
彩がボソッとつぶやいた。
「なに言ってんの!恭介くんの方がイケメンだから!」
恭介ゾッコンの空にはあの美形の氷陵でも目に入らないらしい。少なくともあの無駄に暑苦しい恭介よりは氷陵の方がかっこいい気がすんだけど。
恭介は顔を真っ赤にしている。
もうこいつら付き合えよ。
氷陵は丁寧にレッグスルーを挟んだ後、思わず見惚れてしまうようなシュートフォームで2Pシュートを放った。
天童 2 - 0 王陵
パスッ!布とボールが擦れる音すらほとんど聞こえない完璧なシュートだった。
旭は悔しそうな顔をしながらすぐに攻める体制に入る。やはり旭の良いところはすぐに気持ちの切り替えが出来るとこだ。そこが旭の粘り強さに繋がってるのかもしれない。
「なんだ、あいつらは?見たことねー顔だな」
試合を引き続き見ていた宮之城中キャプテン、西内武志が言った。
「姫宮旭と京宮氷陵。アメリカ育ちらしいですよ」
新太が答えた。
「ほっほう!天童の勝ちは決まったかとおもってたが、思わぬところに伏兵がいやがったか。注目するのは神杉だけかなと思ってたんだが。ってか名前的に、宮対決だな!どこの京都かよっ!ってか?」
一瞬にして空気が凍りついたのは置いておいて、西内は続けた。
「ていうかそんな情報どこで仕入れたんだよ」
「両チームのマネージャーに聞きましたよ。王陵のマネージャー、モデルみたいでした」
西内は新太の人見知りのしなさを分けてもらいたいと思った。
「こっちもやり返すで!」
旭は言った。
旭はボールを運びつつ、PGの糸満に渡す。こいつは名前でも分かる通り、沖縄出身だ。
「ハイハイサー!」と糸満が返事をした後、糸満はドライブで相手に切り込んでいった。
そして相手を引きつけ、旭にパス。
旭はわざわざ3Pラインの後ろへバックステップし、シュートを放った。
バスッ!完璧なシュートだった。
「逆転や!」
旭が叫び、2対3となった。
宇都宮がボールを運び、氷陵にパス。
「いくら旭ががんばってもさー…炎太のとこのミスマッチはどうしようもないんだよねー」
ボールが炎太に渡ると、相手センター、168cmの野中を吹き飛ばし、冷静にポストプレイでゴール下から得点を決めた。
「王陵は全員1年だからなー…」
遼はぼそっとつぶやいた。
「え、そーなの?あの175くらいあるさっき3P決めた子も?」
空が言った。
「あいつも中1だよ。中1にしてはでけーよな。ただ炎太とか見てるとそんなデカイとも感じねーけど」
「それ感覚麻痺ってるから!」
彩が遼を叩いた。
「にしても、今年の彩都の1年はレベルが高いな。やっていて楽しいのだよ」
伊龍翼がボソリとつぶやく。
「女子はレベル低いけどな」
麻莉奈もボソッと呟いた。
なんだこのクールな2人組は。
1Qは残り3分。
それぞれ王陵・旭の3P、天童・炎太の2P、王陵・Cの野中の速攻でのレイアップ、天童・宇都宮のドライブからのレイアップで加点していた。8対8。
旭がボールを運ぶ。野中、糸満とボールが渡って行く。
糸満が3Pを放つ。
ガコンッ!シュートは落ち、炎太がリバウンドを取った…と思った瞬間、旭がボールをスティールしそのままゴール下を決めた。
「バスケットカウント!ワンスロー!ファール、白10番!」
炎太は焦ったのかファールをしてしまった。
その瞬間、宇都宮京子がタイムアウトを取った。
天童 8 - 10 王陵