第49Q 「残酷な金網」
パスッ!クッ!ピュルルルル!
氷陵のプレイは、まさに見本だった。
まるで体育の教科書に出てくるようなフォーム。
基本に忠実で、美しい。
遼は思わず見とれてしまっていた。
ストリートのコートは、氷陵の独壇場になっていた。
「Good D!(ナイスディフェンス!)」「Good shot!(ナイスシュート!)」「Good ball!(ナイスリバウンド!)」
そこら中から氷陵をほめる歓声が聞こえた。
点数はいつのまにか9対9。
同点になっていた。
「やるな、氷陵!」
俺と旭は氷陵を素直にほめた。
「いやー、君たち2人が居てくれるからだよ!ディフェンスもその分甘くなってるし」
氷陵は微笑しながら俺らに笑顔を振りまいた。
その時だった。
ガシャン、とコートに大きな音が響き渡った。
「やあ、氷陵君」
「Jin…!」
振り返ると、モヒカン姿の男が立っていた。日本語を喋っている?日本人か?
ただこの距離では、それは判断しようがなかった。
身長は俺と同じくらいだろうか…?
俺は氷陵の方を見ると、このクールな顔立ちからは想像出来ない怒りが顔に現れていた。
「おい…お前…なんでここにいる!?なぜこの場所が分かった!?」
氷陵はジンと呼ばれた男に近付くと、今にも殴りかかりそうな勢いで罵った。
「いやあさ…君のコート、潰してあげたのに…まだ君が色々なコートを渡り巡りながらバスケを続けているって聞いたから…そもそもさ、バスケをする場所全てをぶっ潰してやろうかと思ってよ」
「お前は、お前はバスケが嫌いなのか!?」
「ああ、嫌いだよ。あのクソ親のせいでなあ!?」
タイラーはこっちに寄ってきて、英語でジンにまくし立てた。
その英語を旭が訳し、ジンに伝える。
「『なんなんだ、お前は?何か文句があるならバスケでかかってこい』だってよ」
「バスケだあ?笑わせんなよ、カスが。俺はなあ…バスケじゃ勝負しねーんだよ。俺の得意な勝負ってのは、こ、っ、ち」
その瞬間、ジンは指を鳴らした。その瞬間、コートの周りを囲っている金網が倒れてきた。
「じゃあな氷陵。コートじゃなく、お前ごと消してやるよ。お前らは気づかなかったみたいだなあ!?この金網が昨日の夜に切られて、この金網を支えていたのは1本の柱だけだった、ってことを」
金網が落ちてきた。
このまま行くと、金網に俺、旭、氷陵、タイラーが巻き込まれる!
金網に巻き込まれて潰されると、命がないのは明白だった。
ど、どうする…!?!?
その瞬間だった。
タイラーが金網を背中で支えたのだ。
「run away!(逃げろ!)」
タイラーが金網を支えられていたのはほんの1秒だろうか。
その間に俺と旭、そして氷陵の3人はバスケで研ぎ澄まされた反射神経を生かし、金網の下から逃げた。
その瞬間だった。
ガッシャンッッッッッ!!!!
背後で大きな音がした。