第42Q 「SG対決」
ハーフラインを超え、俺は橘に対峙した。
「さーて、終わりかな?西成中さんよ」
橘は笑っていた。
「実はこの4Q―俺は3Pを1本も決めてないんだよ。お前に笑っている暇があるほど、俺らは図抜けたオフェンスはしてねぇ!」
「来ると思ったよ。お互いMVP同士、息が合うねぇ!」
読まれたか―?
俺はシュートモーションに入る。
「俺は、チームを引っ張んなきゃいけねぇんだよ!」
「それはこっちも同じだ!」
シュートを放つ。
ボールは橘の手の指先を超えた。
入った―
放った瞬間、俺は確信した。
ピュルルルルルルルルルル!
バスッ!
「きゃああああああああああ!」「逆転だ!」「鉄平、よくやった!」「榊先輩、ナイス!」
西成ベンチが湧いた。
「4Q、3P1本目!このまま突き放せ!」
美奈っちが右手をあげて叫んでいた。
55対54!
さすがだ―
こんなところで3Pを決めるなんて、どんな奴だよ、榊先輩!
凄すぎる!
「ファストブレイク!」
橘は叫んだ。
しまった!
竜太郎は先に走っていた。
速い!この終盤に来て、どんなスタミナしてんだよ、こいつ!
一番最初に3Pラインに到達したのは―
竜太郎だった。
「頼んだ、竜太郎!」
橘からの弾丸ロングパスが竜太郎めがけて飛んで行った。
「待てやこらあああああああ!」
榊先輩が叫びながら走っていく。
榊先輩も、速い!
バシッ!
パスを受け取る時の乾いた音がコート中に響き渡った。
竜太郎はゆっくりとシュートモーションに入った。
俺はその瞬間、追いつけないことを確信した―
ビュルルルルルル!!
バスッ!
審判は3本指を体育館の天井に突き上げていた。
「きゃーーーーーー!」「竜太郎!竜太郎!」
歓声とため息。
その2つが入り混じり、体育館に響き渡った。
55対57…
「走れ!こっちもファストブレイクだ!」
黒船先輩がすぐにボールを榊先輩にパスした。
「ボールください!」
俺はその瞬間、榊先輩とアイコンタクトをした。
分かりましたよ、榊先輩―
ここは1年以上チームを引っ張ってきた熟練の経験を持つ、榊先輩に任せます!
俺は榊先輩から魂のこもったパスを受け取る。
俺は倫太郎と対峙する。
俺はレッグスルーで一息ついた。
ダムダムダム―
乾いた音が響く。
右へのクロスオーバーから、左のクロスオーバーフェイク!
そしてそのまま左でぶち抜いた!
キュキュキュッ!
だが俺は倫太郎、橘の2人に囲まれた。
さすが2人とも、速いな―
ディフェンスのスペシャリストと言われてるだけあるぜ。
ただな、今回はそれがあだになったみたいだな!
俺はシュートモーションに入った。
2人が飛び上がる。
「引っ掛かりましたね。うちの得点を決めるのは、僕だけじゃありませんよ?」
2人は空中で、しまった―という顔をした。
俺は後ろに居る榊先輩を横目で確認した。
俺は左手を返し、そのまま3Pライン上に居る榊先輩へパスをした!
「頼みます!」
「任せとけ!」
榊先輩は完全にフリーだった。
ゆったりとしたシュートフォームから、鋭いシュートが放たれた。
誰の目から見ても、そのシュートは入ると分かった。分かってしまったのだ。
バスッ!
一瞬の静寂。
見事な2人の連携パス。
美しい攻撃だった。
「きゃーーーーーーーーーー!」
会場が一気にわきあがる。
「西成!西成!西成!」
今の1つのプレイで、会場の観客は西成寄りになったようだ。
さすがバスケだな―1つのプレイで観客の胸を打つ。
ホント、バスケっておもしろいぜ!
58対57!
「ふぅ…ミーティング終わった終わった…」
めんどくさそうに炎太が体育館の熱気あふれるコートに入った。それに続いて氷陵もコートへ入る。
「それにしても暑いね…」
氷陵がつぶやく。
バスッ!
「おっと…?」
非常に乾いた、聞いていて心地の良い音が体育館に響き渡る。
この音をiPodにでも入れてずっと聞いていたいものだ。
沈黙の後、会場が大きく湧きあがる。
その瞬間、西成の得点が55から58に変わったのが氷陵に確認できた。
「ふふふふふ…ははははは…この試合、本当に面白いね…3P対決か…市でも屈指のSG、榊鉄平と早田竜太郎。試合の命運は、この2人のSGにかかっていると言っても過言ではないね…」
氷陵は面白そうにつぶやいた。
その瞬間、氷陵に見慣れない人が目に入った。
「おまえ…!!!」