第41Q 「もう3分じゃない、まだ3分だ」
審判がコートへ戻ってくる。
「ピーーーーーーーッ!!」
審判は再度笛を吹いた。
どっちだ!?
頼む、立修学園のブロッキングであってくれ!
「ブロッキングファール、白5番!バスケットカウント、ワンスロー!」
会場がどっと湧いた。
「うっしゃあ!」
俺はつい叫んでしまった。
横目を見ると、桜や美奈さん、和泉先輩や神宮寺先輩が手を叩きあって喜んでいた。
ポンッ!
頭を優しくたたかれた。
後ろを振り返ると、榊先輩が満面の笑みで俺に笑いかけた。
「よくやったぞ、遼!さすが俺の相棒だ!」
「はいっ!」
俺は大きな声で返事をした。
これだからバスケは楽しいんだ!
最高だ…!
観客の歓声が心地よかった。
自分が主役のような気がした。
「よくやった、遼!」
恭介とハイタッチを交わす。
「さすが遼だな。フリースロー、落ち着いて決めるんだぞ。外したとしても俺らがいるぞ」
黒船先輩が優しく俺に話しかける。
「さすが兄弟エースだな。見とれちまったぜ、遼。フリースローも頼んだぞ、うちの命運はお前にかかってる」
長瀬先輩が俺の肩を叩きながら言った。
俺はフリースローラインの前に立った。
ダム、ダム、ダム―
俺はドリブルを3回ついて、ボールを手元で回した。
そして俺はゆったりとしたシュートモーションから、シュートを放った。
ピュルルルルルルル!
しまった―
この瞬間、シュートが外れると確信したものは2人いた。
1人は吉見遼―
もう1人は―
「おらあああああああああああああ!!」
榊先輩だ!
「榊先輩!」「鉄平!」西成ベンチがわきあがる。
ガコンッ!!
「おらああああああああああああああ!舐めんなよ!」
橘もボールを狙いに行く!
だが俺は勝ったのは榊先輩だと確信した。
「とりゃ!」
榊先輩がリバウンドを取った―
かに思えた。
バシン!
「さっきのお返し!俺は忘れてないぞ、鉄平!」
「藤馬っ………!!」
橘は榊先輩がリバウンドを取った瞬間、榊先輩がそのまま手元に引き寄せたボールをスティールした!
「戻れぇ!」
橘が落ち着いて走りだす。
みんなリバウンドで競っていた為、ディフェンスへ戻っていたのはフリースローラインに居た俺だけだった。
橘と倫太郎、竜太郎の3対1の完全なアウトナンバーだった。
「頼むわ、吉見君っ!」「遼ーーーーー!!!」
ここで、抑えてやる………!
橘はそのままシュートを放った。
ブロックしてやる!
「おららああああああああああああ!」
俺は残りの力を使って最大限に飛び上がった。
いや…待てよ!?
俺はシュートの軌道が異様に低いことに気がついた。
シュートじゃない!
そのままリングの前をかすめたボールを倫太郎がキャッチし、そのままタップシュートを放った。
「遼君、だめぇぇぇぇぇ!!」
桜の声が聞こえた瞬間、笛が鳴った。
「ピィィィィィィィィィィーーーー!!!」
バスッ!
シュートは見事にスウィッシュした。
「バスケットカウンッ、ワンスロー!ファール、青8番!」
ゴンゴンゴン…
ボールは地面に転がった。
「きゃああああああああ!」「倫太郎、ナイス!」
立修学園ベンチが盛り上がり、観客も大騒ぎしていた。
やってしまった―
この4Q終盤で相手にバスカンを与えてしまった―
完全にさっきのバスカンで舞い上がってしまった―
油断した…
くそがっ!!
西成 52対53 立修学園
ふっ…残り3分でやってしまったな、吉見。
完全に油断をしていただろう。
残り3分で相手にバスカンを与えるのは、西成にとっては致命傷だ。
味方のモチベーションにもかかわるだろうな…
もう3分じゃない。まだ3分あるんだ。
体もプレイもうまくなってるが、精神はまだまだ小学生だな、吉見。
これは大きいぞ。
「ここで突き放せ!」
川松は叫んだ。
頼むわ…早田君、フリースローを外して!
美奈さんは心から願った。
「ドンマイや。ナイスファイト。よくやった」
榊先輩―
「いくら倫太郎と言えど、4Q残り3分でこの状況、プロじゃないんだから外すかもしんねぇぞ?頭切り替えて、ディフェンスリバウンドを取られるな!」
「はいっ!」
そうだ!まだ試合は終わっていないんだ!
「ワンショット!」
ダムダムダム―
倫太郎の規則的で乾いたドリブルの音が静まり返った体育館の中に響き渡った。
「ふんっ!」
倫太郎が踏ん張る声を出し、そしてボールを放った。
スクリーンアウトだ!
小清水、お前には負けない!
バスッ!
だが無情にも、シュートは完璧。
「さすがは早田君ね…こんなとこでフリースローを決めてくるとは、どんな心臓をしているの…!」
美奈さんはつぶやいた。
遼―
俺は遼の疲弊した顔を横眼で見た。
1年なのに、お前ばっかに負担をかけてすまんな…
和泉先輩がコートに居ない今、チームをエースとして引っ張っていかないといけないのは俺なのに…
何も出来ない自分が辛い。
そもそもさっきのプレイだって、俺が油断をしていなければ、ボールを取られなかったはずなのに!
あぁ、駄目だ駄目だ。
余計なこと考えんな、俺―
ハーフラインを超え、俺は橘に対峙した。
「さーて、終わりかな?西成中さんよ」
橘は笑っていた。
「実はこの4Q―俺は3Pを1本も決めてないんだよ。お前に笑っている暇があるほど、俺らは図抜けたオフェンスはしてねぇ!」
「来ると思ったよ。お互いMVP同士、息が合うねぇ!」
読まれたか―?
俺はシュートモーションに入る。
「俺は、チームを引っ張んなきゃいけねぇんだよ!」
「それはこっちも同じだ!」
シュートを放つ。
入れっ…!