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バスケ道  作者: yama14
本編
48/72

第35Q 「ダンク」

点差はなんと20点差を超えていた。



22対43。



今の曇り空のように、西成ベンチは沈んでいた。


「榊君!」

「鉄平!」

「榊先輩!」

みんなに呼ばれた。


「この点差を、どーにかして!」


そうだ…


俺には、仲間が居るんだ!


こんなところで負けて居られねぇ!


西成のみんなのために、勝つ!




※※※※※※※※


ピー!


美奈さんが3Q2度目のタイムアウトを取る。


榊先輩は戻って来ていた。雨が降っていたのか、髪が濡れている。

「分かったわ…ついにあのエルボーパスのカラクリが!」

俺も分かった。つい数秒前に。


さっきのプレーで確信が持てた。


エルボーパスはパスを出す人が肘をぶつけるかぶつけないかでパスを出す方向が変わるため、相手のみならず、パスを受ける味方もパスを出す方向がわからないのだ。

だからエルボーパスを出す方向を味方に指示するサインがあるはず。

俺はそう確信していた。


「ドリブル、ですよね?」

俺は美奈さんに確認する。


俺が不思議に思ったのは橘がフロントコートに入った瞬間、3Pラインの相当手前でずっとドリブルをし続けることだった。しかも丁寧に、ゆっくりと。

そんなところで立ち止まっていては、シュートはないと言うようなものである。


だから不自然なのだ。


そこから俺はドリブルの回数に着目した。


すると…


「そうよ、吉見君!さすがね!フロントコートに入ってからのドリブルの回数が奇数回の場合はディフェンスする私達側から橘君を見る方向で右、偶数回の場合は左よ!やけにドリブルが遅いのは、みんなにそれを伝えるためよ!早ければそのような情報を上手く伝えることが難しいしね!」

「なるほど!」

西成バスケ部員の声が重なる。


「いい?こっからよ、私達の本領を見せ付けるの!分かった!?」


榊先輩が叫んだ。

「打倒、立修学園、絶対勝つぞ、西成、エイエイ!?」


「オー!」


みんなの声が重なった。




榊先輩と佐藤撥先輩が交代し、ゲームは再開した。

3Q残り3分。





「あんな選手へ大きい口を叩いちゃったけど…」

美奈子はは隣にいた神宮寺凛へ話しかけた。



「多分、3Q15点差まで詰めないと、西成は負けたも同然や。ただ西成、ようやく橘のエルボーパスのカラクリがわかったみたいやで?」

旭がうららに話しかけた。



「さーて、こっからか、西成は。うちにチャレンジしてくるチームはどちらかな?」

氷陵はつぶやいた。

炎太は笑いながら言った。

「どっちでもいい。どっちにしろ潰すだけだ」

「まー俺はどちらかと言うと西成に来て欲しいけどね…フフフ…」

氷陵は不敵な笑みを浮かべ、試合を眺めた。





ボールは立修学園ボール。


橘がフロントコートに入ってくる。


ダム、ダム、ダム、ダム、ダム!



ドリブルの回数は、5回!

右だ!



俺は手を出した。


ボールに手の先がかする。


「なに!?」

橘が叫ぶ。

「ルーズボール!」

俺は叫んだ。



ボールをとった男がいた。


遼!


遼はそのままボールをとり、レイアップ!



3Q初の得点!



「きゃー!西成!西成!」

西成ベンチから叫び声や歓声がこだまする。


24対43。


「偶然だ、偶然!」

倫太郎が橘を励ます。


それが、偶然じゃねーんだよな!



橘がフロントコートに入る。

ダム、ダム、ダム、ダム!


4回!


左だ!


左の方向へ飛んだボールを俺はカットした!


「鉄平いいぞ!ナイスだ!」

和泉先輩が叫んでる!


「キャーーー!!!」


こっからだ!


行くぞ!



俺はわざと3Pラインの手前で止まり、3Pを打つ。


俺はシュートの行方を見ずに振り返った。


シュートタッチは、完璧…


俺の後ろでシュートが入る音が聞こえた。


27対43!



橘がまたドリブルをする。橘が竜太郎へ向けてバックコートから一気にフロントコートへパスをした。


パシン!

遼がパスカットした!


「遼ー!」「よっしゃあ!」「ナイス!」

西成ベンチが湧きに湧く。



「どうした、藤馬!ヤケになったか?」

「うっせーよ!」


遼は先に走っていた黒船先輩へパス!


「遼もパフォーマンスが好きだな」

俺は笑った。


遼のパスを空中で受けた黒船先輩は、そのままタップシュート。


29対43!





「さーて、こうなった時の西成を止めるのは難儀だぞ」

氷陵はつぶやいた。





ダム、ダム、ダム!


3回、右!


俺はボールをカットし、そのままドリブルをし、3Pを放った。


俺は振り向きざまに橘へ話しかける。


「今日は落ちそうもないんでね」



バスッ!背後でシュートが決まる音がした。



32対43!





「こりゃ15点差じゃなく1ケタ差まで行きそうやな」

旭は笑いながら言った。

「遼も凄いけど、さっきから3Pを打ってる人もすごくない?」

うららが旭へ聞く。

「ああ。あいつは凄いな。シュートの行方、つまり入ったか外れたかを見ないっちゅうことは、そうとう自分アウトサイドシュートに自信を持ってるんやな。あいつ、自分では気付いてないかもしれへんが、相当なSGやで。特に3Pは彩都、いや、県レベルや」

しみじみと旭はつぶやく。


「3Q残り1分。どこまで追いつくか、やで」






「お前、俺がパスだけだと思うなよ!」

橘が3Pシュートを打つ。

めちゃくちゃなシュートだ。

冷静さを失ってる。


バコンッ!


3Pは大きく外れ、ボールは空中へ浮いた。


「リバウンド!」


「うぉりゃあああああ!!」


遼はボールを奪い取り、俺へパスをした。


先に走っていた恭介へパス。


恭介は難なくゴール下を決めた。


34対43!


「キャー!行け行け西成!押せ押せ西成!」



必死に追いつこうとする西成プレイヤーを前にして、観客も徐々に西成を応援する声が多くなって来た。



「そりゃそーやろな。追いつこうと必死に頑張る西成、逃げようとする立修学園。応援したくなるのはどっちや、って聞かれたらそりゃ西成やろな。まるで立修学園にとってはアウェーみたいや」





観客の声援が心地よい。

「行け行け!押せ押せ!」

体中からアドレナリンが吹き出し、止められない。


シュートが外れる気がしなかった。


またもや榊先輩が橘のエルボーパスをカットし、俺へパスを渡して来た。



「うちのチームで3Pを打てるのは、榊先輩だけじゃねぇんだよ!俺を忘れんな!」

3Pを放つ。


シュートタッチは、



「完璧や…」

旭はしみじみとつぶやいた。


バスッ!



「うおっしゃああああ!」



37対43!



「西成、頑張れー!」「そこのでかいやつ、いいぞー!」


コートの周りから応援の声が聞こえてくる。


最高だ!逆転してやる!


「残り10秒!もう1シュート取るぞ!」


榊先輩が叫ぶ。


橘がエルボーパスを見破られたと察したのか、倫太郎へ普通にパスを送る。


「どーした、双子さんよ」

俺は倫太郎へ挑発をしかける。

「黙っとけ!」

さすがの倫太郎もこれには焦るのかな?

見え見えのドリブル。


小さい体から放たれるめちゃくちゃな弾道の低いシュートをブロックするのには、立っているだけで十分だった。



バコンッ!



「キャーーーーーーー!!!」


観客から声が聞こえてくる!




俺は先頭を走り抜ける。


ボールは前へ吹っ飛んでいた。


待て、ボール!



俺は横目でタイマーを確認した。


残り5秒!


点、取れる!



俺は前へ飛んだボールを全速力でキャッチし、そのまま飛んだ。



あれ…?

飛びすぎた…?


そう思った瞬間、俺はリングの上に手がある事に気づいた。


マジかよ!!!


「うぉぅりゃぁぁああああああああああああ!」


バコンッッッッ!!!!


リングに手がかかり、俺はそのまま背中をコートに打ち付けた。



バコンッッッッ!


いってぇ……



会場に一瞬の静寂が漂う。



「ダンクだ!」


榊先輩の声を皮切りに、観客中から体育館が震えるほどの叫び声や歓声が聞こえた。


「ダンクだ!」「ダンクなんて初めてみた!」「やばすぎんだろ!」「かっけぇ!」「どんなジャンプ力してんだよ!」

そこら中から声が聞こえる。



ビーーーーーーー!!!


3Q終わりの笛が鳴った。


39対44!



俺は榊先輩に手を貸してもらった。


「よくやった!俺も初めて見たぞ、生ダンク!凄いな、遼!よくやった!」


俺は実感がわかなかった。


ただ試合が終わったわけではなかったのだが、目から涙がこぼれて来た。


ダンクだ…ダンクだ…



やった…



ダンクは小5のあの日以来2度目だった。


あの日はなんで出来たのかはわからなかったが、この日はきちんと出来た理由が分かる。


俺が、強くなったからだ。


「うっしゃああ!!!」


俺は叫び声をあげた。

その叫び声は体育館中に響いた。



「よくやったわ、遼君!私、動画とかではダンクは何度も見た事あるけど、生では初めて!良いもの見せてもらった…本当にかっこよかった…惚れちゃいそう…」

美奈さんがうっとりとつぶやいた。

「美奈さん!そーいうこといわないでください!」

桜は顔を真っ赤にして怒った。

「あ、ごめんごめん」

美奈さんは申し訳なさそうにいう。

「それにしても、凄いわよ!遼君、さすがねー」

神宮寺先輩も感心したように言う。

ポンポンと肩を叩かれ振り向くと、和泉先輩が居た。

「よーくやった!あのプレイで一気に流れがこっちに傾いた!」

髪をぐしゃぐしゃにされ、和泉先輩は本当に嬉しそうに言った。

「ありがとうございます!」

佐藤先輩にも、

「ダンクのコツを教えてくれ」

と冗談まじりに笑いながら言われた。

みんなに褒められると、やっぱり照れる。


美奈さんは手を叩く。

「パンパン!よし、褒めるのはここら辺までにしといて、4Qが始まるわ!スコアは39対42!流れは完全にこっちでも、4点差で負けてるわ!多分あっちも橘君のエルボーパスのサインを見破られた事に気づいたでしょう。これからは、エルボーパスを使ってこないと思うわ!多分あっちももう策は尽きたでしょう。こっからはお互いガチンコ勝負!個々の力量が試されるわ!高身長布陣はそのまま!和泉君、佐藤君、ごめんね?よし、言って来い!何も指示はないわ!マンツーマン、後はやるだけやるだけよ!ファイト!」



和泉先輩が叫ぶ。

「俺は本当に何も力になれずすまないが、俺の分までみんな、頑張ってくれ!俺は、お前らを信じてるぞ!西成、ファイト!」



「ファイ!」


声が重なる。



ガチンコ勝負、4Qの初まりだ。





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