第34Q 「勝った方がすべて正しい」
「誰だとはなんなんですか、初対面の人に対して。もー失礼だなぁ…あ!君の学校に居る僕の知り合いによろしく言っておいてくださいね!あ、あとバスケ下手になったねーとも。そいつの名前は、吉見遼。そいつとは俺が転校してきた4年の頃からの知り合いでね。頼んだよー」
そう吐き捨てて、そのまま後ろを向き俺へ手を振りながら、大会会場を後にしようとした。
遼の知り合いか?
それにしてもなんなんだこいつ。失礼な奴だ。
「ちょっと待てよ!そんな事言われちゃ、こっちも腹が立つんだよなぁ!名前を名乗れ!誰だって言ってんだよ!お前!そしてお前の学校、ぶっ潰してやる!」
「おっと申し遅れました。雲仙第三中でCをしてます、東條翔と申します。以後お見知り置きを」
雲仙第三!?
彩都市で1番強い、いや、県内で1番バスケが上手い学校だ…
最近はさらに快進撃を続け、全中では7年連続優勝している。
さらに今年はこいつ…東條翔の加入だ。
こいつのお陰でさらに強くなり、今年の全中も優勝予想は全てが雲仙第三だ。
東條翔…
吉見遼、東條翔のダブルエースで宮本小を優勝に導いた2人だ。
月刊バスケにも特集が組まれていたはずだ。
「お、お前春季大会予選は!?」
「あー、そんなのうちの学校にはないんですよ。シードですよ、シード。それにしても遼は本当にバカだなー!そんな弱い学校に行って。本当あんたのような雑魚と戯れていたら、遼も雑魚になるのになぁ。あ、もともと雑魚か!」
「んだとてめぇ!」
俺は殴りかかろうとした。
「おーと、待って待って。落ち着いて落ち着いて。殴りでもしたら、あんた方の学校大会出場停止になりますよ?いいんですかね?もしそれでもいいんだったらどうぞ、殴りかかってきてくださいな?」
東條は顔に笑みを浮かべ、俺を完全にバカにしていた。
どうぞ、殴りかかってきてください、というふうに。
俺は何も手を出す事が出来なかった。
くそが!
完璧に舐められている。
だが、何も言い返す事が出来ないのも事実であった。
「あ!後さっきうちの学校を潰すとかわけのわからない寝言言ってましたけど、あんたらが今13点差で負けてる立修学園、前練習試合したんですけどね、123対45で勝ったんですよ!本当もう弱すぎて。3Qからは2軍出したんですけどねー。2Qまでは100対0だったかな?3Qから出た2軍は完全に遊んでて、みんなで試合中に3Pコンテストをしてるんですよ?だからね、俺が点数を綺麗にしたら?って言ったら、2軍は急に頑張り出して、123対45ですよ?12345!これは傑作でしたよ、アハハハハ!やっぱり面白くない試合はこうでもして楽しまないとダメなんですよね、本当。俺らがずっと出て本気出してたら300点超えてたんじゃないですか?」
こいつはバスケをバカにしている!
こいつはバスケを冒涜している!
バスケを好きな奴に、悪い奴はいねぇ!
バスケを、舐めんな!
「バスケを頑張って、必死に練習して、それでも勝てなくて悔しい思いして、必死に必死にボールを追っかけてる奴のことを、バカにしてんじゃねぇ!バスケのボールには、いろんなもんが詰まってるんだよ!」
東條の笑い声が、曇りがかった空に響く。
「アハハハハ!どこの漫画の臭いセリフの受け売りですか?そりゃすごいなぁ!バスケを好きな奴ねぇ…勝てないのに黙ってろって感じですね!結局そうでしょ?勝てないのはなんで?ちゃんと練習してない、ちゃんと試合に集中してない。そーいうところでしょ?そういうことが出来てない奴が言い訳のようにそーいう寝言を言い出すんですよねー『バスケを好きな奴をバカにするな』とか『バスケを頑張ってるやつに対する態度じゃないとか…』本当雑魚がそうやってあーだのこーだのプレイじゃなくて言葉だけしか言ってない。あーあ、面白いなぁ…アハハハハハハハ!つまり、バスケは勝ったほうが全て正しいんですよ?分かりますか?才能がないやつは引っ込んでて欲しいですよ。俺はその点ちゃんと有言実行してますけどね」
とても腹が立った。こいつは本当にバスケをバカにしてる!バスケを勝つだけのスポーツだと思ってる!
ただ、東條へ何も言い返せない自分もいた。
自分へ腹が立った。
俺が今年対戦して来た宮之城、千束、仙道、そして今戦っている立修学園…強い弱いは関係なしに、みんなバスケのことが好きなんだなっていうのが伝わって来た。
ただ、こいつはそういう気持ちが何も伝わってこない!
「東條。お前は、バスケが、好きなのか?」
東條は少し考え込んでから言った。
「バスケ、ですか…小学校の時に起きたある1件から勝つためだけにあるスポーツになっちゃいましたねー。昔は好きだったんですけど」
ある1件?
東條にバスケを嫌いにさせた、ある1件とはなんなんだ?
「ある1件って、なんだよ!」
俺は最大限の声を出し、大声で叫んだ。
すると東條は腕時計を見て思い立ったように言った。
「おっと、もう時間だ!お家へ帰らなきゃ!ある1件、ですか…」
東條が言いかけた瞬間、雨が振り始めた。
「凄い雨だ。早く帰らなきゃ!」
そう言い残し、東條は後ろを振り返り、俺に手を振りながら去って行こうとした。
「おい、東條!待てよ!ある1件とはなんなんだ!?」
東條は少し立ち止まりこう言った。
「ある1件は遼が1番知っていると思いますよ。教えてくれるかどうかは分かりませんけどね。それじゃ、まーせいぜい雑魚同士頑張ってくださいねー。試合もう終わっちゃいますよ?ただでさえ負けてるのに…あ、もう負けるのは決まっちゃったかな?まーせいぜいあがいてくださいね!それじゃ、また何処かで会いましょう!」
東條は歩いて会場を出て行った。
「東條!お前、いや、雲仙第三を、ぶっ潰してやる!待ってろよ!」
東條はこっちを振り向き、高らかに笑いながら去って行った。
腹が立つ。後遼にもこの件について聞かなきゃならない。
なにがあったのか、宮本小で…
まぁとりあえず試合だ、試合に勝たなければならない。もう3分ほど立ってしまっている。
それにしても凄い雨だ。部活の上着が濡れてしまった。このままじゃユニホームも濡れてしまいそうだ。
雨が強くなり、地面が雨を打ち付ける。
「試合に戻らなきゃな…」
雷も鳴り始めた。
東條の態度には腹が立った。
だが、言っている事に何も言い返せなかったのも事実だった。
まあいい。
バスケで雲仙第三に勝って俺らが正しい事を証明してやる!
だがそう意気込みながら試合会場に入った俺は、すぐに絶句した。
「嘘だろ、おい…」