第33Q 「エルボーパス」
3Qがスタートする。ボールは西成ボール。
会場中がざわめいている。
「誰だあいつ?」「なんだあの大きい奴?」「もしかしてPGじゃね?」
準決勝ということで、人も多くなってきた。
その分聞こえてくる雑音も多い。
うるさい!と言いたくなったが、俺は思った。
雑音が聞こえるってことは、集中してないってことだな…
集中しろ、俺。
榊先輩に橘がついている。榊先輩がドリブルをゆっくりとついている。
こっちへパスが来た。
まぁ、そっちがその気ならこっちも本気で勝たせてもらう!
3Pだ!
ピュルルルル!
ガコン!
「リバウンドッ!」
美奈さんが叫ぶ。
だが虚しくもリバウンドは小清水に取られ、そのまま橘へボールが渡った。
「さすがに3Pはまだ荒削りね、吉見君。打てば入るってもんでもないわ」
美奈さんがゆっくりつぶやいた。
橘がゆっくりとボールを運ぶ。
「久しぶり、鉄平。元気かい?」
「あぁ。相変わらずだな、お前も」
「それは褒めてるのかな?けなしてるのかな?」
橘は笑いながらそう言うと、ビハインドパスを倫太郎へしようとする。
その瞬間だった。
ドンッ!
肘に当たったボールは倫太郎ではなく竜太郎の方へ飛んで行った。
竜太郎についていた長瀬先輩は3線の位置まで下がるところだったため、急いで3Pラインまで戻ろうとしたが、ときすでに遅し。
バスッ!
「きゃー!!」
会場中からざわめきが起こる。
「すごい、3P!」
うららはうっとりしたように言った。
「3Pちゃう。その前のエルボーパスがすごいんや」
旭は笑って言う。
エルボーパス(ビハインドパスをしようとする瞬間肘にボールをぶつけ、ビハインドパスをしようとする方向とは全く逆の方向へボールをパスすること)を使える奴がいるとは…
これじゃあ全くパスの方向が読めないじゃないか…
「くそっ!」
榊先輩が悔しさを顔に表していた。
「ドンマイです、榊先輩」
「あぁ、遼ありがとな」
22対31。
9点差。
俺がボールを運ぶ。榊先輩へパス。
「お前だけが変わって俺が変わってないと思うなよ。俺だって成長してるんだ!」
榊先輩が3P打とうとした。
なんと3Pラインの約3歩手前。
これは、落ちる…
「それ以上に俺も成長してるんでね」
バコンッ!
ブロックしやがった!?
見事に立修学園側コートに飛んだボールを橘はキャッチし、先に走っていた倫太郎にパスをした。
バスッ!
綺麗なレイアップ。
22対33。
「す、すごいぞ…あいつの跳躍力。遼にも驚かされたが、橘というやつの跳躍力は下手したら遼より上かもしれん」
俺は撥に話しかける。
榊のショックは相当だろうな、と和泉は思った。
「鉄平!気にすんな!前を向け!まだ点差は11点だ!逆転出来るぞ!」
俺の今出来ることはこれくらいだ。
声を出す。
試合に出れないのは悔しいが、チームの勝利が1番だ。
榊先輩がまたボールを要求してくる。
ボールを榊先輩へパス。
「早いぞ、鉄平!焦るな!」
和泉先輩の叫び声もむなしく、榊先輩はシュートモーションに入っていた。
「バーカ」
橘はそう言って、完璧にブロックした。
「お前もこんなんかよ。落ちぶれたな」
そう吐き捨てた橘は、自分でブロックしたボールを奪い取り、そのまま立修学園側コートに残っていた小清水へパス。
そのままゴール下。
22対35。
「ピー!」
美奈さんはここでタイムアウトを要求した。
「くそっ!」
榊先輩は吐き捨てるように言った。
「榊君、一度頭を冷やした方がいいわ。和泉君、一時的に榊君と変わってくれる?」
「いやだ!俺は交代しねぇ!」
榊先輩…俺らが兄弟と知ったあの日に見てからというものこんな姿を見たことがなかった。
「榊君、落ち着いて!榊君がいないとうちは勝てないのよ!榊君、あなたは西成の生命線なのよ!だから、一時的にベンチへ下がって、自分のプレイを見直して見て!落ち着いて、落ち着いて、ね?わかった!?」
美奈さんが優しく榊先輩に伝える。
「わ、わかりました」
榊先輩はゆっくりと言い残し、ベンチを後にして会場を出ていこうとした。
「おい、鉄平!どこに行く!」
和泉先輩が周りが振り向くくらいの大声で叫んだ。
「あ、ちょっと頭冷やしに外いってきます、2分で戻ってくるんで」
「分かった」
「あー、くっそ!」
会場の校舎の壁を叩く。
うまくいかない。プレーの1つ1つ全てがうまくいかない。
なんなんだよ、これは!
13点差…最後の4点は完全に俺のせいだ…
「あーれー?さっき橘にブロックされまくってたバカがいるー」
ん、誰だ?俺のことを言ってんのか?
振り向くと、180cmくらいの高身長の少年が立っていた。
「誰だ、お前?」