第26Q 「アメリカへ①」
あれは小5の夏休み。終業式が終わり、夏休み1日目。
ミニバスの練習もなく、部屋でアイスを食べていた時だった。
ジリリリリリン!ジリリリリリン!ジリリリリリン!
電話が鳴り、母さんがとる。
「はい!吉見ですが」
……………
「ええええ!?お久しぶり!元気だった?母さんは元気?」
……………
「それにしても大人っぽい声になったわねー!うちの遼とは大違いよ!」
おい、なんの話をしてんだ。
てゆか相手は誰や。俺の名前を言ってるし、俺の知り合いかなぁ?
……………
「うんうん、え、遼に変わってほしい?分かったよー」
下から声が聞こえる。
「遼!うららちゃん!うららちゃんだって!遼に電話変わってほしいだってさー!」
うらら!?なんだ急に!
うららは小2の時、アメリカの小学校へ親の転勤で転校した。うららのお母さんはファッションブランドを経営していて、海外進出をする、ということだった。転校して以来、手紙は交換していたものの、電話はなにかと恥ずかしくてしたことがなかった。
まあ、お互いに気まずかったしな…
あいつには小2の時、アメリカへ行く前の空港で告白された。
その時は告白の意味があんまりわかんなかったし、バカだったから、返事はあやふやのまま、小5までこうして来てしまった、というわけだ。
幼稚園の頃から腐れ縁なのかわからないが、同じ組、同じクラスで、幼稚園、小学校通じて離れた組、離れたクラスになったことがなかった。
それにしても、久しぶりだな…うららか…
下へ降り、母さんから受話器を受け取ると、母さんがお尻を叩いて、
「頑張りなさいよ!」
と言って来た。
何を頑張るんだよ…と思ったが、口には出さず電話に出た。
「もしもし」
「遼!?元気!?久しぶりだねー!」
うららの声は少し大人っぽくなっていた。
「お、おう。うららも元気だったか?」
恥ずかしさの余り、口が乾いて上手く声が出ない。
「元気だったよー!相変わらず遼は買わんないねー!」
「お、お前、俺が成長してないとでもいいたいのかよ?」
「誰もそんなことは言ってませーん!」
「言っとくけど俺相当身長伸びたかんな!お前なんか俺からしたら蟻くらいにしか見えねぇよ!」
「あららー?小さい頃から泣き虫でいっつも身体測定の時私に背負けて悔しがってた遼君はどこに行ったのかなぁ?最後、遼君の家で身長測った時、0.2cmしか勝てなかったのはひやひやしたけど」
「う、うっせーよ!」
「いっつも友達に泣かされて私に守ってもらってたよね」
「……」
「何も言い返せないんだー」
「う、うっせー!で、なんで急に電話して来たんだよ!本題を言え」
「そうそう!私、小2でニューヨーク行ったじゃん?そしてね、最近手紙では言ってなかったんだけど、また母さんの転勤で小5の時サンフランシスコへ行ったんだ!で、こっちで偶然!偶然ね、日本人初のNBA選手の息子さんと同じ小学校になったの!私、ビックリしてさー!しかもその子、まだ英語あんまりしゃべれないようだったし、私話しかけてあげたの!そしたら仲良くなってさー!」
日本人初のNBA選手!?あの姫宮誠のことか!
「そしたらね、夏休み、姫宮君のお父さんが、日本人の子供達にも将来NBAを夢見て頑張って欲しい、っていうことで日本人の小3から小6限定で、なんと無料でNBAジュニアクリニックを開くことになったの!飛行機とか、滞在費用とかも全部姫宮君のお父さんが負担してくれるんだって!10人限定で!とりあえず、まだ応募は始めてないんだけど、私達は特別!ってことで、姫宮君と私はエントリーさせてもらったんだ!私、姫宮君にいつも遼の話ばっかしてたからさ、姫宮君がね、応募始まる前にその遼って友達も連れて来たらどうだ?って言ってくれたの!姫宮君も遼って子と1on1したい!って言ってたし!どう?アメリカ来ない?2週間だけど!その間は私の家に泊まればいいし!」
めっちゃ楽しそうだった!ワクワクした!絶対行きたい!
「バスケできるんだろ?行きたい行きたい!うわーアメリカのバスケかーめっちゃあこがれるなぁ…もー早速準備始めるからな!」
「遼ならそーいってくれると信じてたよ!もー早速明日出発しなよ!こっちで手配しとくからさ!お母さんには私のお母さんが言っとくから、任せといて!あっちで待ってるよ!」
その後、いろいろアメリカ出発へ向けて話をしてから、お母さんに電話を変わった。
すぐにミニバスを2週間ほど休むと連絡した。顧問に色々聞かれたが、今回のこの事情を説明すると、「良い経験積んで来いよ!帰って来て頼もしくなった遼を期待して待ってるからな!」と、快く送り出してくれた。
お母さんは1人で飛行機に乗り、外国なんて大丈夫かと思ったらしいが、うららのお母さんも上手く俺の母さんを説得してくれたらしく、うららの母さんもいるし、安心したようで俺をアメリカへ笑顔で送ってくれた。
飛行機の中ではずっとワクワクしていた。
何時間くらいかかるんだろ…相当かかるんだろうな…外国なんて始めてだし…
不安も少しはあったが、バスケが出来るという事実の前に不安など消し飛んでしまった。
※※※※※※※※※※※※
アメリカへ到着…
9時間半の長旅だった。
成田を夜に出たはずなのに、サンフランシスコは昼。まだこの時は頭が悪く(今も悪いだろというツッコミは置いておいて)、時差なんか分かってなかったから、なんか魔法でもあんのかと思ってしまった。
空港はわけわから無い英語ばっかり話していた。
「うららが迎えに来ると言ってたな…どこにいるんだろ」
空港のゲートを出て、深呼吸する。
「うわ!これがアメリカの空気か!なんかかっけーなー!」
「遼!」
いつも聞いていた声がする方向に振り返ると、あの時から背も伸び大人っぽくなったうららがいた。
「うらら!」
うららが走って来た。
「元気だったー?」
抱きついて来る。めっちゃ恥ずかしかった。
「お、おまえやめろ!恥ずかしいわ!てゆかお前小さくなったなー」
「遼…くやぢい…こんな身長伸びてるとは思わなかった…遼、デカすぎ!何cmあるの?」
「164cm!ワッハッハー!あれー?うららはどこにいったんだ?」
自慢げに答える。
「うるさいわね!ほら、ここ!ここ!」
うららは必死にジャンプする。
「お前は身長なんぼあんの?」
「155cmだよ!なんか腹立つー!」
すると向こうから相変わらず美人なうららの母さんが上品に歩いて来た。
「相変わらず賑やかだね、あなた達!本当に仲良いんだね。フフフお久しぶり。遼君、身長大きくなったわねー!私も抜かされちゃいそう!男らしくなって、さらにカッコ良くなったわね!うらら、遼君狙わないと!」
俺は吹き出した。
「ちょ、うららの母さん、最初から冗談きついですって!」
「相変わらず変わってないでしょ、私のお母さん」
「うん」
「さーさー、車に乗って!私の家へ行くわよ!」
うららの母さんに促され、うららの家の車へ乗った。
「うわ!車かっけぇ!でけぇ!やっぱアメリカはちげーなー!まー俺の心の広さには叶わねぇけどな!」
「何言ってんの、馬鹿!相変わらず成長してないね、遼は!」
久しぶりの再会で、うららが変わっていなくて安心した遼だった。