第23Q 「二転三転」
ボールは立修学園ボール。2Q残り2分。
倫太郎はボールをドリブルしながら、内心、これは持ってかれると思い、焦っていた。
小さいころから身長が小さいことがコンプレックスだった。
ミニバスを始めると友達に言った時、みんなに「お前背低いのに、バスケできんのかよ?」と言われ、笑われた。
本当に悔しかった。何も言い返せない自分に腹が立った。
身長が低いからなんだって言うんだ。身長が低いことが悪いのか?
自問自答し続けた結果、この身長を生かせる場所、いわゆる、スティールや俊敏な動きによるパスカット…
ディフェンスだと気付いた。この身長でも高身長の奴らと張り合えるのは、ディフェンスしかない。
そして、今、身長が低くても、高身長の奴らに張り合える…
そのことを証明するチャンスだ。
落ち着け、俺。落ち着け、俺。
落ち着くと同時に、今までぼやけていた周りの仲間がきちんと把握できるようになった。
心臓の音のように、正確に脈打つボールの音。
24秒をフルに使う…
24秒、24秒だ。
まずは竜太郎にパス。
竜太郎はワンフェイクを入れ、3Pを打とうとした。
「待て!」
俺は竜太郎を制した。
竜太郎からボールが返ってくる。24秒計を確認した。残り18秒。
相手の榊と呼ばれていたやつの目は、完璧に集中していた。
目線が俺しか見ていない。余計な物は入ってきていないようだった。
ふ、これは真っ向勝負しかなさそうだぜ。
小清水が榊にスクリーンをかける。
小清水はターンをしてそのままゴール下へ走り抜けた!
ゴール下へパスフェイクすると見せかけて、ゴール下を走り抜け0度のポジションにいた小清水へパス。
思わずうなってしまった。完璧。
そう思っていた。
だがその小清水から放たれたシュートは、無情にもブロックされた。
くそっ!!!
吉見遼だった。ブロックされたボールは、コートの外へ。
「アウトオブバウンズ!」
吉見…あいつは俺にないものをすべて持っていた。
吉見がシュートを決めたり、ブロックするたびに、初めて会った奴なのに、心の中にイライラしたものが溜まっていった。
24秒計を確認する。残り8秒。
少し時間を使いすぎてしまった。
竜太郎にスクリーンを要求し、エンドラインぎりぎりでボールをもらった。戻ってきた竜太郎にすぐパスをする。
俺はそしてこの試合初めてスクリーンをかけた。
そのまま竜太郎はクロスオーバー。
左へ切り替え、そのままジャンプストップ、3P!
打った瞬間、これは決まったと思った。
バスッ!
15対25!
よし!
だが先ほどと違うのが、相手が点を取られても落ち着いていたということ。
吉見が黒船と呼ばれていたやつにパス、ボールはそのまま榊へ。
榊の目を見た瞬間、右だと思った。
だがそれはフェイクだった。
左へ切り込んで、そのまま後ろから走って来た黒船へパス。
そのままシュート。
ゴンゴン、ゴン!
パスッ!
「うっしゃぁぁぁ!」
相手は叫んでいた。
くそッ!完全に裏を取られた!
17対25。
2Q残り1分ちょっと。
俺はフロントコートへボールを進めた瞬間、3Pを打った。
完全に相手を出し抜いた!
よし!
ボールはリングに当たりながらも入った。
「よっしゃぁぁぁぁ!」
さっきの叫び声のお返しだ!
17対28。
だが相手も落ち着いていた。身長差を完全に攻めてくる。
吉見は丹原と呼ばれていたやつにパス。
そして丹原はボールを榊へ。そして吉見はポストアップ。
榊からボールをもらった吉見は、そのままターンしシュートを打った!
「なめてんじゃねぇぞコラ!」
小清水の熱血的な性格があだとなった。
「ピィィィーーー!」
審判の笛が鳴った直後、ボールは腹立つほどきれいにリングへ吸い込まれていった。
「バスケットカウント、ワンスロー!」
「そして君、言葉遣いには注意するように」
小清水は審判に注意されてしまった。あいつはバカか…
顧問は審判にしきりにあせあせと謝った後、小清水をにらんだ。
小清水はしゅんとしたようだった。
そりゃそうだ。完全に相手には小清水と吉見の身長のミスマッチをついてきている。誰から見てもそれは露骨だった。
それなのに吉見を止められない小清水には、フラストレーションも溜まるだろう。
俺は小清水に声をかけた。
「落ち着け、まだ俺らが勝ってる」
小清水は短く「あぁ」と返事をした。
だがフリースローは完璧だった。
失敗しそうな雰囲気もしなかった。
バスッ!
これで20対28。
2Q残り30秒。点差は2ケタ差に持って行ってやる!