第22Q 「流れ」
倫太郎は点を取られても落ち着いていた。
ダムダムダム―
落ち着いたドリブルの音が、立修学園の選手たちを落ち着かせる。
なんだ、この落ち着きは…
遼は点を取っても、不安をぬぐいきれないでいた。
倫太郎は自分で3Pを打った。
バコン!外れ、黒船先輩がリバウンドを取る。
榊先輩にパス。
必死にディフェンスをかいくぐる。1Gの榊先輩の負担は相当なものだろう。
「8秒バイオレーション!」
審判が笛を吹く。榊先輩は悔しそうな顔をしていた。これで立修学園ボール。
流れをつかみきれない。榊先輩は開始早々から疲労を顔に出していた。さらに黒船先輩も大変そうだ。黒船先輩は今日これで3試合目。顔には見せないが、汗の量が半端じゃない。丹原も春季大会では初出場。緊張していた。
倫太郎がまたゆっくりドリブルをつく。2Qは残り6分を切った。
このスローペース…いつもの西成のバスケが出来ないでいた。オフェンス中心のテンポの速いゲーム。最後はスタミナ勝負に持っていく。それがこのままではできない。
試合を相手にコントロールされているのはだれの目から見ても確かだった。
竜太郎へパスが渡る。
そして「小清水」と呼ばれている170cm位のセンターにボールが渡る。
小清水はゆっくりドリブルをついた。ディフェンスは引き気味でいいだろう。
だが小清水はゆっくりとシュートフォームに入った。
3P?嘘だろう?
だがもう時すでに遅し。
気付いた時にはボールを放とうとしていた。
くっそ、待てよ―
打たせるかよ!
「遼、待て!」榊先輩が叫んだ。
ヤバい!ファールを取られる!ただもう体は宙に浮いていた。
放たれたボールは、リングに当たりながらも吸い込まれていった。
小清水は俺にぶつかりながらそのまま倒れた。
「バスケットカウント、ワンスロー!」
相手コートが一気に盛り上がった。「4点プレイだ!」「うっしゃあ!」「小清水、ナイス!」
くっそ…くっそ…さっきのバスカンで、油断してた…
「焦るな、焦る気持ちが禁物だ!」
和泉先輩が叫んだのだが、その声も遼の耳には入ってこなかった。
小清水は落ち着いてフリースローを決めた。
このセンター、やるな…くっそ…
これで8対19。
流れを相手に持って行かれそうだった。
美奈さんがタイムアウトをとった。相手監督の高杉も、感心するほどのタイムアウトのタイミングだった。
「流れをあっちに持ってかれたら、この試合はそのままローテンポの試合展開で逃げ切られてしまうわ。吉見君。ボール運びできる?」
一瞬何を言っているのか理解できなかった。
「やっぱり榊君の1Gはきつかったかも。反省してる。ただ、この身長差はやっぱりついて行きたい。
黒船君は3試合も戦って疲れているし、丹原君も初めての試合だし。長瀬君はそもそもドリブルが苦手。吉見君、出来る?」
マジで言っているのか…
ただ、負けたくない。勝ちたい。勝つためなら何でもする。
「分かりました」
小清水もびっくりするだろう。俺がボール運びするなんて思っていない。
試合が再開した。
バックコートに向かった俺を見て、小清水は驚いていた。
簡単にボールが俺へ渡った。
クロスオーバーからのビハインド。一気にドライブして自慢のスピードで抜いた。
フロントコートへ簡単にボールが渡った。すぐに榊先輩にパス。
西成ベンチは大盛り上がり。
「ナイス、遼!」「吉見君、さすが!」
俺はすぐにハイポストへ入る。榊先輩は倫太郎のディフェンスむなしく、すぐにパスをポストへ入れた。
すぐに黒船先輩が走りこんできた。ハイポストからローポストへ。ハイ、ローの連携が決まった!
そのままゴール下。
バスッ!
「よっしゃあ!」
黒船先輩とハイタッチ。
これで10対19。
ただ、倫太郎の落ち着いたペースは変わらない。
また、3Pを打とうとした、その瞬間だった。
「なめんじゃねぇぞ!」
俺の体は、勝手に動いていた。榊先輩の上を通り越したボールを、ブロックした!
バコン!
「ウソだろ…!?」
「うわぁぁぁぁぁ!」
会場全体が盛り上がる。
倫太郎はすぐにボールを獲得しようとしたが、榊先輩はリスタートが速かった。
「行っけぇ!」
美奈さんが叫んだ。
そのまま榊先輩がレイアップ。
12対19。
「ボール見ろ!」
和泉先輩が叫んだ瞬間、ボールはロングパスで一気に竜太郎へ渡った。
3Pラインの外側で、竜太郎はシュートを放った。
ピュルルルル、バスッ!
ファストブレイク、やられた―
くっそ…
12対22。
「油断しないで!流れをつかんで!」
美奈さんが叫ぶ。
またも俺がボールを運ぶ。そして今度は榊先輩にパスせずにそのままドライブした。
「ヘルプ!」小清水が叫ぶ。
目の前には竜太郎と倫太郎が居た。
「おりゃあああああ!」
力ずくでゴールへ向かった。
苦し紛れにシュートを放った瞬間、笛が鳴った。
ボールはリングに当たり、宙に舞った。
だが宙に舞ったボールはそのままリングに吸い込まれた。
「バスケットカウント、ワンスロー!」
「うっしゃあ!」
榊先輩とグータッチを交わす。
「ワンショット!」
気持ちよかった。バスケって、やっぱ楽しい!
深呼吸して、ボールを放った。
バスッ!
これで15対22。
この流れ、つかんだ!