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バスケ道  作者: yama14
本編
30/72

第18Q 「basket brothers③」

父さんが話し終わった後、子供たちには数分間の沈黙が続いた。


そしてその沈黙を破ったのは、杏奈の泣き声だった。

「う、ウソでしょ…」

杏奈の泣き声は部屋にむなしく響いた。玲奈はただ茫然として立っていた。


俺は家を飛び出した。

くっそ、どういうことだよ…

もちろん行く先は、榊先輩の家。行ったことはなかったが、場所は知っていた。


玄関先のチャイムを鳴らす。

「榊先輩、榊先輩いますか?」

すると、母親らしき人が出てきた。

「あなたは…もしかして…遼君?」

「え、はい…」


険しい顔をしていた榊先輩の母親だったが、

「上がりなさい。鉄平は中よ」

俺はすぐ靴を脱ぎ、榊先輩の部屋へ向かった。

「榊先輩!」

この時俺は、とんでもなく悲痛な顔をしていたという。榊先輩も何があったんだととても不安になったらしい。

榊先輩は本を読んでいた。

「俺ら…兄弟なんですよ…」

俺はゆっくり、低い声で言った。

すると後ろで、何かが崩れる音がした。

鉄平の母親が、倒れこんだのだ。

「なんで…なんで…あなた…そのことを知っているの?」

顔は無表情だった。倒れこんだまま、上を向き、俺の顔を見据えていた。

「ねぇ!?ねぇ!?秘密にしてきたのよ!?あなた、どういうこと!?」

今度は顔を下に向けた。目からは涙がこぼれおちていた。

「は!?なんかの冗談だろ?何言ってんだよ?俺は榊鉄平。お前は吉見遼。名字も違うだろ。悪い冗談言うな」

若干苦笑いで、俺の背中を優しく叩きながら言った。

「俺も…最初…そう思いました……それが冗談だったらいいなって…けど…それは変えようのない事実です…僕たちの血は、繋がっているんです」

榊先輩の顔が徐々に険しくなっていく。

「おい、遼。さすがにキレるぞ」

「榊先輩、あなたはこの人から生まれてきたわけではないんです」

すると、榊先輩の母、多恵が表情を変えて叫んだ。

「何言ってるの!冗談はそこまでにしなさい!あ、あ、あ、なた…言っていいことと悪いことが…」

言った途中で、また泣き声が止まらなくなっていた。

「あなたは、もうこの世にはいない、吉見智恵という人から生まれてきた子供です。吉見智恵は、この榊先輩の母親、多恵さんの妹でした。吉見智恵は、私の今の父親、吉見雄介と結婚し、子供を1人作りました。あなた、榊先輩です。そして、吉見智恵とあなたは、旅行中、交通事故にあいました。そして、吉見智恵は、自分の命をささげ、あなたを守りました。そして僕の父の雄介は、今の僕の母親、杏と結婚し、僕と僕の妹が生まれました。僕たちは、僕の父親で繋がっていたんです」

なんでここまで落ち着いてしゃべれるのかが自分でも不思議だった。

「何、お前、本当か…」

ようやく榊先輩も事態を飲み込み始めたようだった。

多恵はもう泣き喚くことしかできなくなっていた。

「ウソだろ?母さん、母さんは俺を生んだわけではないのかよ…」

榊先輩の瞳からしずくがこぼれおちた。

「多恵さんは、子宝に運悪く授かることができませんでした。結局、生き残った榊先輩を、引き取ったのです」

「なんで、お前の父さんは俺を引き取ってくれなかったんだよ!?見捨てたのか?」

鳴き声と僕たちの声が交錯する。

「僕の父さん、雄介と多恵さんの母親は上手くいかず、無理やり絆を引き裂かれました」

榊先輩の顔は、もうぐちゃぐちゃだった。

「何言ってんだよ…え…ウソだろ!?おいおいどうなんだよ…」

俺の体をつかむ。だがその力は弱く、すぐ放された。

「もう、なんも知らねぇよ!!!」

バン!ドアを閉め、榊先輩は外へ出て行った。

多恵はどうすることもできず、泣きわめくだけだった。



本当は教えるべきではなかったのかもしれない。


けど、事実を、真実を伝えるのも大切だと思って伝えたのだ。


俺の頭も混乱していた。その事実を受け止められていなかった。


あんなに落ち着いて話せたのは、別の人格だったのかもしれない。


「あなた!鉄平、鉄平を追いかけて…あの子、何しでかすか分からないから…私、もう足に力が入らないのよ…」


この言葉で我に返った。そうだ!追いかけなければいけない。話した人の責任だ。


俺は部屋を飛び出した。







「待って!榊先輩!待ってください!」俺は声を大きくして叫んだ。もう喉はガラガラだった。


「うるさい!黙ってろ!」

向かっているのは、市内でも大きな橋。自殺の名所で、「天使大橋」と名付けられている。もしかして、飛び降りるつもりか?


そのまま河川敷にたどりつき、僕は榊先輩を追いかけ続けた。


そして、橋まであと一歩、というとき、俺は心の気持ちを叫んだ。榊先輩の心に伝わるように。



「自分だって、もう何が何だかわからない!けど、この事実を知ったからって過去をどうすることもできないでしょう!未来はいつでも変えられる!この事実を知って、逃げていたらダメでしょう!」


すると榊先輩はその瞬間、その場に崩れ落ち、大粒の涙を流した。

「俺だって、何が何だかわかんねぇよ!急に、お前と俺が兄弟だったなんて、意味がわかんねぇよ!」

「俺だって…意味が分からないですよ!けど、今話していて決めました。この事実から逃げてはいけないって。榊先輩も、これからずっと逃げるつもりですか!?」


夜の星空に、むなしく泣き声が響く。周りは何も音がせず、風もない。


「分かってる、分かってるんだよ!分かってる!」


「分かっているのなら、じゃあなんで逃げ続けるんですか!それで、そのままでいいと思っているからでしょう!」


「違う!それは違う!」


「違うのなら、次の一歩を踏み出しましょうよ!そのまま踏みとどまってたら、事実を受け入れることなんて到底できないですよ!」


「分かってる。分かってる。けど、とりあえず、考える時間、くれ…いくらなんでも、その事実をすぐ受け入れろなんて…酷すぎる…」


「じゃあ、家に帰りましょう。試合は明日にもあるんです。榊先輩」


榊先輩の手を引っ張った。その手は、ずっしりと重かった。

榊先輩はおれの手をぎゅっと握った。

そして、立ちあがった。

「星、綺麗だな…」

「そうですね」

夜空には、満天の星空が輝いていた。




そのまま榊先輩を送り届け、俺は一人で家に帰った。


口ではあんなことを言ったけど、自分も全く心の整理がついていなかった。

明日の試合、あんなこと言ったけど、自分も明日の試合に行けるか分からない。

何故か判らない。我慢していたはずなのに、また涙がこぼれおちてきた。

神様…

なんで僕だけに不幸を与えるんですか…

もう家族は壊れるでしょう。

さらに、姉ちゃんと僕たちの血のつながりもなかった。

もう、これから待っているのは、思いやりや温かさ、そして優しさのない名ばかりの家族でしょう。

もう、やり直すなんて不可能だ…


自分の足は、自然とさっきの橋に向かっていた。


橋にたどりついた。


そして、僕は、橋の中心へ歩み始めた。


その時の風は、無情にも、冷たく、強かった。雨も降りだしていた。


橋の中心についた。橋から身を乗り出す。


最後に、俺の両親、兄弟、バスケ部のみんな、そしてケンカして仲直りできなかった翔、そして、好きで、気持ちを伝えられなかった桜の顔が浮かんだ。


雲かかった空を見た。そして、飛び降りようとした、その時だった。


「遼君!辞めて!」


だが乗り出した身は、もう自力では止めることが出来そうになかった。


悪い、桜…ごめんな。




















しかし、最後に神様は微笑んでくれたのかもしれない。


桜が凄い力で引っ張った。いつの間に追いついた?そして良くその小さい体で俺を引っ張れたな…


俺の体は、反動で道路わきの歩道に投げ出された。


「な、何やってるの!遼君が、遼君が、死んだらもうなにも未来はないんだよ!」


そして桜は泣き崩れた。初めて見た、桜が泣いているのを。

「事情は遼君のお父さんから聞いた。あの後、遼君の家に行った。その事実を、受け止められないのは分かるよ…けど、死んじゃったら、もう元も子もないじゃん!榊先輩の本当のお母さんだって、本当は幸せな家族が待ってて、これから…というときに、死んじゃったんだよ!人生を生きたいって思ってたのに…そんな大切な命を、遼君自身が捨ててどうするの!榊先輩の本当のお母さんだって、天国で見てたら悲しむよ!」


雨がやんだ。


「ほら、雨だってやんだじゃん。榊先輩の本当のお母さんが、泣きやんだんだよ…」


俺、何やってたんだ…

俺が好きな女を泣かしてまで…



「ごめん、本当にごめん!」



雨がやんだ夜空に、また星空が戻った。




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