第14Q 「最後の4Q」
宮之城ボールで、第4Qが始まった。
新太の顔は、もう必死だった。
31点という大きな差を追いつくために、得点を取ろうとしている新太の姿は、もうけもののようだった。
したたる汗、ドリブルの音。
男と男の戦いだ。
新太は必死にドリブルをついていた。
だがあまりにも必死すぎて、一人で突っ込み、自滅するということを繰り返した。
榊先輩と俺のコンビはどんどん良くなっていった。
相手の牛島監督はいらいらして、選手たちを怒鳴っていた。
3Q残り2分現在で、113対67。
だが最後まで神は新太を味方しなかった。
どんどん点差が離れていった。
榊先輩の3P、俺の中からの2P。
最後の方の新太の顔は、汗でかおがぐちゃぐちゃになっていた。
「ピ―――!」
試合が終わった。121対71。
「121対71で、西成中学校の勝ち!」
「ありがとうございましたっ!!」
礼が終わった瞬間、俺は榊先輩と抱き合った。
「うっしゃあ!」
「このまま、天童も倒すぞ!」
「おう!」
西成中学校 121 対 71 宮之城中学校
1Q 32 対 13
2Q 9 対 22
3Q 44 対 17
4Q 38 対 19
「ふふっ…我らが兄弟よ…3Pがうまくなったな…当たる時が…楽しみだ」
会場のわきから見る男は、その一言だけをいい会場を去っていった。
体育館わきの水道で顔を洗った。
新太に勝った!疲れはあったが、その事実だけでもうれしかった。
「よう」
「おう」
新太がやって来た。
「いやぁ、すげーな…シミ…俺らも少しで進化したと思ってたけど、お前はその上を言ってた。それはこの試合を見れば事実。負けた。中体連では、この借りを返すからな。覚えておけ。うちに勝ったんだから、この後も勝ってくれないと困る。絶対的に勝てよ」
「あぁ。中体連、楽しみにしてるよ」
「そんじゃな。言いたいことはそれだけだ」
新太は悔しそうだった。
明日は2回戦。千束中。そこまで強くない。勝てるだろう。勝った後に眺める夕焼けは、とても気持ち良かった。
俺は体育館端に神宮寺先輩と話す桜を見つけた。
う、やべ…
どうしよう。
「さ、桜、一緒に、帰らない、い?」
声が上ずってしまった。
「お、アツアツだね~」
神宮寺先輩が冷やかしてきた。
「え…い、いいよ」
桜が顔を夕焼け色に染めながら言う。
「両方とも照れ屋さんか…付き合ってるの?」
「え、い、いや」
「そ、そんなことないです!」
神宮寺先輩、辞めてくれ…照れすぎて大変なことになりそうだった。
「じゃあ、カップルの邪魔だから帰るかな~大我待ってるし。じゃね!」
2人の背中を押し、神宮寺先輩は帰って行った。
「あ、あのさ…昨日デートな訳ないだろって言って、傷付いたような表情してたし、風間一人で夜おいてっちゃったし、ごめん」
「え、そ、そんなの大丈夫だよ!」
よ、良かった…やっとフォローできた…
校舎を出て、桜と試合について話していた。
その時だった、桜が俺の陰に隠れた。
「ん!?どうした?」
「い、いや、何でもない…」
「あれ~!?久しぶり、サクラじゃん!お、彼氏と一緒?かっこいいね~サクラには不釣り合い?」
ワハハハハハ!
同い年だと思われる女が3,4人群がって歩いていた。
「な、なんだよ!お前!桜の事バカにすんな!ふざけんな!」
もう口を抑えきれなかった。桜の事を馬鹿にしたあいつらが、許せなかった。
「あ~あ、彼氏キレてるよ~も~めんどいから帰ろ!」
その女は、そのまま帰って行った。
その後数秒の沈黙。そして桜が口を開いた。
「桜って呼んでくれたね。ありがとう。そのままでいいよ」
「え、あ、まぁあれは怒ってたしさ…そのままでいいならそのまま呼ぶけどさ…お、俺も遼でいいよ」
呼びたくてたまらなかったので嬉しかった。
だが、さっきのあいつらは何だったんだ?
「ごめんね、遼君。あんな姿見せちゃって」
「うん、大丈夫。ご、ごめん、言いたくないこときくようだけど、あいつら何だったの?」
聞いたら傷つくかもしれない。けど、桜が何を言っても受け止めて、桜を元気づけたい。その一心で聞いた。
数秒の沈黙の後に、桜はしゃべりだした。
「私…あの子たちにミニバス時代いじめられてたんだ」