第13Q 「榊・吉見コンビ」
第2Qも残り30秒。
多くて2プレイくらいしかできないだろう。
最低でも5点差はつけておきたい。
新太を中心にパス回しをしながら、展開している。
俺は新太にプレッシャーをかけた。
新太にはもう、パスを出させない。
そのプレッシャーが効いたのか、新太はパスキャッチをミスした。
「ルーズボール!」
和泉先輩が叫んだ。
俺はそのまま風を切るように駆けだした。
西成中バスケ部の心は一つになった。5人が一気に、フロントコートへ駆けだす。
瞬く間に、ボールはゴール手前まで来ていた。
俺はポストへ入った。西内が激しくディフェンスしてくる。
くっそ―
「遼!」
榊先輩は、自分の方向へパスを出した。
そしてボールはゴール付近へ。
俺は西内と取り合った。
そして空中でボールを受け取り、手の力だけでそのままシュートを放った。
キュルルルルルルル!
バン!バン!バン!コロッ!
やばい、外した―
「リバウンド!」和泉先輩が叫んだ瞬間、
3Pラインにいたはずだった榊先輩がリバウンドを取っていた。
何て速さだ…
そして榊先輩はまた俺にパスしてきた。今度は入れる―
パシッ!
シュートの瞬間、手を触れられた。
だがそのシュートは、文句なしに入った。
「バスケットカウント、ワンスロー!」
「よし!」
美奈さんが叫んだ。
俺は和泉先輩や榊先輩の声援を受けながら、落ち着いてシュートを放った。
そしてそのボールはスウィッシュした。
これで41対35。
「うっしゃぁ!」
その瞬間、2Q終了のホイッスルが鳴った。
2Q終了時点で、41対35。
「いい感じだわ。3Qは、長瀬君の代わりに佐藤君、入って」
佐藤先輩は、ボール回しを得意とする、3年生。PGだ。
「やはり得点を決めるタイプの子が多すぎて、2Qの後半はパスミスが多かったわ。天童に勝つには、20点くらいは差をつけていないと大変よ」
「了解!」
佐藤先輩が言った。
そして和泉先輩の掛け声とともに、選手はコートに飛び出した。
相手も3年の栗原を時田に変えた。
相手は自分とは逆に得点力重視で来るわけか―
時田は得点力がある。
やはり新太頼みではきついと踏んだのだろう。
「変わってないな、あいつも」
「ああ」
そうしゃべっていたのは、彩都市・西の王者・彩都国際大付属中に所属する、海神千と彩都国際大付属中キャプテン・最前信輔だった。
海神千―宮本小レギュラーの一人。SGをしていた。
3Pシュートが得意で、東区より先に終わった春季大会西区予選では3Pを一本も落とさなかった。
もちろん彩都国際大付属は全市進出。
圧倒的な強さだった。
「それにしても、宮之城も強いな。榊・吉見のあの両コンビを、あそこまで抑えるとは」
「けど、宮本小キャプテンの力はそんなもんではないですよ。いくら新太とはいえ、吉見がいるうえに榊もいるチームには負けるでしょう。そもそも、宮本小キャプテンがいるチームが、全市大会に出ないなんて考えられません」
千はそう断言した。
「西成が勝つのは見えています。キャプテン、もう、帰りましょう」
千の言うとおり、3Qは西成中が主導権を握った。
榊の3P、そして中からの吉見の2P。先ほどの吉見の3Pを見てから、新太もディフェンスに穴が出てきた。
「こら!ちゃんと走れ!」
相手の宮之城の顧問・牛島はキレていた。
なんと3Q終了時点で、83対52。
力の差が出てきた。
「いい感じよ。特に、榊君と吉見君のコンビがうまくいっているわ。佐藤君もボール回しがいいわね」
美奈さんは満足した顔をしていた。
なんと3Qの37得点は、半分以上を榊先輩と俺で決めていた。
榊先輩3P4本、2P1本、俺は3P1本、2P5本。
残りは黒船先輩が2Pを3本と、和泉先輩が3Pを3本決めた。
「100点ゲームにしましょう。いいわね!?」
「はい!」
力のこもった声だった。
いまだに、俺は桜と話せていなかったのだが、まずは試合に集中と自分に声をかけた。