第12Q 「宮之城の猛攻」
「和泉君の疲労が思ったより大きいわ」
美奈さんは言った。
「さすが風上君って感じね…」
神宮寺先輩は悔しそうに言った。
「くっそ、すまん。あいつを自分が押さえていれば相手が0点でもおかしくなかった」
和泉先輩はこぶしを握り締めながら言った。
「俺、あいつつきます。和泉先輩という得点源が失われてしまっているし、新太のことは自分が良く知っているので。新太に勝ちたいという気持ちもあります」
顔に熱を込めて言った。
「本当に?」
美奈さんが言った。
「はい」
「その顔見て、買った!よし、風上君は吉見君にお願いするわ」
「うっしゃあ!」
つい叫んでしまった。あいつと戦えることが、とてもうれしく、そして楽しみだった。
あのシュート、全部止めてやる―
「頑張れよ」
恭介が言った。
そして和泉先輩は俺を呼び出した。
「あいつは俺のディフェンスで相当疲れてる。頼むな。正直、俺もこのままだったら4Q持たなかった。すまない」
小声で耳打ちしてくれた。
「メンバーは1Qのまま!さぁ、行って来い!」
頼もしい声で美奈さんが送り出した。
「新太…てめぇ、ぶっつぶす」
「面白そうな戦いだな。絶対的に俺は負けない」
2Q、宮之城からの攻撃。
何!?
なんと相手は、センターの西山を中心にしてボールを回してきた。何をする気だ―?
流石の新太でも、体格では俺には負ける。押しこむということもできないだろう。
何をするんだ?
その時。
西内がそのまま打ってきた。
マジか!?
バンバン!
シュートは外れた。
「リバウンド!」
俺は確実にリバウンドを取った。
そしてシュートを打とうとした。だがまたその時に、奇想天外なことが起こった。
バン!
何……!?
後ろを振り返ると、西内がいた。
ボールを取られた!
西内についていた黒船先輩は対応に遅れ、自分もリバウンドに入っていたため、相手にとって3対5のアウトナンバーだった。
むなしく新太に3Pを決められ、32対16。
「ドンマイ!」
榊先輩は声を掛けてくれた。
くっそ…俺の注意不足だ。
シュートを決めたい!
俺は体格差を利用してポストに入った。そしてシュートを打とうとした時、西内がカバーに入って来た。
そういうことか。中では西内が押さえて、自分は3Pがないと思われているから、外では新太が押さえるということか…
面白いことやってくれるじゃん。
うし、桜との特訓の成果を披露する時が来た。
俺は3Pのほんの少し前までやって来た。
新太はウソだろ…打つのか?という顔をしていた。
「甘いな!」
俺はそう叫んだ後、シュート体勢に入り、人生初の3Pシュートを放った!
ヒュルルルルル
ゴンゴン!
スパッ!
「うっしゃあ!」
「ウソだろ…?シミ」
新太はぼうぜんと立ち尽くしていた。
リングに当たって文句なしのシュートとはいかなかったが、入った!
「人生初の3P、遼らしいシュートだったよ」
榊先輩はほめているのかけなしているのか分からなかったが、まあほめ言葉として受け取っておくことにした。
これで35対16。
だが今度は宮之城の西内がまたトップを始めた。
「やっぱ見慣れねぇな」
ヒュルルルルル!
ガン!
「リバウンド!」
今度はリバウンドに入りすぎないぜ!なめんなよ!
だがその時だった。
まんまとすきまから西内にはいられ、ゴール下を入れられた。
今度はそっちを意識しすぎた…
ちくしょう!
35対18。
くっそ…
何なんだよ…
その時だった。
「ボール!」
え?
ボールがこっちに向かっていた。ヤバい!
案の定キャッチミスをしてしまった。
相手ボール。
和泉先輩は声をかけてくれた。
「落ち着け、落ち着け。まだ17点勝ってる」
宮之城ボール。
そして今度も西内がまた打った。
だがそのボールはリングにぶつかりながらも、入った。
「くっそ…」
悔しかった。
しかも、自分が迷惑をかけているという事実が。
これで35対21。
次も榊先輩がこの試合初めて外し、ボールは相手ボールに。
また西内に3Pを決められ、35対24。
追いつかれてる…
しかし思いとは裏腹に、宮之城の猛攻は続いた。
こっちはパスミス、シュートが入らず、結果的に2Qの終わりまで榊先輩の3P1本だけとなってしまった。
相手は西内の3P2本、2P2本と竹内の2P1本の合計11点を入れられ、なんと38対35となってしまった。
「俺がまんまと作戦に引っ掛かってるからだ…すみません」
榊先輩に謝ると、「大丈夫」と頼もしい声が返ってきた。
そうだ、俺らは仲間がいるんだ。
そう思うと、ベンチの応援の声も聞こえてきた。
「吉見君!落ち着いて!」「遼!まだ勝ってるから大丈夫だ!」
そうだ。まだ勝ってる。
このまま逃げ切ればいいんだ。
そうだ、逃げ切るだけじゃない。
もっと点差をつけて勝たなければ、天童には勝てないのが目に見えている。
もっと、点を取らなければいけない。