第4Q 「西山の3P」
体育館が熱気に包まれる。
見ているバスケ部員の応援の声も次第に大きくなっていく。
西成中バスケ部内の試合なのに凄い盛り上がりだ。
「何よ、この盛り上がり方・・・今年の1年生、やってくれるわね!」
バスケ部顧問・吉田美奈子はつぶやいた。
「バスケの試合って、面白いですね・・・こんな盛り上がるなんて・・・」
風間は言った。
「あと1点!これ抑えてこーぜ!」
俺はぞくぞくしてきた。
ドリブルの音、バッシュのソールがすれる音―
たまんねぇ!
2年チームの攻撃が始まった。
すると、2年チームは過ぎに立て直し榊を中心に素早いパス回しで1年チームを追い詰めていく。俺は言った。「動揺すんな!」
2年のパスも速い。くっそ、このままじゃヤバい。大沢や西山も対応するのに大変そうだ。
その時だった。
大沢がディフェンスしていた寺田先輩が一気に抜いた。
「丹原、ヘルプ!」俺は叫んだ。
「寺田!パス!」榊は叫んだ。
寺田のパスはギリギリ通った。
俺が抑える!
「うおおおおおおお!」
だが甘かった。榊は上手く俺を交わし、そのまま寺田へパスした。
シュートを打たなかった・・・だと!?
「丹原、抑えろ!」
だが丹原は榊が打ってくると思い込んでいたのか、寺田にはすぐにディフェンスにつけなかった。
そのまま寺田はレイアップ。
29対32。
「くっそ!」
「丹原、すまん」
丹原は燃えるような目つきでこう言った。
「いいよ、また1本とればいい話だろ!」
方をバシッと叩かれた。
丹原、お前っていい奴だな―
改めて思った。
「1本抑えてこ!」
まずは西山にパス。
その時だった!「マジか!?」「ええええ!」
西山がまた3Pラインから打ったのだ。
ボールはお世辞にもきれいとはいえないが、ゴールの方向へ突き進んでいった。
だがそのボールはなんとリングに何回も当たりながらも、
入った!
和泉が3本の指を突き立てた。
3Pだ・・・
あそこから打つなんて・・・2年チームも対応できなかった。
「ナイス、西山!」口をそろえて1年チームみんなが言った。
あいつ、どんだけだ―
勝負に強すぎだろ・・・
「西山、ナイス!」
肩をたたくと、西山はうれしそうに笑った。
32対32。残り4分。
2年チームはまた榊を中心に速いパスを回してきた。だが2年も追いつかれたという焦りと3Pが入ったという驚きからか、寺田がミートをミスし、ボールが転がっていった。
「ルーズボール!」
すると大沢がそれをとり、伊龍にパスした。
すると伊龍は一人でゴールへ突き進んでいった。
なんと今度はそのまま伊龍が3Pを打った!
しかしボールは空中で大きな弧を描いていたが、ゴールには届きそうにもなかった。
俺は今ゴール下の近くだ。
今度は俺がリバウンドをとる!
ボールが落ちてくる。
榊の手が見えた。
「うおおおおお!」
俺の手をボールがかすめていく。
榊はそのおかげでボールを取り逃がした。
「丹原!ボール!」
丹原はそれをとると、シュートを打とうとした。
だが榊もなめてはいけなかった。
空中で回転し、ディフェンスをしてきたのだ!
だがそれを丹原は読んでいたかのように。まだ空中で飛んでいる俺にパスしてきた。
おれはそのまま空中でシュートを放った!
シュルルルルルル!
パスッ!
「入った!」
見ていたバスケ部員からは歓声が上がった。
34対32。残り3分。
2年チームは、そこからパスがひどくなった。
勝ちこされた焦りからか、DF真正面にパス。
こっちにボールが飛んできた!
飛んでくるボールを横から取ろうとする榊の手はむなしくからぶった。
それをそのまま見事に受け取った俺は、そのままレイアップを決めた。
36対32。
「ナイス、吉見!」
「落ち着け!まだ4点だ!追いつける!」
榊の声が聞こえた。
だがその声もむなしく、また寺田と長瀬の間でパスミスが起こった。
それをとったのは西山!
なんとまた西山は3Pから打った!
俺は打った瞬間、入ると確信した。
このシュートフォームからは想像できないような綺麗な放物線だった。
そのままボールはリングへ吸い込まれていった。
西山、今日3P3本目じゃねーか・・・・しかも3の3。成功率100%。どんだけ勝負強いんだ!」
「西山、ナイス!シュートフォームはひどいけどな」
「一言多いぞ!」
2人は試合中にもかかわらず、笑いあった。
いい雰囲気だ。
39対32。残り2分。
だが俺はそのあと、奇跡を目にした。
なんと榊はひとりでドリブルし、センターライン(コートの真ん中の線)からシュートを放ったのだ!
みんな目を丸くした。これはまるでNBA選手じゃねーか!
だがそのボールは、外れろという願いもむなしく、リングにぶつかりながらも入った。
この試合いちばんの歓声が上がった。
あんなシュート初めて見た―
39対35。残り90秒。
「何よ、今の―あり得ない・・・あんな榊君、初めて見たわ」
美奈子は驚いたように言った。
残り90秒で勝負が決まる!
俺は燃えた。ラン&ガンだ!
ダムダムダム!
俺は伊龍とパスをつないでいく。
そしてポストに入った丹原にパス・・・したつもりだった。
横から長い手があらわれた。
その手はボールをはじき、そのまま相手ゴールへ転がっていった。
榊だ!ボールを奪われた!
「ルーズボール!」
ボールの近くにいる西山と大沢に叫んだ。
だが西山と大沢は対応できず、そのまま榊がボールをとった。
榊はフリーで3Pラインから打った。
俺は追いつけなかった。
ボールは当たり前のようにリングへ入っていった。
くっそ!
あっという間に39対38。
残りは50秒。
1点差だから、何が起こるか分からない。
ちくしょう、この失点は俺のせいだと思い唇をかみしめていたら、いつもクールな伊龍が肩をたたき、こう言った。
「ドンマイ。まだ勝っているのだよ」
クールな語り口だったが、俺にとっては大きいパワーになった。
俺らが、まだ勝っているんだ。
負けているわけじゃない。しかもボールはこっちにある!
俺は走った。
周りが見えなくなっていた。
一瞬にしてボールの感覚が消えた。
榊にボールをカットされた!
だが伊龍がまだ相手コートにいた。
勝負は、榊と伊龍の1on1に託された。
榊はまた3Pラインからフェイダウェイしてシュートを打とうとした。
だがそれに伊龍は対応した。
「伊龍!ナイス!」
やってくれるな、2年も!だが勝つのは俺らだ!
ボールを持った榊は、俺がマークしていた長瀬にパスした。
長瀬と俺の一騎打ちとなった。
長瀬に力押しされたが、俺は押し返した。
男の魂と魂がぶつかるバトルだった。
だが決着はすぐに付いた。
そのまま長瀬はなんとダックイン(頭を下げて進むこと)してきた。
長瀬がダックインだと―?
俺はまんまと引っ掛かり、そのまま決められた。
長瀬までダックインしてくるのか・・!?
39対40。
7点差まで付けた試合は、すぐに逆転されてしまった。
「ごめん、みんな!」俺は泣きそうになった。
「大丈夫!」「まだ10秒ある!」
みんないい奴だな、改めて1年の絆を感じた。まだ入学したばかりなのに、5人の心をバスケがつないでくれた。
諦めないでやるっきゃない!みんなの悔しそうな顔を見たくなんかない!ボールはこっちだ!
残り10秒。
まだ逆転できる!