第2Q 「1年vs2年」
「えー、今日から練習を始めるわ。えっと、ミニバスやってたのは吉見君と丹原君だけ?西山君と大沢君と伊龍君はやってなかったんだよね?」
美奈さんが西成バスケ部員みんなに向けて言った。
「俺は宝沢公園で暇な時ストバスしてましたけど」
伊龍翼が言った。
「ふ~ん、そうなんだ。けどストバスと中学のバスケは少し違うからね~」
「ストバスを馬鹿にするのはやめてください」
「あ、ごめんごめん」
あの後3人入ったらしい。
その中では伊龍というやつがうまそうな感じがしていたが、やはりバスケ経験があった奴だった。
「あ、紹介しておくわ。この子は3年生のマネージャー、神宮寺凛ちゃん。そしてこの子は、新マネージャーの1年生、風間桜ちゃん。桜ちゃん、凛ちゃんにしっかり教えてもらってね!」
「はい!」
可愛い声で返事をした。
風間桜…
可愛いな…
風間は、自然に可愛かった。
これが、一目ぼれ、ってやつなのかな…
遼は、風間の事を少し心の中で思い始めていた。
「ちょうど5人ね。じゃあ、これから2年生と戦ってもらいます」
「は?」「え・・・」「マジで?」
一年生の西山と大沢は無理だという風な声を上げた。
すると、丹原が言った。
「おもしれぇ・・・やってやろうじゃん」
「だな・・・絶対勝とうぜ!」俺と丹原はハイタッチをした。
「2人とも、盛り上がるのはいいが冷静になりたまえ」
三人は笑いあった。
うっしゃ、勝ってやろうじゃん!
風間もいるし、風間にかっこいいところを見せてやる!
「じゃあ、8分×2の16分間ね」
ジャンプボールだ。
相手は榊先輩。2年で一番身長が高く、2年の中で一番うまいらしい。だが身長は175くらいだ。これは勝てる。
ボールが舞い上がった。バチィン!とポップコーンがはじけたような音がした。
ボールはゴールの近くにいた伊龍の方向へ上手く転がった。
それを伊龍はつかみ、そのままレイアップ。
まずは2点を取った。
「伊龍、ナイス!」
「どうも」
試合でもクールな奴だ。
だが2年生も黙ってはいなかった。1年生大会で全市大会出場(自分の住む市は区分けされていて、まずは区の中の予選で勝ちあがらなければならない)の実力は半端ではなかった。
榊は3Pラインの手前ですぐにシュートを放った。綺麗な放物線を描き、そのまま3点を取った。
シュートモーションが速い・・・!
そのまま点の取り合いとなった。
だが1年は2P、2年は3Pだと、どんどん差が開いて行くのは歴然だった。
もともとセンターだった俺と丹原は3Pを得意としない。
伊龍もストバスの経験しかない。
1Q終了前で、なんとミニバス全国優勝の俺は驚愕した。
負けている・・・!?
流石にミニバス全国優勝のプライドとして、2年には勝とうと思っていた。
だが、そんなに現実は甘くなかった。
18対25。
ミニバスの時のテクニックが、通用しない・・・!
弱小校だと噂で耳にしていたが、意外とおもしれえじゃねーか、西成も!
俺は燃えた。
するとおれの伊龍がストバスで培ってきたドリブルを見せながら、DF2人を一気に抜いた。
そして俺にパスが来た。
俺はダックインしながらバックでシュートを放った。
「そこからダックイン!?そしてバックシュート!?」
監督とや他のバスケ部員、風間を感嘆の声を上げた。
その時、榊先輩が俺にファールをした。
だがボールはリングにぶつかりながらも、ゴールに入った。
「バスケットカウントワンスロー!」審判役のキャプテンの和泉は叫んだ。
「丹原、俺、わざと外すわ。リバウンド取って、入れたほうが2点取れる」
「了解!」
俺はわざと外した。
そして丹原と榊が手を伸ばした。先にふれたのは何と、榊だった。
「ちくしょう!」
だがボールが転がった先にいたのは、偶然にも西山だった。
「西山、パス!」
だが西山はどうしていいかわからなかったのか、そのまま3Pライン上からシュートを放った。
「めちゃめちゃなシュートフォームだな、おい・・・」
「リバウンド!」
打った瞬間俺は丹原に叫んだ。
だがそのシュートは、リングにスウィッシュ(そのままリングに触れずにスパッとボールがリングに入ること)した。
「・・・・・ナイッシュ!」
おいおい、すげーな西山。見直したぜ。
これで23対25。点差は2点。1Q残り30秒。
だが榊も黙ってはいなかった。
「榊先輩に伊龍、西山ダブルチームしてくれ!最後、止めるぞ!」
榊は3Pライン手前で止まった。シュートを打つと思って2人は間を縮めた。だがその時―
1人と2人の間が一瞬にして広がった。
そしてそのままシュートを放った。
その放物線は、
見事、入った―
試合を見ている連中から感嘆の声が上がった。先生もマネージャーも大騒ぎしている。
3Pラインからフェイダウェイして入れる―
だと!?
何て奴だ―榊先輩は―
西成、強いじゃねーか!
「さぁて、一本抑えよーぜ!」
榊は何事もなかったようにディフェンスについた。
うっしゃ、決めるぜ!
「ラン&ガンで行くぞ!」
残りは少ない。シュート1本の差にしておきたい。
俺は丹原と高速パス回しをしながらゴールへ突き進んでいった。
だが、2年は俺ら二人にはマンツーマンで、ほか三人にはゾーンディフェンスで挑んできた。
いわゆるトライアングル(2人に対してそれぞれマーカーをつけ、残りの選手で三角型に1-2のゾーンを作ること)だ。
徹底的に点はやらないつもりか!
しかも俺のディフェンスは榊。
伊龍はどこ行った!
俺は伊龍にパスをした。伊龍はカットインした。マンツーマンゾーンディフェンスは、ゾーンディフェンスの部分がどうしても弱くなってしまうのだ。伊龍はディフェンスをかわしていく。
だが、2年の榊先輩ともう一人のスコアラー、長瀬亮太がその道を阻んだ。
「伊龍!ボール!」
俺はボールを榊に触られながらもかろうじて受け取った。
そのボールを俺はダブルクラッチでタイミングを外して打った・・・筈だった。
それを見事に読まれ、見事に後ろからボールを取られた。
「ルーズボールだ!長瀬、そのまま行け!」
丹原と長瀬、そして丹原についていた京本先輩の2対1だ。
そのままあっさり決められてしまった。
悔しい!
マンツーマンゾーンディフェンスは、もう一本取るためにも敷いていたのか!
そのまま1Qは終わった。
23対30。
「おもしれぇ・・・燃えてきた!」
俺は顔を真っ赤にさせながら丹原と手を合わせ、2Qで逆転することを誓った。