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姉と弟

ロア登場です。

一話目から名前だけは登場していましたが、実際に出るのは今回が初めてですね。


ウォルツ伯爵の夜会が終わり、一ヶ月が経った。

リクト様はご自身の言葉通り頻繁にメフィス伯爵邸にいらっしゃり、私は何度も急なお茶会の準備をさせられた。

毎回会った瞬間にリクト様の目はお嬢様の右手を見ている(ような気がする)。

そして、そこにご自分が送られた婚約指輪がないのを知って悲しそうに目を伏せていらっしゃる。

本人からしたらショックなことなんでしょうけど、私からしたら苦笑もの。

だって、お嬢様ったら屋敷内では指輪をしてらっしゃるんだもの。リクト様とお会いするときだけお部屋のケースに入れているの。

リクト様の落胆ぶりに、一度だけ付けることを勧めたことがあるんだけど、「だって、恥ずかしいわ」と言われて余計なことを言うのは止めた。

だってその時のお嬢様のお可愛らしさと言ったら、筆舌に尽くしがたいのよ!あんなお嬢様を妻にできるリクト様は幸せ者なんだから、多少の悲しみは今の内に味わうべきだわ。



「そろそろ駅に着いた頃かしらね」

母様……マリア侍女長が呟いた。

「そうですね。朝に寮を出たのなら、そろそろではないかと」

私が頷くと、マリア侍女も満足げに微笑んだ。

十日前に弟のロアから届いた手紙によると、ヤツは今日の昼頃にメフィス伯爵邸に到着するらしい。

ロアが通う執事養成学校は全寮制で、休みも他の王立学校に比べて極端に少ない。夏に十日ほどと、三ヶ月に一度だけ。あいつは入学時にブツブツ文句言ってたけど、実際に執事になったら休みなんてほとんどないのだから。むしろ今の状況に感謝しなさいって感じよ。

「ですが、同じ日にリクト様まで来られるなんて」

私は嘆息した。

リクト様が、三日前に次の逢瀬の日を今日に指定した時、お嬢様はキチンとロアのことを伝えて断ったのだ。それなのに、今日を逃したら次はシンシア様の誕生日まで会えないとおっしゃり、無理に約束を取り付けたの。

マリア侍女長は苦笑して、「そうね」と言った。

「リドニア、貴女には良いと思える人はいないの?」

その時のマリア侍女は母親の顔をしていて。

「いないわ。……母様」母様は、仕事中に自分を母と呼んだ私を(たしな)めなかった。



結果を言うと、リクト様方のほうがロアよりも早く来た。

マリア侍女長と別れて、私はお嬢様の部屋へ向かった。もう馬車が門の前に来ていることはご存知でしょうから、私が来るのを待っていらっしゃると思うの。

「リドニア」

その途中、旦那様とトールと会った。

私を呼び止めたのは旦那様だった。眉を寄せて、あまり機嫌の良い状態じゃないみたい。

「旦那様……」

「ルーシャンの部屋に行くのか?」

私が肯定すると、なおも複雑な表情をする。

一体、何なのかしら。

トールに目を向ければ、旦那様の後ろで苦笑していた。

「あの……」

「リドニア。ルーシャンに伝えておいてくれ。婚約者だからといって、無理にリクト殿と仲良くしなくてはならないわけではないのだと。結婚した後に、本当に愛せる人を見つければいい」

「……っ」

伝言の内容に、言葉を失った。

旦那様が言いたいことは、つまり結婚後に不倫をすればいいということで。

そして、不倫は私が嫌悪を抱くほどに罪深きこととされていないのが、貴族の世界。

旦那様もお嬢様も、リクト様もそちらの世界の人であることが、こういう時に思いしらされる。

私の承諾を待つ旦那様。頷けない私。

駄目。間が空くごとに、不自然な空気が流れる。

「……旦那様。そろそろ参りましょう」

そんな空気を破ったのはトールだった。チラリと時計を見て、やんわりと旦那様を急かす。

「ああ。そうだな。頼んだぞ、リドニア」

「……畏まりました」

モヤモヤとした気持ちを胸に抱きながら、私は止めていた足を再び動かした。

「お嬢様、ヒルドマ──」

「リドニア!遅いじゃないの」

ノックをする寸前に扉が開かれ、お嬢様の顔が覗いた。

「も、申し訳ございません」

「いいのよ。行きましょう」

お嬢様の薬指に指輪はない。

咄嗟に確認してしまえば、指輪かぁ、と、妙齢の女性ならば必ず考えることを考えてしまう。

──私もそろそろよね……。

ミュール家に生まれたからには、婚期を逃して独身になることはないでしょうけど。

「リドニア。そういえば、どうして遅れたの?」

門に行く途中、お嬢様が尋ねてくる。

「あ……えと、旦那様に……」

「お父様?」

「少し──リクト様について」

歯切れの悪い私に何を思ったのか、お嬢様は顔をしかめた。

「お父様ったら、私に婚約を命じておいて、リクト様を良く思ってないのよ。気にしなくていいわ」

「ですが……」

「リドニア。貴女の主は誰?」

「それはもちろん、お嬢様ですっ」

まあ、雇い主は旦那様だけど。それは言わないほうがいいわよね。

「ならば余計なことは考えないでいいのよ。そうでしょ?」

お嬢様……。真剣な顔のお嬢様に、少なからず感動してしまった。

「はい。分かりました」

強く頷くと、お嬢様はニコリと笑って足を早める。

ほんと、私が男だったらプロポーズしてるわ、なんて考えながら私もお嬢様を追った。



私達が門に到着すると、私達が着く前にリクト様に気づいたらしいメイドが、リクト様とティルー殿を屋敷内に案内する途中だった。その子には仕事に戻るよう伝え、私とお嬢様は対応が遅れたことを謝罪した。

「お待たせしました」

「いや、それは構わないんだが……」

リクト様はお嬢様を見た。

お嬢様の指を。指輪はなく、リクト様は落ち込んだように肩を落とす。

「……」

「……。あっ、じゃあ私、お茶会のお菓子を準備を致しますね」

そそくさとその場から逃走すれば、悠長な動きでティルー殿がついて来た。

「……」

「あの……どうしました?」

「手伝います」

……?

いつもは手伝うなんて言ってなかったのに。言われても断っただろうけど。

「ティルー殿も一応お客様ですし、お嬢様やリクト様とご一緒にお待ちください」

「一応って……」

「あら、失礼」

「リクト様に、ルーシャン様との二人きりにしろと言われたので」

つまり邪魔だと言われたのね。

結局、ティルー殿は厨房にまでついてきた。

料理人から出来立てのパイやクッキー、ビスケットを貰い、紅茶用のポットとカップをと一緒にワゴンに乗せる。ティルー殿にワゴンを運ばせた。……運んでもらった。

「もう弟さんはいらっしゃったんですか?」

「まだですよ。よく覚えてますね」

お嬢様がリクト様にその話をしたのは四日ほど前だ。確かに意識していれば忘れないだろうけれど、そんな細かく覚えてないと思っていた。

「気になっていたので。覚えてますよ」

「気になって、って……私の弟が?」

ロアなんか気にしてどうするのかしら。ティルー殿が気にするほどの人でもないし。

「執事の養成学校に通ってらっしゃるんですよね?」

……なるほど。気になるのは学校のほうね。

「ええ。将来はメフィス伯爵家に仕えますから。ルドルフ執事の後を継ぐのです」

本当に、父様の後なんて継げるのかしら、とは思う。第一、ロアは執事って感じが全くしないもの。本人のやる気もあるのか無いのかよく分からないし。

紅茶やお菓子を乗せたワゴンを押しながら、ティルー殿は口を開いた。

「……ミュール家の特権ですか」

「……」

「メフィス伯爵家の執事だなんて、したい人はたくさんいるでしょうね」

ティルー殿の声音に混じる皮肉に、私は眉をひそめた。

ガラガラとワゴンの立てる音が空々しく聞こえる。

「──特権を得るための犠牲もあります。貴方にとやかく言われる筋合いはありません」

軽い皮肉や嫌味を言われるのは慣れている。屋敷内のミュール家でない使用人や、どこかの舞踏会や夜会になんて行ったらしょっちゅうよ。

羨望と嫉妬は紙一重なのだと、私達は生まれて間もない頃に学ばされる。特に、ミュール家に直系で生まれた私とロアは。

「それとも、ティルー殿?本当はリクト様の侍従ではなく、旦那様の執事になりたかったのですか?」

揶揄(やゆ)するように言えば、あからさまにムッとしたように「そんなわけないでしょう」と言われる。

「なら貴方には関係ないでしょう。恐らく、ロアはもうすぐ帰ってくると思いますけど……あの子に余計なことを言ったら許しませんよ」

私の脅しにティルー殿は何も答えず、結局庭園で気まずそうに待つお嬢様の顔を見るまで、私は不愉快な気持ちを持て余していた。



いつも通りに紅茶をいれ、お菓子を並べ終える。

「シンシア様は、いくつになるんだ?」

紅茶を傾けながらリクト様はそう言った。さすがに頻繁に会っていれば話題も尽きるらしい。旬の話題が持ち出された。

「御歳三十四歳になられますわ」

「もうそんなものか……」

ご本人を前に言ったら不敬罪にでもなりそうなことを言って、リクト様は頷いた。

「陛下も出席されればいいのに」

「……」

ポツリと呟かれた言葉に、私とお嬢様は無言になる。

──陛下は、一度もシンシア第二王妃殿下の誕生会に参加されない。

それは、王城内、貴族間で囁かれる噂話。陛下も、シンシア様も否定されないのは、真実だからだと私は知っている。

シンシア様の誕生会に招かれるのは内輪の方々だけだからまだ噂の域は出ないけれど。きっと、遠くない未来にそれが事実だと広まるわ。

でも、陛下は正妃であるミーユ様の誕生会はおおっぴらにお祝いなさってる(らしい)。そんなこともメフィス伯爵家のヒルドマン嫌いに繋がってるのよね。

私的には……、ミーユ様にはとやかく言わないけど、シンシア様がお可哀相だと思うわ。

ご自分よりもずっと年上の方に嫁がれて、なのに相手は誕生会に出席すらしてくれないだなんて。私だったら耐えられない。

「──今年も参加されないと、決まったわけではありませんわ」

お嬢様はそう言って、気丈にも笑って見せた。

「しかし、どうして参加されないんですかね?」

空気を読まない発言をしたのはティルー殿。今の素晴らしい空気をどうしてくれるのよ。

「ですから、今年は参加して下さるかもしれないとお嬢様がおっしゃったではありませんか!」

悪意をふんだんに込めて睨みつければ、怯んだように一歩下がる。

「ああいえ……でも、いくつで嫁いだのかは知りませんけど──」

「二十歳です」

「──二十歳からこれまで十三回も誕生会があって、一度も参加されていないのなら、今回も望み薄なのでは……?」

恐る恐るというように、厳しい現実を突き出してくる。

そんなこと皆分かってるわよ!お嬢様がいなかったらそう叫んでいたことでしょうね。

「先のことなど、神にしか分かりませんわ」

なんとかそう言って話を切り上げようとした時、とん、と肩が叩かれた。

メイドだ。

「リドニア様。ロア様がお見えです」

「あら、ロアが?やっと来たのね」

お嬢様を見ると、全て心得ているように肩を竦めた。

「行っていいわよ」

「ですが……」

今は仕事中。兄弟に会うために仕事を放棄します、だなんて、笑えやしないわ。

食い下がる私にお嬢様は苦笑した。

「行きなさい。命令よ。気になるんでしょう?別に、使用人がいなくなるわけじゃないもの。そんなに気にすることないわ。──ねえ、ティルー殿?」

話を振られたティルー殿は、流れを読んで頬を引き攣らせた。

「え」

まあ、そうよね。紅茶を入れたりお菓子を足したりなんてことはメイドや侍女の仕事だもの。

言ってしまえば、専門外よね。

……だから、私を見てくるティルー殿の気持ちはあっさりと読めた。けど、

「申し訳ありません、ありがとうございます」

頭を下げ、早足でそこから退席する。

先ほど、余計なことを言った報復ってわけじゃないけど……いえ、立派な報復だけど。

「誰か来たのか?」

「リドニアの兄弟です」

「リドニア殿、すぐに帰ってきますか?」

「さあ……。どうでしょう」

そんな話し声が聞こえた。



ロアは、屋敷内の私室にいた。

「……ロア。入るわよ」

ノックをせずに入ると、振り返ったのはお嬢様と同い年の少年──ロア。

焦げ茶の髪と鋭い目つきは、学校の制服(燕尾服みたいな)を着てもガラが悪く見える。

ロアは片手を上げた。

「よぉ、姉さん」

相変わらず執事には不向きな話し方。下町の子供みたいだわ。学校で浮いてるんじゃないかしら。

「あんた、その喋り方止めなさいよ。メフィス伯爵家の執事として相応しくないわ。入学して何年目?そろそろ変えなさい」

ロアは持っていた鞄を椅子に乗せると、中から紙袋を取り出した。

「姉さんこそ……会うたびに母さんに似てくるな」

紙袋を投げてくる。袋には葉のイラストが描かれていた。

「……ありがと」

紙袋の中に入っているのは、私が大好きなお店のお菓子。ロアの学校の近くにあって、こっちに帰ってくるときに買ってくるように頼んでいるの。お嬢様とロアと私でお茶会をするのよ。

「でも、母様に似てるなんて光栄だわ。あんたも父様に似なさいよ」

皮肉を返してやると、ロアは分かりやすく困った顔をする。

「それより……姉さん、話があんだけど」

「話?後で聞くわ。あんた、もうお嬢様が婚約されたことは聞いた?」

「ん……ああ。ヒルドマンだろ?」

「そうなのよ。今来ているわ。挨拶なさい」

へえ、とロアは気のない様子で眉を上げた。

なによ。反応薄いわね。

でも、私もロアに大袈裟な反応は期待していなかった。この子、あんまり名前だけで人を嫌ったりはしなかったもの。

「姉さん、あんまり反対したりしないんだな」

「どういう意味よ」

「だって、前までヒルドマンなんてーっとかお嬢様と言い合ってたじゃんか。なのに今は好意的な感じだったからさ」

弟の的確な指摘に、私は黙りこむ。

はは、と笑ってロアは私の頭を叩いた。

「何よ」

「別に……。ほら、挨拶に行くんだろ?」

少ない荷物を分けて、ロアは部屋を出た。私がついていくと、私からお菓子が入ってる紙袋を奪って部屋のテーブルに置いた。

「お菓子は置いていくの?」

「三人分しか買ってねぇんだよ」

──なるほど。



窓から覗くと、庭園では慣れない手つきでティルー殿が紅茶をいれていた。何となく微笑ましくて、立ち止まってしまう。

「なんだありゃ」

私とは別の理由で立ち止まったらしいロアは呆れた様子でそう言った。

「ねえ、どこでそういう言葉を覚えてくるの?」

「街で。友達とお忍びで行くんだよ」

「もう。未来の執事が何やってんのよ」

忍ぶような身分でもないでしょ。

……でも、少しだけ羨ましいなとは思う。私は学校に行かなかったから。

貴族の令嬢が通う学校ならあるけれど、それは花嫁修行の一環みたいな学校で、私が通うようなところではなかったの。

「そういえば、今回の休みも翌日まで?」

執事養成学校の休み三ヶ月に一度と言ったけど、ロアの今回の休みは少し例外なのよ。普通の王城で開かれる舞踏会に、私達侍女は参加できない。待機室で待つのだけど、シンシア様の誕生会だけは違うの。シンシア様が、ミュール家を招待して下さるのよ!

だからロアも、王妃殿下に招待された舞踏会に出席する、という理由で休みをいただくの。大抵は舞踏会の二日前から舞踏会の翌日までの四日間が多いのだけど、たまに授業の都合とかで短くなる。だから聞いたら、ロアはぼんやりと頷いた。

「ああ」

「そう。母様と父様に伝えておくわ。行きましょ」

手を引けば、ロアも歩きだした。

庭園に足を踏み出すと、こちらに気付いたお嬢様が手を振った。

「リドニア、ロア!」

悪戦苦闘中のティルー殿と、そんな彼を不安げに見ていたリクト様も弾かれたように私達を見る。ロアは私の手を振り払うと、満面の笑みを浮かべて頭を下げた。

相変わらず、よくもまあいきなり笑えるものよね。私だったら絶対口元が引きつるわ。

「二ヶ月ぶりでしょうか、ルーシャン様」

「ええ、久しぶりね!」

ロアは真っ直ぐお嬢様の前に行くと、腰を追って挨拶をした。それからリクト様とティルー殿を見る。

「初めまして。ロア=ミュールと申します」

「リクト=ヒルドマンだ。ルーシャン殿の婚約者の」

リクト様は「婚約者」の部分を強く言い、ロアの手を握るお嬢様の手を自分の方に持っていった。

「ティルー=ディエラです。リクト様の侍従兼護衛をしております……が。リドニア殿、後を頼みます」

ティルー殿もロアに負けない笑みを浮かべながら、私にポットとこし機(茶葉を取り除く物)を手渡した。

結局いれられなかったのかしら。



その後、ロアはお二人とも早々に馴染み、冗談を言って笑いあえる程度には仲良くなった。

シンシア様の誕生会に参加する準備があるからといつもよりも早めに帰るリクト様方に別れを告げる。

その後はそのまま母様や父様、旦那様に奥様と様々な方々に挨拶をして回って、ロアが再び私室に戻れたのは夕食の後だった。



「姉さん」

真夜中に扉がノックされ、私は飛び上がった。さあ寝ようと寝間着を着ていたし。

「……ロア?」

「ああ。お菓子を食べそびれただろ?今日中に食べなきゃ傷むだろうし、食べないかと思って」

お菓子か……。今食べたら、確実に脂肪になる。

頭の中で脂肪とお菓子の美味しさが戦う。

「──いいわ。入りなさい」

お菓子の美味しさが勝利した。

紙袋を持ったロアが入ってくる。

椅子を勧めて、私は紙製のお皿を取り出した。

「紅茶を持ってくるわ──と言いたいところだけど、水でいいかしら。今紅茶なんか飲んだら眠れなくなるわ」

「ああ。悪いな」

後片付けをしていたらしい料理長に直々に入れてもらった水を両手に持って、私は部屋に戻った。

「さ。いただきましょ」

「……」

なんだか、ロアが変。

いつもならもっと無駄口を叩くくせに、今日は妙に静かだったりする。

どうしたのかしら。

覗き込むようにしてロアを見ると、

「どうした?」

と逆に聞かれてしまった。

「いや、私はどうもしないけど。あんたこそ、何かあった?元気ないみたいよ」

明るい場所で見れば焦げ茶の髪も、暗い部屋で見れば黒に見える。

月明かりを浴びながらお菓子を貪る姉弟というのも変な構図よね。

「ロア」

名を呼んで髪を撫でてやると、ロアはじっと私を見た。

「……話そうと思ってたんだけど、止める」

話そうと思っていたこととは、つまり元気がない理由よね。

当然聞けるものだと思っていた私は、拍子抜けしてしまった。

「えっ、何で?」

「今話しても姉さんの邪魔にしかならないと思う。だから、誕生会が終わってから話す」

「そう。あ、昼に話があるって言ってたけど、それと同じ話?」

「ああ」

真剣な声と表情。重い空気に耐えられなくなり、私は水を口にした。

「……そん時は、俺の味方をしてくれる?」

「味方とか敵とかの話なの?」

「ああ。きっと、皆反対すると思う。……姉さんも」

いつになく弱気なロア。

私の答えなんて知ってるでしょうに。

「私はいつだってお嬢様の味方よ。お嬢様があんたの意見に反対されたら、私も猛反対させていただくわ」

私の答えに、ロアはキョトンとしてから苦笑した。

次回、舞台は王城に移ります。

きっとリクトとティルーも出ます。

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