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1. 初日:絶望のオリエンテーション


南太平洋に浮かぶ名もなき無人島。白い砂浜に、場違いなスーツ姿の男10人と、よそ行きなワンピースやオフィスカジュアルに身を包んだ女10人が立ち尽くしていた。


上空を飛ぶドローンから、無機質な合成音声が響き渡る。


「これより30日間、当『少子化対策特別区域』にて共同生活を行っていただきます。ルールは三つ。第一に、期間内にパートナーを見つけ、婚姻届にサインすること。第二に、成立した婚姻は法律により『生涯離婚不可』となります」


ざわめきが起きる。だが、次の言葉が全員を凍り付かせた。


「第三に、30日目の正午までに相手が見つからなかった者は、国が管理する『AIマッチングシステム』により、無作為かつ強制的に婚姻が執行されます。拒否権はありません」


男たちの中にいた**健太(35歳・年収300万・実家暮らし)**は、脂汗を拭った。彼はこれまで女性とまともに目も合わせたことがない。 「強制マッチングだけは嫌だ……もし、とんでもなく恐ろしい相手と組まされたら……」 それは全員の共通認識だった。この島は楽園ではない。逃げ場のない処刑場なのだ。


2. 7日目:高望みと現実の乖離


最初の1週間は、地獄のような「探り合い」だった。


女性陣のボス格である**美奈子(34歳)**は、かつて商社マンと付き合った経験(3ヶ月でフラれた)が忘れられず、プライドだけがエベレスト級だった。 「年収は? 車は? 長男? ありえない」 彼女は初日から、男たちを値踏みし、切り捨てていた。


一方、男性陣も悲惨だった。女性に免疫がない彼らは、「優しさ」と「卑屈さ」を履き違えていた。 「荷物持ちます!」「水汲みます!」「靴舐めます!」 必死になればなるほど、女性陣は彼らを「生理的に無理」と遠ざけた。


そんな中、健太は、集団の輪から少し離れた場所にいる**由紀(31歳)**に気づいた。彼女は地味な服装で、常に俯いている。親に泣きつかれて無理やり参加させられた「男性交際経験ゼロ」の女性だ。


健太は勇気を振り絞った。ネットで読んだ『モテる会話術』は全部忘れた。 「あ、あの……焚き火、当たりませんか?」 由紀はビクリと肩を震わせ、蚊の鳴くような声で言った。 「あ、はい……すみません……」


3. 15日目:崩壊するプライド


島での生活は過酷だった。支給される食料は最低限。自分たちで魚を釣り、木の実を採らなければならない。


ここで「モテない男たち」の意外なスキルが光り始めた。 オタク気質で凝り性の男が、驚くほど精巧な釣り罠を作った。日曜大工が趣味の無口な男が、雨風をしのぐ快適な小屋を建てた。


一方で、美奈子たち「高望み女性陣」のメッキが剥がれ始めた。 「なんで私がこんなことしなきゃいけないのよ!」 とヒステリーを起こしても、誰も助けてくれない。かつて彼女たちが求めていた「スマートで高収入な男」はここにはいない。いるのは、泥だらけになって魚を焼く、不器用な男たちだけだ。


「……おいしい」 誰かが焼いた魚を食べた瞬間、美奈子の取り巻きの一人が泣き出した。 「私、もう強制マッチングで変な人と結婚させられるの嫌だ。……佐藤さん、これ焼いてくれたの? ありがとう」


プライドが生存本能と孤独に負けた瞬間だった。一人、また一人とカップル……いや、「協定」が成立し始めた。 それは恋愛ではない。「最悪の未来(強制婚)を回避するための、次善の策」としての結婚だ。


4. 29日目:ラスト・ナイト


最終日の夜。残された未成立者は、健太と由紀、そして最後まで「もっといい男がいるはず」と現実逃避を続けた美奈子と、コミュニケーションが破綻している変わり者の男・田中の4人だけだった。


焚き火の前で、健太は由紀の隣に座った。この30日間、二人は何度も会話をした。といっても、「魚が焼けた」「雨が降ってきた」程度の会話だ。ときめきも、甘いムードもない。


だが、健太は気づいていた。由紀が、健太の破れたシャツを不器用ながら縫ってくれていたことを。由紀も気づいていた。健太が、彼女の分まで重い水を黙って運んでいたことを。


「由紀さん」 健太が声をかけると、由紀はやはりビクリとした。 「明日になったら、AIに決められます。誰になるかわからない。……僕は、自分が情けない男だとわかってます。でも、知らない誰かと結婚するより、僕はあなたと……その、ご飯を食べたいです」


それは、プロポーズと呼ぶにはあまりに無骨で、実務的な提案だった。 しかし、由紀は初めて顔を上げ、健太の目を見た。眼鏡の奥の瞳が潤んでいる。


「私……料理も下手だし、話すのも苦手で……家族にも『お前みたいな陰気な女はここしか行き場がない』って言われて……」 「僕もです。会社でも空気扱いです」 「……健太さんがいいです。私でよければ、お願いします」


二人の手が、恐る恐る触れ合った。電撃は走らない。ただ、安堵という名の温かさがあった。


5. 30日目:結婚、あるいは


正午、ドローンが迎えに来た。 健太と由紀は手を繋ぎ(手汗ですごいことになっていたが、二人とも離さなかった)、婚姻届提出エリアへと進んだ。


一方、最後まで選り好みを捨てきれなかった美奈子は、残った田中(会話の9割が昆虫の話)を見つめ、絶望の叫びを上げていた。 「嫌ぁぁ! AI! AIマッチングに変える! チェンジ! チェンジぃぃぃ!」


しかし、ドローンの音声は冷酷だ。 「タイムオーバーです。未成立者2名。これより、AIによる強制マッチングではなく、規定により『残存者同士の自動マッチング』を執行します。おめでとうございます」


美奈子の絶叫が島に響き渡る中、健太と由紀はヘリコプターに乗り込んだ。


「これ、離婚できないんですよね」 由紀が不安そうに言う。 健太は、隣で昆虫図鑑の話を大声でし始めた田中と、死んだ目の美奈子を見下ろしながら苦笑した。


「まあ、地獄よりはマシな場所を、二人で作っていきましょう」


少子化対策特別区。そこは、ロマンチックな恋は生まれないが、しぶとい「夫婦」が生産される工場だった。二人の戦いは、そして日本の未来は、ここからが本番である。

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