第九章:ESP
「はあ……はあ……はあ……」
薄暗い公園を、一人の女が走っていた。
「……うっ!」
足が絡み、地面へと転ぶ。
「ううっ……っ……」
両手を振るわせながらも、なんとか力を入れ、上半身を起こしていく。
「痛っ……!」
痛みが走り、顔をしかめた。
右手で頭に触れ、ゆっくりと離していく。
街頭により映された手。それは――真っ赤に染まっていた。
「ああ……あああっ――!!」
女が手を振るわせながら、叫ぶ。
「――はっ!?」
しかし、ある音が耳に入り、その声を止めた。
急ぎ音の方へと振り返る。
視界に映ったもの。それは遠くの方で一人でに動くブランコだった。
まるで誰かが遊んでいるように、暗闇の中で鉄の音を響かせている。
女は愕然としたまま目を見開かせ、それを見続けていた。
「――ひっ!?」
次に、女の耳と目を奪ったのは、同じ鉄の音だった。
すぐさま視線をそれに向ける。
それはブランコの近くにあった、球体状の乗り物だった。
悲鳴のようにも聞こえる高い音を響かせながら、一人クルクルと回り続けていた。
それぞれが出せる音で演奏会を始める遊具達。
「許して許して許して許して……」
女は両耳を手で押さえ、頭を抱えるようにしてその場所にうずくまっていた。
何度も同じ言葉を呟き続けるも、止む気配は無い。
「許して許して許して許して許してゆる――」
女が言葉を止めた。
それに合わせるようにして、周りで喧しく鳴っていた遊具も動きを止めた。
頭を抱えたままの女が、左右に視線だけを動かす。
ふと耳に別の音が聞こえてきた。それは――靴が地面を擦る音。
「ああ……ああ……!!」
体が突然震え始めた。
抱える両腕をガタガタと小刻みに揺らし、そして立ち上がる。
「ごめんなさい!! 許して!!」
駆け出し、目の前の階段に足を伸ばす、だが――。
「――っ!」
女の口から、言葉にならない音が溢れ出た。それは骨が激しく砕かれる音と共に――。
衝撃に耐えきれなかった背骨はくの字に折れ曲がり、宙に浮いていた体は木製の箱と共に、そのまま階段を滑り落ちる。
滑って弾み、また弾む。
砕ける衝撃音。同時に、中に詰まっていたゴミが一斉に空へと飛び散った。
曲折した体が、広がる血溜りの中へと徐々に浸っていく。
訪れる静寂。息絶えた女の体を街灯が冷たく照す。
それを見下ろすように、階段の上に一人の影が現れた。
影は、冷たく映り出されたその姿に、笑みを浮かべた。