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Luxlunae  作者: 夏日和
第七章:高速の攻防戦
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二節:依頼受諾の有無

 いくつも並ぶソファーと机。そこには老若男女問わず様々な人がそれぞれで向き合い、楽しく喋りながら机に運ばれている料理を口にしている。

 その中に埋もれるようにして、麻祁と山瀬はそれぞれ向かい合い座っていた。

 山瀬は警戒するように細めた目を麻祁にへと向ける。しかし、それを気にした様子もなく、麻祁は大きめのザックを横へと座らせ、メニューを広げては見続けていた。

 分厚く大きいメニューのページを数回開き、そして調味料の置かれている場所に隠れていた呼び出しのスイッチを押した。

 しばらくし、笑顔を浮かべる店員が二人の間に立った。

「ご注文はお決まりですか?」

「えーっと、この和風ハンバーグが一つと……それとポテトが一つ、で……」

 麻祁が山瀬の方へと目を向ける。

「……俺はいい」

 山瀬がそう答えると、麻祁は、以上で、と答えた。

 注文を聞いた店員は麻祁の頼んだ品の名前を繰り返し後、奥へと姿を消した。

「何も食べなくていいのか? もう昼過ぎとはいえ、今食べとかないと後でどうなるか分からないぞ?」

「そんな心配はしなくていい。それより、一体何の用があって俺を呼んだんだ? 用意してあった車。あれは一見そこら辺にある車と同じように見えるが、所々に手を加えている部分もある。特に防弾みたいなのを付け加えているな、見た目はそうでもないが、ドアが少し厚いし、何より走っている時に思った以上に速度が出なかった。ヤバイ仕事なら俺は絶対に受けないぞ?」

「まだ内容も聞いてないのにヤバイ仕事とは、それは勝手な思い過ごしだな。それにただ車に防弾加工を加えているだけで、そう結論付けるのはただの偏見の一つだ。最近じゃ、衝突の事故などが増えているから自分の身は自分の身で守る為の耐衝撃用かもしれないってのに……」

「んなもんが通るなら、全員が勝手に車を改造しまくって、今頃刃物を外側に取り付けているイカレタ車も出てきてる。……そうじゃない、俺は危険な仕事は絶対にしたく――」

「妻と子のために?」

「……」

 麻祁の言葉に、少しばかり身を乗り出していた体を山瀬が戻した。

 一瞬疑いのあるような目で麻祁を見た後、感情のないような口調で聞き返す。

「……どこまで調べたんだ?」

「そりゃ情報として活用できるものなら全て。出身から始まり、今までの生活。それと身内関係とかな」

 麻祁の言葉の後、山瀬が麻祁に向かい瞬時に顔を近づけ。小声で呟いた。

「絶対に妻や子には手を出すな。お前が何者かは知らないが、もし手を出すなら俺はこの場でも……」

 今すぐにでも拳が飛びかう空気に、麻祁は表情を変えず、先ほどと同じ口調で言葉を返した。

「そう殺気立って良からぬ方へと話を進めるな。危害を加えて脅す為に調べたんじゃないんだから。それに、そもそもその手の方法で話を進めた所で、相手が納得して受けてくれるわけがない。私もそこまで無駄なことはしないよ」

 その言葉の真意を確かめるように、山瀬は目を逸らさずじっと麻祁の目を見続けていた。

 僅かな静寂の間。それを切り裂くように、二人の間に女性の声が響いた。

「あ、あのすみません……」

 山瀬がすぐに体勢を戻し、横へと顔を上げる。

 そこには両手に二つの料理を持った店員の姿があった。

「あっ、それ私のだ。ここに二つ置いて」

 目の前にあるグラスを横へとずらし、空間を麻祁が作る。

 その場所に、店員は二つの注文の品と、ポケットに入れていた伝票を伏せて置き、その場から離れた。

 二人の間に新たに出来た壁。ジュウジュウと音を上げ、少し甘くて香ばしい煙が立ち昇っている。

「私は信頼ある人物としか依頼を頼まない。ましてや、仕事というものに対して熱心に勤めてくれる人物以外は――。情報はあくまでもその人間がどういう人なのかを調べる為のものだ。相手を知らなければ、こちらがどんな仕打ちを受けたとしても何も文句は言えない……それは痛いほどよく理解しているだろ?」

 フォークとナイフを手に持ち、切ったハンバーグを麻祁が口へと運んでいく。

「…………」

 山瀬は何も言わず、ただその光景を見ているだけだった。

 麻祁は気にした様子もなく、周りに添えられた野菜をフォークで刺す。

「裏切りは何よりの一番の痛手だからな。どれだけ上手く行ってたとしても、たかがそれ一つのおかげで全てがダメになる可能性が高い。もしかするとこの世から居なくなる事も……だから、事前に調べておかないとな。――で、今から頼む仕事だが、それほど危険なものではなく、更に報酬も多めに支払う」

「多めに? ……どれぐらいだ?」

「……そうだな、今やっている仕事の三、四ヶ月以上か……収入がどれぐらいか分らないからハッキリとは言えないが、当分は困らなくて済むだろう」

 その言葉に、山瀬は顔を伏せ、頭の中で一瞬だけ考えた後、顔を上げた。

「確かに金は魅力的で、どれだけ多くても損はしない。だが、それだけの報酬を貰うにはそれだけの代価が必要になる。例えその仕事がそいつの口から楽だと言われたとしてもだ」

「経験則か? ……だが、現実は厳しいだろ? 子供もまだ生まれたばかりだ。その仕事では成長する子と一緒に傍にいてやることも中々出来ないし、更に妻もほったらかしに近い。小さい子の世話だけではなく、家事などを同時にこなすとなると、かなり精神に来る。たまには自由を与えて、日ごろの苦労からも解放させてあげないとな……。だが、まあ、嫌なら無理にとは言わない。内容も聞かずに断るのも受ける側の自由。別の人にあたるだけだ」

「……内容は?」

 その言葉に、麻祁は空になった鉄板の上にフォーク等を置き、横に座らせていたザックから数枚重ねられた資料を取り出し、山瀬へと渡した。

 受け取った資料に目を通す中、麻祁はポテトを摘み、空の鉄板に付くソースにつける。

「内容は運搬される刀の護衛」

「刀? これは……」

 山瀬が資料へと目を向ける。そこには一本の刀の絵と写真が載せられていた。

「八木志乃助作、葉切一灯。決して折れる事が無いと言われている刀だ」

「聞いたことあるぞ確か……今美術館に置いてあって、今夜調べる為に運び出すとかで……まさかそれの運搬を?」

「運搬は大型トラックの運転手がする。私達は、今乗っている車でそのトラックに付いて行き護衛をする」

「護衛? 俺は護衛なんて――」

「運び屋が仕事だろ? そんなのは分かってるよ。なぜ、ただのモノを守るために運び屋の力を借りる必要があるんだ」

「それじゃ……まさか、奪うってのか!?」

 思わず立ち上がる山瀬。その行動に、周りにいた人の視線が一斉にそこに集まった。

 気まずそうに辺りを見回した後、すぐに席に着く。

「奪うって大丈夫なのかよ? 危険な仕事じゃないんだろ!?」

「ああ危険ではないはずだ。奪うといっても、何もトラックを襲撃するんじゃない。私達が乗っている車を見ただろ? 私達は護衛する立場だ」

「……? どういう意味なんだ?」

「護衛しながら奪うのさ。正確には品を入れ替えるだけだがな」

 その説明に山瀬は表情を変えずにいた。先が見えず納得が出来ないのだろうか。口を開かずに、次の麻祁の言葉を待つ。

「刀の模擬はすでに作ってある。それと目的の物を交換すればすぐに終わる内容だ」

「話がよく分からない。それならわざわざ護衛しなくても、運び出す前に交換すればいい話しだ。運び出す前にそれぐらいはできるだろ? なのに、護衛しながら奪うとは……?」

「運び出す時に交換など不可能に近い。物はガラスケースの中に入れられてるし、何よりその点は分担作業になっている。運び出す人間と運ぶ人間は別の人物だ。さらにその周りには色んな人が張り付いて立っている。護衛はもちろん、関係者から始まり、報道陣もだ。そんな状態でわざわざケースを開けて交換するなど、昼間の繁華街で堂々と正面から鍵をこじ開けているようなものだ。皆が黙って見逃してくれるまでに手は回してはいない」

「それじゃどうやって奪うんだ? トラックは襲撃しない、なのに中の物は奪うって……タイヤの付いた走る宝箱をどこで開くつもりだ? まさか、到着した直後に狙うのか?」

「それだと同じことだろ? 襲撃されるのを待って、その後に私達が貰うのさ」

「……? なんだよそれ? 全く話が見えない。なんでトラックが襲撃されるんだ? 他に狙っているのがいるのか? もう少し全容を詳しく説明してくれないと……」

「資料にもそれに関しては色々書かれている、まあ、目を通しながら聞くとよく分かるさ」

 言われるがままに山瀬は文字やどこかの地図が描かれている資料に目を通しながら、目の前で喋る麻祁の言葉に耳を向ける。

「全容としては簡単なものだ。当時、その刀は他の刀と紛れる様にして見つかった、その中の一つのものだった。見つけたそこの地主は美術館にそれを全て寄贈し、美術館は客寄せの宝を見つける為、それを鑑定することにしたんだ。だが、その時鑑定した人物が目が悪くてな。名も無き刀の一つとしての印を押され、困った美術館はそれを飾る際にはそこを治めていた藩主の持ち物とだとして、まとめて展示することにしたんだ。それから時間が経ち、ふとその刀に目にした人物が別の鑑定人に再鑑定依頼、そしてその刀の価値が改めて見出されることになった」

「それが八木志之助作の葉切一灯だと?」

「志之助は昔から有名な刀工でな、非常に重宝されていたみたいだ。ネットで調べればすぐに名前とか出てくる」

 その言葉に、山瀬は携帯を取り出し、名前を検索し始めた。

「……本当だ、知らなかった」

「興味あるのは極一部の人間だからな。今でもほとんどの人は知らないだろう。で、その名刀作りの得意な志之助は結構な変わり者でな。本来刀を作る際は、分担作業で行われる。鉱石を掘るものから始まり、叩くものや、柄をなどを作るものなど、それぞれが分担して一つの刀を作り出すんだ。だが、志之助だけは全て一人で作り上げていた」

「一人で? それじゃ弟子とかは……?」

「当然取っていないだろな。おかげでその技術は志之助を最後に途絶えてしまった。二度とその刀は作れなくなったんだ」

「同じ刀ってそれだけ志之助の刀は特別だったのか? 他のとの違いがあるのか?」

「収められた刀の持ち主が文献として残している。他と比べて格別変わった刀を作っていたらしい。例えば、大木を一閃できる程の切れ味であり、手入れしなくても錆びなくて、それに中々折れないと」

「……聞いただけじゃあまり……。他と同じようにも思えるが……」

「まあ聞くだけならな。実際に握って使ってみないと実感としては感じないだろう。だが、それだけ他とは違うと書かれているんだ、どんな製法で作り出されたのか調べたくなる」

「で、その刀を調べる為に今回、運び出すと……」

「ああ、それにその刀には奇妙な噂話がある」

「噂?」

「刀の製法に関しては誰一人の人物にも伝えなかったのだが、その工程を記した紙を刀に隠していたらしい」

「紙? なんだよそれ、何かの映画の設定の一つか? なんでそんな回りくどい事を?」

「理由までは分かるわけがない、物忘れの防止の為に一応残したのか、それとも誰かにこっそり伝えたかったのか、本人に聞かないかぎりは絶対に分からない。だが、その痕跡を見つけたと誰かが騒いでいるんだ」

「そんな話……辻褄が合わないだろ? なんだよそれ、弟子も取らずに、一人黙々と作っていた人間が、こっそり製法だけを描いた紙を自分の作った刀に隠しておくなんて」

「私もそれは信用してない。そんなおとぎ話のような出来事あるわけがない。それに今は何時代だ? その刀がどんな鉱石を使われているかなど、すぐに分析に掛ければ出てくる話だからな、わざわざ紙など必要が無い」

「……ならどうして受けているんだ、そんな依頼を? わざわざ刀を奪ったぐらいで、その紙が挟まってる可能性も価値なんかもないんだろ?」

「本来年寄りや物好きたちの妄想話なら付き合うことなんてしないんだけどな、問題はその刃物を作り出す技術はその手法のみでしか再現できなくて、更にはそれを現在で利用しようとしている人物がいるという事だ」

「利用? んなもん何に使うんだよ? それで包丁とか作るのか?」

「それだよ」

「はぁ?」

 山瀬が眉間を歪ませる。

「包丁ぐらいなら別に構わないだろ? 手入れも無しでも何でも切れて、錆びることのない包丁なんていい包丁じゃないか」

「全世界の主婦や料理人達の手助け程度でおさまるなら、私も料理をする身としては大歓迎するけどな。残念だが、それだけじゃ済みそうにない」

「まさか、刀をまた作るって言うんじゃないだろうな? んなバカみたいな話……今は戦国みたいな時代じゃないってのに」

「この国の表は平和でも、余所の場所では今でも領地や物資を得る為に争っている。例えその技術を家庭で役立つ包丁に利用するにしても、中にはそれを別の刃物に流用して売って儲けようとしたり、常に立場の上に立ち続けようと考えるやつもいるんだ。想像してみろ、もしこの平和な場所で誰かが争い始めて、そんな刃物が飛び交うとしたどうだ? それに嫌と言うほど経験しただろ? 裏の世界ってやつを」

「むっ……」

 麻祁の言葉に、山瀬が表情を曇らせた。

「まあ、あれは大体運び屋としての雇われたはずの人間が、商品を横取りして逃げるから悪いんだ。当然と言えば当然の事だな」

「っせーよ、仕方ないだろ? 俺だって中身を知らなければ、そのまま目的地の場所まで運んでたんだ、それがまさか中身があんなのだったなんて……」

「――臓器売買?」

 麻祁の言葉に、山瀬は目を一瞬逸らし、小さく、ああ、と呟いた。

「……世の中どうなってるか分ったもんじゃねーな。まさかこの国でもそんな事をしてるなんてな……」

「どこの場所だって人はいるんだ。法で守られ、医学や技術がどれだけ発達していようと、必要なものはどんなものであろうと高く売れる。それが必ずしも必要では無いとは言い切れない。……だが、良かったじゃないか、おかげで今の奥さんとしてふた……三人一緒に暮らしてるんだから」

「……それはそうだが、結構大変だったんだぞ? 銃は撃ってくるし、車では追いかけられるはで、あれだけの騒音を撒き散らして走り回ってるってのに、全く警察は役に立たないものだ。……それに今も不安で仕方ない、もし仕返しされたりすれば……」

「それなら心配ない。山瀬和峰の情報で調べる際に、全てをあたってみた。もし、怨恨などが存在して、私の仕事に支障を及ぼすようなら面倒だからな。あの組織はもう潰れたよ、完全に」

「ほ、本当か!?」

 身を乗り出しそうな勢いで山瀬が声を上げ、麻祁に顔を近づける。

「ああ、警察にも裏を取って確認してきた。間違いなく潰れている、大体、調べた中では、そこの人間のほとんどを潰したのはその追いかけられていた人物となっていたんだが?」

「あれはただ逃げていただけで、相手が勝手に倒れていったんだよ。数が数だ、俺だって必死だったんだ、正面から挑んだって勝てるわけがない」

「そのせいもあって人手不足に陥っていたらしいな。おかげで容易に攻めやすかった」

「攻めやすかった? ……って、まさか警察?」

「そんなわけないだろ? 私が警察ならわざわざその場所にいって裏を取ったりしないよ。私はたまたまその組織に用があって入り込んだんだ。生きたままの人間を搬送して臓器や人体を売りつけるなんて、当然ロクでもない場所に繋がっていくからな。たまたま出会って、たまたま反撃したら、たまたま潰れて、そしてそれが、たまたまここまで繋がっただけだ」

「は、はは……なんだよそれ……」

 呆れたような表情で山瀬は目を点とさせ、力が抜けたようにソファーへと背を預けた。

「それこそ本当にどこかの下らない映画みたいじゃないか……一体お前は何なんだ? 俺の事はすぐに調べられるわ、警察とも関係はあるわ、一人でどこかの怪しい組を潰すわで、俺の目の前にいるのは世界を牛耳る権力者の一人か? それとも超能力者か? あの時もそうだ、俺の車で運んだ際も、妙な奴らから追われていたし……」

「この世界は思っている以上に広大で深い。この狭い室内ですら、厨房がどうなってるやら、トイレがどうなっているか、はたまた、そこのドリンクコーナーに置いてある機械の中身ですら知らないんだ。もしこの大勢の中に一人だけ異常人格者や例え億万長者の金持ちが居たとしても誰も分るわけないだろ? そんなものだよ、自分達の持てる常識というやつの範疇ってのは」

「なんだよそれ、よくわかんねーよ」

 麻祁が横に置いてある呼び出しのスイッチを押す。

 メニューを開くと、笑顔を浮かべる店員がすぐに現れた。

 麻祁はメニューに載せられていたパフェの一つを指差し、注文として伝え、店員は同じ言葉を繰り返した後、空になった食器を持ち、奥へと姿を消した。

「まあ私が何であれ、一人で全ての仕事を終えるのは不可能に近い。誰かの協力を得てこそ、ここまで生きてこれてるんだ、そしてこれからも……。一人で出来ないものには、必ず協力者がいる。頭を下げて頼みたい所だが、どれだけ下げようが、結局仕事を受ける受けないかはその人次第だ。内容を聞いて、損得を考えて決めればいい。ただ私は裏切りという言葉が嫌いなだけだ。――さぁ、どうする?」

 机に立てた右手に頬を置き、麻祁がじっと山瀬の目を見る。

 まるで試験官のような何かを試している表情に、山瀬は目を逸らすことなく言葉を返した。

「本当に危険はないんだな?」

「内容自体は命を賭ける危険な場所など見当たらず、更には二日と日を跨ぐこともなく、その日に終えれるはずだ。それに私だって運任せで依頼を受けるつもりはない。立てれる対策は立ててから受けている。問題なのは私は先見者ではない、それだけだ」

「……分かった、受けよう」

 山瀬の言葉に、麻祁は右手を戻した。

「報酬は必ず出す。……それとそこに渡してある資料は必ず目を通しておいたほうがいい。出来る限り依頼に関連する情報を集めてある。目を通す通さないかで、この後の状況が変わってくるかもしれない。もしもの時のためにも、見ていて損はないだろう」

「失礼します」

 突然聞こえた店員の声に、麻祁はお盆に乗せられたパフェを受け取り、スプーンでクリームを掬った。

「まあ、私がパフェを食べ終えるまでの間だがな。……ああ、それとこの後の予定としては、着替えをするために移動するから」

「……着替え? 何の為に?」

「この格好で護衛なんて仕事は出来ないだろ? よく見てみろ、今のこの光景はは傍から見れば、麗しき女子高生と、どこかのおっさんのツーショットになる。十分怪しい関係だと思われないか?」

 その言葉に、山瀬はパフェを食べている麻祁を見た後、自分の服に目を向け、そして周囲を見渡した。

 大勢の人がそれぞれ向かい合って話している中、疎らな数人がこちらを見ている。

「そんな目立つ髪の色しているからだろ? なんでそんな色に染めてるんだよ?」

「私の意志で染めたわけじゃないよ。生まれつきなんだから仕方ないだろ? ――はい」

 声と共に指し出される裏返された伝票。

 突然の事に、男は目を丸くさせ、それを見た後、麻祁の方へと向いた。

「なにこれ……?」

「もう追われている心配は無いという情報に対しての請求書。本当なら、現金支払いなんだが、今それを入れる為のサイフを持ち合わせていないから、それで。老衰までの安泰がほぼ確定されたんだ、安いもんだろ? さあ、行こう」

 口の周りを舌でなぞり、麻祁がザックを持っては席を立つ。

「ちょ、ちょっと待てって!」

 山瀬は急ぎ呼び止めるも、すでに背を向かせ、銀髪を揺らす麻祁の足を止める事はできなかった。

 しぶしぶ伝票を手に取り、深くため息を吐きながら立ち上がる。

「俺が食ったんじゃないのにな……何か食えば良かった……」

 再び吐き出されるため息が、伝票をヒラヒラとなびかせた。

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