第七章:高速の攻防戦
――冗談じゃない。
出された提案の一つは、とても俺の脳じゃ理解し難いものだった。
そんな映画みたいなこと、普通に考えても出来るはずがないだろ!?
本当にそれを通しやるのか、確認の為にもう一度横に居る女に目を向けた。
少し視界のぼやける透明のゴーグルから見える女の顔。前から吹き荒れる風により長く伸びた銀髪が揺れ動くも、同じゴーグルを付け、そこから通して見えるその目は、しっかりと俺を目を見ていた。
その目はまるで――俺がうなずく事以外は許さないようだ。
視界をすぐに前へと戻す。
割れたフロントガラスから広がる景色。そこには長く先の続く高速道路がどこまでも伸びていた。
等間隔に並べられたオレンジ色の照明灯が、目の前のトラックの姿をハッキリと映している。
荷台には刀を持った短髪の女がじっと俺達の車を見ている。
俺は出来るだけ距離と速度を保ちつつ、再び横にいる女へと大声で呼びかけた。
「本当にやるのか!? もしミスっ……りしたら……」
前から吹き込んでくる強風に思わず喉が潰されそうになる。
「ミス? 結果は後から来る。問題はそれを、やるかやらないかだ」
「――ッチ! んなことは分かって……るよ! そうじゃねーだろ!! 映画じゃないん……ぞ! んな事が上手くいくなん……考えられねーよ!!」
車を前に突っ込ませた衝撃でトラックの荷台に乗る、だって? んな話どう考えても上手くいくわけがない!
「さっきから何を言っている? それをやろうとしているのは私、自身だ。何も車で直接ぶち当てろとは言っていない。たださっきと同じようにすればいいというだけだ。この車なら出来るだろ?」
冷静に淡々と語るその口調に、徐々に苛立ちを覚えてくる。
こんな状況だってのに、どういう神経をすればここまで平常で居られるんだ?
もう一度横にいる女の方へと顔を向けた。
真っ直ぐとした視線で、トラックの荷台を睨むように見続けている。
その姿から、嫌でもヒシヒシと伝わってくる。
どれだけ言ったところで決して折れる事はなく、俺が拒否すれば、必ず何かしらの行動は示し、強行でも行こうとする。
俺自身が助かるには――前に突っ込むしかない。
「…………くそ!! どうなってもしらねーぞ!!」
俺はアクセルを思いっきり踏みつけた。
吹き上がるエンジン音に、風のぶち当たる音と衝撃が強さを増したのが、この体に直接伝わってくる。
まるでトラック自身が車を近づかせまいと両手で押しているような感覚だ。
俺は負けじと更にアクセルを強く踏んだ。
横にいる女は、手にしていた身の丈ぐらいはある刀を突き出し、未練がましく端に縋り付くフロントガラスの破片をなぞる様に次々と削った後、今度はそこからボンネットの上へと体を乗り出した。
風に押され、体が後ろへと倒れる中、女の声が耳に入ってくる。
「よし、やるぞ!」
その声に俺は体を前のめりにし、限界いっぱいにアクセルを踏み込んだ。
トラックの荷台にいる女は、その行動を読んでいるのか、刀の構えを変え待ち受けている。
狂ってる……ほんとうに狂ってやがる、どいつもこいつも――!!
大量に噴き出す汗が、風により全てを吹き飛ばしていく。全身には異様な冷たさだけが残されていた。