第六章:ストレートオッドあい
虫の声も聞こえない深い夜。二人の男女がガードレール越しに外を眺めていた。
足下の崖下に広がる木々を抜けると、その奥では煌びやかな明りが水平に伸び、光の道を作り出す。空を見上げれば暗闇の中に点々とした星々が散りばめられ、一つだけ浮かぶ月の明りにより、それぞれが互いに輝きあっていた。
二人は肩を寄せ合い、先に見える景色を眺めていた。何分、何時間でも――。
やがて、男が声を掛け、女を一人残し動き出す。
女が景色を眺めている中、男は後ろにある車に乗り、エンジンをつける。静寂を打ち破るように、低い震動音が何度も鳴り響き、ヘッドライトが女を映――。
「――えっ?」
突然聞こえた鉄の音。再び暗闇に包まれた女が、それに反応し振り返る。
「……!!?」
自然と開かれる目と口。目の前に広がる光景に思わず驚愕する。
ヘッドライトにより映し出される道路、そしてそこに散らばる幾つもの破片。今だにエンジンを鳴らす車のフロントガラスには赤色のえき――。
「キャッ!!」
鉄を激しく叩く音が再び聞こえると同時に、車が突然後方へと滑るように動いた。更なる激しい音を響かせ、道路を照らす明りが徐々にずれ動き消えていく。
「な、な……ぐっ」
後ずさりする女の体に強い衝撃が走る。
自然と漏れる低く唸るような声、女性の体がゆっくりと崖下へと落ちていく。
最後に見えたもの、それはただ真っ黒に染まっていくだけの景色だった。