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Luxlunae  作者: 夏日和
第五章:緑の猛者
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四節:緑、緑、緑、緑

「気持ち悪い」

 麻祁のその一言は、まさに今、目にしている場所の状況を伝えるには最適だった。

 一面に広がる緑の空間。まるで全体に緑の粉を……いや、俺の付けているマスクのカバーそのものがその色であったかのように、目に映る全てがそれでしかなかった。

「なんなんだよ……これ……?」

 片足を持ち上げ、床を覆い尽くす苔絨毯を踏みしめる度、小さな埃のようなものが舞い散る。

「それを知る為にわざわざここに来たんだ。もしこの場所に居なければ、帰る。まあ、居るんだろうけどな」

 その言葉に、ふと疑問を感じた。まるで、絶対に居ると言う確信を得ているような言い方だ。

「本当にいるのか……? こんな場所に……」

「この部屋に入る前に防護服の数を確認した。いくつか無くなっていたから着て入ってる可能性が高い」

「いない可能性も……」

「いなければ即座に帰るだけだ。大体、いない可能性など考えているなら、こんな場所には来る必要などないだろ?」

「そ、それはそうだけど……」

 小部屋から、次の部屋へと移る。

 開けた場所、そこに足を踏み入れた瞬間、俺の目が奪われた。

「どうなってんだよ、これ……」

 目の前に、巨大な緑の円柱が立っていた。

 その異様な姿、一言で表すなら――大樹。長年その場所で生き続けていたそんな風格を出している。

 散らばる机を掻き分け、さらに近づいて見るとその大きさに気持ち潰されそうになる。

 円としての太さはかなり大きく、両腕を伸ばした所で端までは当然手は届かず、どれだけ背を伸ばしても、天井近くまで伸びる天辺を覗くことも出来ない。

 足下には複数の大型の機械が円柱を取り囲み、祈るようにゴーゴーと唸り声を上げては、伸ばす大小様々の太さの管をその母神へと絡み付かせていた。

 伸びる管は天井へと辿り着くと、そこから更に枝のように分かれ広がっていた。それが原因なのだろうか? 天井からは緑の粉が絶え間なくヒラヒラと降り注ぎ、足下では雪のように積もっていく。

 ゴーグルに付いた粉を振り落とし、背を伸ばしては、緑の円柱に指先を付ける。硬くツルツルとした感触が伝わってくる。

 手を放し、触れた部分を確かめる。……何も付いてない。防護服の色、白いままだ。どうやら、容器の中が緑色に染まっているようだ。

 辺りに目を向けると、機械の上にも緑色がこびり付いていた。ただ、その色は辺りに漂う薄緑ではなく、まるでペンキをぶちまけた様な真緑の色をしている。円柱の容器を染めている色と同じだ。気になり、それに触れようと手を伸ばす。

「何に触ろうと構わないが、その後は私について回るなよ?」

 突然聞こえる麻祁の言葉に、すぐさま俺は手を戻した。辺りを見渡すと、少し離れた場所に麻祁の姿があった。俺と同じく乱雑とした机の中に入り、背を向けて何かを探している。

「えっ? ……いや……その……」

「もし手に触れ、感染でもしてみろ。自身では気付かないうちに体を蝕む状態になっていくかもしれない。ほら、さっき指先であのガラス容器に触れたから……」 

「ッ……!?」

 すぐさま指先を確認する。……緑の埃が微かに付着しているものの、白いままで変わりはない。

「あまり下手に物に触るな。ここで漂っているのは、決して私達に友好的なものではない。この埃のように舞い散る緑の物体だって、一つ一つが何かの生物である可能性があるんだぞ。ほら、周りをよーく見回してみろ。私達はすでに取り囲まれている」

 その言葉に俺は改めて自分のいる場所の危険さを、再認識させられた。

 ふわふわと上から降り注いでくる無尽の粉、散らばる机と足下に積もっては、少しでも動くたびに、舞い散らせ、そして姿を消す。

 ただその場所に留まり、そして何もせず、俺達が動くたびに初めて動作を見せる。そう、俺達が動かし、何も起きないから無害と感じていたが、実際はただ動かない、寝ているだけなのかもしれない。俺は今、その寝ている生物の上を平然として踏みしめて歩いている……。

 ふと視界に自身の体が入る。それを目にした時、その変容に驚かされた。さっきまで真っ白の防護服に、無数の緑の斑点が出来ていた。――すでに侵食が始まっている?

 そう考えた瞬間、全身に寒気が走った。辺りを見渡せば、緑、緑、緑、緑、緑――。

「自身が変容していく様を、体感したいならどうぞご勝手に。私は移動する」

 机を押し退け、体の向きを細かく変えては、麻祁が移動を始めた。

「ま、待ってくれよ!」

 すぐさま机を押し退け、同じ方向へと向かった。

 麻祁は壁際に立ち並ぶドアの一つの前に立ち、それを横へとずらす。

 抵抗することもなく開かれた部屋からは、微かに緑の粉を俺達に向かい吹き散らしてきた。曇る視界をすぐさま払いのけ、奥へと進む背中を追いかける。

 中は――荒れていた。中央の大部屋と同じく、机や色々な物が床へと乱雑に散りばめられていた。ただ、この部屋も緑の染まっており、一体何が散らばっているのかまでは分からない。

「この部屋は……?」

「ドアを開けるためのキーボックスがある部屋。……とはいえ、ああも簡単にここが開くのだから、ドアの鍵自体は機能していないのかもな。一応、貰ってお……く……」

 麻祁が更に奥の部屋へと進んでいく途中、言葉と共に足を止めた。

 左の足下を見つめたまま、動かない。

「何かいるのか?」

「……ああ、いるね。ここから先は私一人でいく。すぐに戻る」

 そう言い、麻祁はドアを開け、奥の部屋へと消えていった。

 一人残された俺は、先ほど麻祁が見ていたものが気になり、その場所まで近づいた。

 二人が横並びでもようやく通れる狭い通路、その左側を戸棚が占拠していた。その下、緑の粉が奇妙な形で盛り上がっていた。長く伸びた長方形の型、それに、よくよく見ると色も違う。それは、あの中央の機械を染めていた真緑が微かに――。

「――邪魔」

 ふと麻祁の声が聞こえた。視線を前に向けると、黒のガスマスクが間近にいた。

 俺はすぐさま元の位置まで戻り、麻祁が通り過ぎるのを待った。 

 部屋を抜け、中央の大部屋へと出た後、すぐに歩き出す。

「これから、ゆうきと資料がいる場所に向かう」

「場所は分かるのか?」

「ああ、大体分かる。さっきので」

「……さっき?」

 中央の大型の容器を通り過ぎ、さらに奥へ、奥へと進む。

 狭い通路を抜け、何枚ものドアを通る。しかし、辺りの景色は変わることはなく、唯一床下に積もっていた緑の色が、徐々に濃さを増している。まるで、ペンキを床にぶちまけたように所々がその色で染まっていた。

「少しずつ増えてきてるけど、これ何なんだ? なんかあの緑の粉が濡れて、ペンキのように固まっているように見えるんだけど……」

「これ?」

 麻祁が手にしていた黒い棒を真緑の塊に向ける。

「ああ……それだけ――」

「人だよ」

「ああ、人か……えっ? 人?」

 一瞬足が止まりそうになるも、麻祁は止まらない。何かの聴き間違いだと思い、もう一度それを言葉に出してみた。

「人って……」

「人間だよ。ここに転がっているのも、あそこに転がっているのも、ここもここもここも――」

 前に進む事に棒をさす箇所が徐々に増えてくる。それは、その真緑が見える場所もあれば、完全に粉にまみれ、見えない部分までもだ。

「それにキーボックスがある部屋で倒れていたのも、その前で横になっていたのも人間。ここに常駐していた警備員か作業員、もしくは逃げ遅れた研究員か……何にせよ、外形がペンキのようにぬりたくられたような姿になっているから判別が出来ない。分かるのは微かに見える骨だけだ」

「な、なんで人がこんなに……」

 それは俺にとっては想像を超え、もっとも思いたくない事の一つだった。

 麻祁の言う事が正しいなら、俺達は今、死体の敷き詰められた場所を歩いていることになる。こんな狭い空間に、麻祁が指した場所は数箇所にも及ぶ。直接見えないだけマシだが、もし何も被されてない状態でここを通れと言われたら、俺は絶対に通らない。

「バイオハザードが発生した時に、瞬間的に巻き込まれたとしか考えられん。原因は言わずもがな、この粉だ。こいつが影響しているとしか思えない」

 麻祁が軽く左手を払う。

「爆発か何かは知らないが、何かの勢いでこの粉が噴出されて部屋中に蔓延し、その場にいた全員が即座に感染。更に、粉粒体の為、一気にダクトから流れ、他の部屋への感染拡大といったところかな。こことダクトが繋がっているところだけが侵食されていたと考えるなら、一部の階のみがそうなっていたというのも都合がつく」

「やっぱこの粉のせいで……でも、どうして俺達は何もなっていないんだ? これだけ粉にまみれていたら……」

「何言ってるんだ、防護服を着ているからだろ?」

「あっ、そうか……」

「はぁ……とにかく、この粉が口、もしくは皮膚から侵入して、感染が起き、そして何かの影響を受けて、今液体化して、ああいう風に真緑に染まっているわけだ」

 その言葉にふとある映像が思い浮かぶ。それは、あの中央で見た容器とそれの周りを取り囲む機械。そこにもあの液体化した粉で染まっていた。人だけじゃないのか?

「さっきの広場でもその液体化した真緑のやつを見たんだけど……あれはどういう事なんだ?」

「広場? ああ、中央のあのバカデカい入れ物か……。生物だけに感染すると思ったんだが、確かにあそこにもいたな。もし生物のみに感染すると考えるなら、私達は奴らにとっては一種の栄養素の塊だ。それを吸い尽くしたから変質したとなら分かるが……容器だけじゃなく、あの周りに置かれていた機械にまでも付着しているのを見ると、さすがにあれに奴らの栄養素となるものがあるとは考えられない。となると……」

 上を照らす薄緑の明かりが点灯し、不気味に周りの様子を隠しては現せたりを繰り返す。懐中電灯を点けずとも、近くに何があるのかはわかる。

……徐々に床下に倒れる真緑の塊の数が増えてきている。それは目的の場所、緑の粉の発生源に近づいているのだと、嫌でもその事を伝えてくる……。

「臭いに音、それとも振動に熱……何に反応したのか……ん?」

 あるドアに手を掛けたとき、麻祁の言葉と動きが止まった。少し待つがドアは開かない。

「どうしたんだ?」

「……重たい。中から何かが押えている感じだ。……こうたい」

 振り返り、麻祁が俺の後ろへと移動する。俺も元来た道を帰ろうとした時、目の前に麻祁が立ちふさがっていた。右手に持った黒い棒を地面に立て、左手をこちらに伸ばす。

「あれ? 後退じゃ……」

「そうだよ、交代だ。交代したら次はどうする? 前進だ。ドアを開けろ、私が後方から援護する。そのザックは私に貸せ、邪魔になるだろ」

 すかさず伸ばされる手が、握り締めていたザックを連れ去っていく。

「な、なんで俺が!?」

「この長い棒では開けた瞬間に何かが襲ってきた場合、咄嗟に対応が出来ない。有効的に使うには後方から突き立てるのが一番だ。それとも私がドアを開けた時に何かに襲われたら、お前が引き剥がしてくれるのか?」

「えっ……そ、それは……」

「例え助けずに、逃げたとしても、それは生きる為の一つの選択として私は恨みはしない。私が襲われたら逃げればいい、ただし、地上までの帰り道は分かっているんだろうな?」

 ハンマーで殴られたような衝撃が全身に走った。……俺は麻祁の背中しか覚えていない……。

「ちなみに耳にある通信機器を使って出る方法もあるが、それを入手するには喰われている私に接触しなければならず、更には襲われている最中だから、お前にも何かしらの被害は出るだろうな、腕一本は覚悟しておけよ。……それが面倒だと思うなら、ドアを開けろ。それがもっとも手っ取り早い方法だ」

 顎をドアへと何度も動かし、麻祁が急かす。

 俺は何も言えずしぶしぶ振り返り、ドアに手を掛けた。

「それに安心しろ。こういう経験はよくある」

「経験って……、それじゃそいつは助かったのかよ?」

「………………」

「ああ、こええ……なんで俺が……」

 いつものようにドアに力を入れ、左へと力を入れる。

「……!? おいおい、本当かよ……」

 思わず漏れる言葉。頭の中で思い描く映像とは違い、ドアに力を入れても、容易に左へとは動いてくれなかった。麻祁の言う通り、俺達を部屋の中へと入れさせないように、中から誰かが押えているような感じだ。

 一度後ろへと振り返る。そこにはザックを盾のように構え、黒の棒をいつでも前へと突き刺せる様に引く麻祁の姿があった。まるで狩人が獲物に止めを刺すような一瞬。その向けられた先端が、今も俺の背を目掛けて突き出される感覚を覚える。

 俺はすぐに向き直り、ドアを掴み思いっ切り左にへと力を入れた。

 一回、二回、三回、四回、ご……。

「――!? うッ!!」

 勢いよく開いた瞬間、視界の下で何かが動く。俺は咄嗟に両手を重ね顔を覆った。

 同時に何かが地面に倒れ、微かに粉が巻き上がった。すぐに静まり、辺りは先程と変わりない景色に戻る。

 足元を確認すると、そこには緑のペンキを塗られた人間の姿があった。しかし、それは他に今まで見てきた他に寝転ぶ人たちとは違い、両手を握りしめ、まるでさっきまでドアを叩いていたような姿をハッキリと表していた。

「……見捨てられたか?」

 そう流すように一言いった後、麻祁はそれを通り過ぎ中へと入っていく。

 部屋の中は、他の場所と同じく、研究室と実験室を兼ねたような造りになっていた。

 中央には何かを飾るようなガラスのショーケースのような台と机。壁際には備品を入れる戸棚と何かの機械がズラリと奥まで並び、そして足元には数体の緑の塊が散らばっていた。

「さあ、どこにいるかな」

 足下に散らばる粉を足で払いながら、緑の塊にそれぞれ首を向けつつ、どんどん奥へ麻祁が進んでいく。

「お、おいちょっと……!?」

「ここからは別行動だ。もう酸素の容量も少ない。死体の多さからココにいるのは確かだ。さっさと見つけて帰るぞ」

「見つけるたって……」

 辺りを見渡すが、こんな場所に人がいると到底思えない。

 ふと視界を戻すと、すで麻祁の姿はない。俺はため息を吐き、右にあるドアを目指した。

 下にいる緑の塊に目を向け、探す。しかし、どれも同じ姿ばかりで当然見分けなどつくわけがない。

「どれも同じ姿なんだが……どうやって見つければいいんだよ……」

「ここに入ってから数十日も経ってはいない。仮にここにいる連中がもし数十日経ってこの姿なら、まだ緑色には染まってないはずだ。それに防護服を着ずに、ここに入るほどバカではない。私達が平気なように、防護服を着ていれば感染自体間逃れているはずだ」

「それじゃどうして戻ってこないんだよ。防護服を着ているなら戻ってこれるはずじゃ……」

「何か予期せぬものに襲われたかもしれない。例えば上から物が落ちてきて、足が挟まれたりとか」

「えっ? それなら呼吸できなくなるんじゃ……」

「その点は問題ない。この部屋に入る前に見た防護服は、酸素ボンベとガスマスクが付けられていた。もし酸素がなくなっても、マスクの方で呼吸できるようになっている。マスクには中和剤が付けられているから、多少なりこの環境内でも呼吸は出来る」

「――なくなった場合は?」

「……それでも可能だ。ただ、この環境だ……。フィルターで粉自体の吸引を抑えれるとしても、身体にどのような影響が出るかは分からない」

「それって……もうすでに……」

「それを確認する為に来たんだ。足を痛めて動けず、ただ腹を空かして座り込んでいる可能性もあるし、いないならいないでそれでもいい。……後、無駄骨にならないよう適当に資料もいただいていく。それはこちらで調べるからお前はとにかく、黄色の防護服を探……せ。……見つけた」

「えっ?」

 その言葉に俺は辺りを見渡し、すぐに動きを止める。……俺は麻祁の近くにいなかったんだ。

「ど、どこに!?」

「どこと言われても、お前のいる場所が分からない。とりあえず、中央に戻ったら奥へと進め。開いているドアがあるから、そこにいる」

 部屋をすぐに出て、中央へと戻り、麻祁が消えた奥へと進む。

 目の前に現れる幾つものドア、その中の一つだけが開いている。俺は部屋の中へと足を踏み入れた。

 辺りには数体の塊、そしてその奥、パソコンの前に緑の粉を被った白の防護服が頭を下げて立っている。近づき、同じ場所に目を向ける。

――黄色の防護服。それはこの場所に入る前に見た、この施設に置かれている防護服だった。顔には黒のガスマスクが付けられ表情まで見えない。

「この人が……?」

「ああ、間違いない」

「でも顔が……」

「目を見れば分かるよ」

 その言葉に、俺はガスマスクに目を向けた。体中にはあの緑の粉が降り積もっているのに対し、ゴーグル部分の粉は払われたように、まっすぐ横線が入ってた。そこから覗く目は瞼を閉じ、まるで眠っているように見える。

「……まさか、死んでるんじゃ……」

「そう思って見たが、息はしている。背中のボンベは空になっていたが、呼吸は出来るようだ。ただ、吸引する穴が粉で詰まるか、必要分の酸素が確保できなかったのか、それで気絶している可能性がある。なんであれ、このまま運んで地上へと出る。これ持って」

 すっと差し出されるザックに黒の棒、そしてホッチキスで纏められた数十枚の紙。それを手に取ると、麻祁はしゃがみ込み、床で倒れているゆうきさんの背中で何かを作業を始めた。

「なにを?」

「空のボンベに価値はない。ただの荷物は負担になるだけだ、外して運ぶ」

 ガチャガチャと音をたてながら、器用にボンベを外し、防護服とガスマスクだけの状態にする。

「その資料と棒を、ザックは任せる。さぁ、持ち上げるぞ。右を頼む」

 麻祁は左肩にゆうきさんの右腕を回し、背中から上へと持ち上げる。座るような体勢へと変わった時、俺も腰を下げ、左腕を肩へと回した。

「いくぞ、せーの!」

 掛け声とともに、一斉に腰を上げた。

「ぐっ……!?」

 思っている以上の重さに、思わず声が漏れる。

「気を抜くな。意識のない人間はその体重分での、ただの重りでしかない。さっさと運んで、この場所から抜け出すぞ」

 麻祁が一歩前へと足を進めると、俺の肩に掛かっている腕が引っ張られた。半ば強制のような感じで、否応にも足は前へと進めるしかない。

「ちょ、ちょっと待って、早いって――!」

「ここまでの距離だ。このぐらいの速さでないと私たちの酸素が切れてしまう。その為に、毎日リストバンドや運動をして鍛えてるんだろ」

「んなこと言ってもよ!」

 肩に背負うボンベと手に持つザックを煩わしく思いながらも、ずるずると足を引きずりながら部屋を後にした。

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