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Luxlunae  作者: 夏日和
第二章
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三節:始まりの音

 俺の真上で空を断続的に切り裂くような音が鳴り続けている。

 その横にいる麻祁は銃を手にし、持つ部分の下から筒状の物を取り出し、中を確認し始めた。

 大きく渦巻く風により、白銀の長髪が大きく乱れるも、気にしている様子はない。

――どこなんだここは……。

 首を振り辺りを確認する。

 前と左右を見渡せば、切り立った岩壁が俺達を囲み、後ろへと振り返れば、そこにはどこかに続く一本の道が目に入る。

 それはまるで自然に出来た檻のような空間。そこには何かの機材や木材など色々な道具が置かれていた。

 視線を正面へと戻す。ふと俺の目にあるものが目に入った。それは格子状の鉄扉だ。

 切り立つ岩肌に開けられた洞窟の入り口をその扉が塞いでいる。……奥は暗く何も見えない。

 本当にどこなんだここは……。

――――――――――――――――

 俺の前に立ちふさがった麻祁が不気味な笑みを見せる。

「それじゃ行くぞ」

 ドアの方へと振り返り、ノブを握った。同時、向こう側からカチャという音が聞こえた。――麻祁の動きが止まる。

 何も言わず握ったままのノブを回し、そして引っ張った。

 ガタッとドアが揺れるだけで開かない。どうやら、次の授業時間が迫り、閉めらたらしい。

 扉を開けようとしているみたいだが、鍵の閉まった扉が開くはずがない。

 しばらくその音は続き、そして、諦めた麻祁はスカートのポケットから携帯を取り出しどこかに掛け始めた。

「……出られなくなった。……どこって学校の屋上だ。……ああ、間に合わなかったらしい。普通は確認の一つはするものなんだがな……。まあ、都合が良くて助かる。……すぐにヘリを用意してくれ。……時間はゆっくりでもいいが、出来るだけなら早くがいい。都合を付ける為にドクターヘリを……、後、荷物も積んでいてくれ、今日は直接向かう」

 電話を切り、ポケットに入れる。その後、俺と目が合う。何もできずに座り込む俺の姿に対し無表情で、

「まあ待とうか」

そう言った後、ドアに背を付けた。

 なんなんだコイツは……。

 今までの出来事を頭の中で整理しようにも、俺は考える事すら出来ずにいた。

 もはやその言動がまともでないことは、この目や耳からも直接伝わっていた。

 一見、緊迫とした雰囲気と表情を見せ、本気だという事を感じさせておきながら、すぐに砕けたような態度へと変わり、さっきまでの緊張感を崩していた。

 その切り替わりに、俺は異様な印象を受けた。

 全く中身が見えてこない。まるで水を掴んでその中を見ようとしているみたいだ。その水は指の間から流れ落ち、手には残らない。掴みどころのない女……。

 しかし、唯一、この女に関して、今分かる事といえば、あの夜に出会った時と、今の雰囲気とでは大きく違うという事だった。

 あの夜、カマキリのような生き物を殺していたあの女の姿は、静かで、何より冷たい印象を出していた。それは決して触れてはいけない、話しかけてはいけないというそんな空気を――。

 だが、今ではそのような雰囲気は無くなり、女自身、何も起きていないような素振りで、ドアへともたれ掛かっていた。

 俺はその独特な空気に飲まれるしかなかった。

 恐怖と安堵が激しく入れ替わり、共に合わさり渦巻いた後、それを一気に吹き飛ばす。

 もはや俺は何も言えず、ただそこ座ってその時を待つしかなかった。……抵抗なんてしても無駄だ。

 数十分後、俺の頭上に一機のヘリが現れた。大きな音を上げながら、一本のロープ、そしてその先にはハネースが付けられていた。

 麻祁はすぐにそれを掴み、体に取り付ける。

「……何をしている? いくぞ」

 言葉と同時に出される手。ヘリの風により白銀の髪が大きく乱れ、無表情の顔が見え隠れする。

 俺はその手を掴んだ。

――――――――――――――――

「いくぞ」

 渦巻く空気が穏やかな風へと変わる。

 風を切るヘリの音は完全に消え、今はさえずりと葉音しか聞こえない。

 その平穏な音を裂くように、麻祁が銃のスライドを引いた。

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