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【火ぐまと、ほしのカメラ】(童話)

掲載日:2026/03/30

※ひだまり童話館様の休館日に間に合うよう、必死に別作品(感想ご返信もせず、ごめんなさい!m(__)m)を書いてましたが、どうしても完結しそうにないので、元として考えていたお話を恥ずかしながら投稿させていただきます※


「近すぎると、気持ちはうまく届かない。けれど、遠すぎると、気持ちは消えてしまう」


これは、誰かと繋がりたいと願うすべての人たちが抱える、小さくて切実な悩みかもしれません。


この物語の主人公・くまナぱは、生まれつき頭に火を灯したクマの子です。

彼の優しさが強まれば強まるほど、その火は大きく燃え上がり、皮肉にも大好きな仲間たちを遠ざけてしまいます。


彼が「カメラ」という道具を手にしたとき、その火は誰かを寄せ付けないための壁ではなく、相手を最も美しく写すための「光」へと変わりました。


自分だけの個性を、誰かのための贈り物に変えたくまナぱの、静かで温かな旅をのぞいてみてください。


1. ひとりぼっちの「火ぐま」


むかしむかし、高い山と深い森、そして広い草原がゆるやかにつながる、クマたちの世界がありました。


そこには、のんびり屋のツキノワグマ、力持ちで照れ屋なヒグマ、雪が大好きなシロクマに、木登りが得意なマレーグマ……。いろいろなクマたちが住んでいました。


けれど、みんな自分とは違う種類のクマのことは、少し怖くて苦手でした。


だから、みんな少しずつ距離をとって、静かに生きていたのです。


そんな世界のはずれにある、あたたかい山の奥で、一匹の特別なクマが生まれました。


その子の名は、くまナぱ。


くまナぱの頭には、ゆらゆらと揺れる小さな「炎」が灯っていました。


彼は、世界でも珍しい「火ぐま」だったのです。



2. 世界のねがい


なぜ、火ぐまのくまナぱが生まれたのでしょう?


それには、悲しい理由がありました。


ずっと昔、この世界のクマたちは、激しい争いをしたことがありました。


「自分と違うこと」が怖くて、「相手を知らないこと」が不安で、みんなの心が氷のように冷え切って、「傷つけ合って」しまったのです。


そのとき、世界そのものが一つの「ねがい」を生みました。


「凍えた心をあたためる存在がほしい」


「近づきたいと思う気持ちを、消さないでほしい」


そのねがいが小さな炎となり、くまナぱに宿ったのでした。


その火は、誰かを燃やすための火ではなく、「心を灯すための火」だったのです。



3. 近づくほど、遠ざかる


くまナぱは、とても優しいクマでした。


「みんなと仲良くなりたいな」「一緒に笑い合いたいな」


そう思って仲間に近づくと、くまナぱの頭の火は、喜びで「ぽうっ」と明るく輝きます。


ところが、それを見たほかのクマたちは驚いてしまいます。


「うわっ、熱そうだ!」「燃やされたらどうしよう」


みんな、あわてて逃げ出していきました。


くまナぱは悲しくなりました。


「ぼくは近づきたいだけなのに……。近づこうとするほど、独りぼっちになっちゃうんだ」


それでも、くまナぱの火は消えませんでした。


誰かを想う優しい気持ちがある限り、その火は静かに灯り続けるのでした。



4. 魔法の箱と、不思議な火


ある日のこと。くまナぱは森の奥で、古ぼけた「カメラ」を見つけました。


木の箱に黒い布がついた、不思議な道具です。


試しにレンズをのぞいてみると、そこには、ありのままの世界がキラキラと美しく映し出されていました。


「まるで、世界が用意してくれたみたいに、ずっとここで待っててくれたみたいだ」


くまナぱは、ハッと気づきました。


「そうか……。無理に近づかなくても、こうして相手をじっと見つめることはできるんだ」


「火で照らさなくても、その子の素敵なところを、そのまま残してあげられるんだ」


くまナぱは、このカメラで写真を撮ることを決めたのです。



5. 写真屋くまナぱ


くまナぱは、森の中に小さな写真屋さんを開きました。


名前は、「写真屋くまナぱ」。


挿絵(By みてみん)


直接触れなくてもいい。近づきすぎて怖がらせなくてもいい。


ただ、離れたところから相手を大切に想い、静かにシャッターを切る。


くまナぱは、写真を撮るとき、自分だけの「火」を上手に使うようになりました。


彼の火は、ふつうのカメラのフラッシュのように、まぶしくも強くもありません。


とてもやさしい光なのです。


例えば、暗い夜の森や、強い光が苦手なクマを撮るとき、くまナぱは頭の火をそっと灯します。


すると、その優しい火の光は、暗い場所をぼんやりとあたたかく照らします。


眩しい光が嫌いなクマも、その光になら安心して、いい顔を見せてくれました。


また、逆に、ギラギラと眩しすぎる昼下がりの太陽の下で写真を撮るとき。


くまナぱは、頭の火を少しだけ強く燃やします。


すると、不思議なことに、その火の光が太陽の光と重なり、レンズの前に大きな「影」を作ってくれるのです。


そのおかげで、眩しい光を遮り、クマたちは目を細めることなく、すてきな笑顔で写真に写ることができました。



6. つながる心


くまナぱが撮る写真には、不思議な力がありました。


写真を見たクマたちは、自分や仲間の姿を見て、しみじみと思ったのです。


「自分とは違うけど、こんなに優しい顔をして笑うんだ」


「知らないことは怖かったけど、知ってみれば、こんなに素敵なんだ」


写真は森から山へ、山から草原へと広がり、クマたちの心を少しずつ溶かしていきました。


「ちがうことは、怖くない。ただ、知らなかっただけなんだ」


いつしか、くまナぱの周りには、たくさんのクマたちが集まるようになりました。


ツキノワグマものんびりとおしゃべりし、ヒグマは自慢の力で木の枝を運ぶのを手伝ってくれ、シロクマは雪の芸術をカメラの前で披露してくれます。


マレーグマは木の上からくまナぱに挨拶をして、みんなで一緒に笑い合うことが増えました。


くまナぱは、はじめて、自分の火が「誰かのために役立ったこと」を知りました。


くまナぱは、もうひとりぼっちではありませんでした。



7. あたたかな灯と、「思い出」の贈りもの


いつしか、くまナぱの火を怖がるクマはいなくなりました。


くまナぱの火は、近づけば熱いけれど、遠くから見れば、暗闇を優しく照らし、強すぎる光から守ってくれる「希望の明かり」だと知ったからです。


長い、長い年月が流れ、くまナぱはずいぶんと歳をとりました。


頭の火は、以前よりも少し小さくなり、ゆらゆらと静かに灯っています。


それでも、彼の写真屋さんは、いつもクマたちの笑顔であふれていました。


ある日、大きくなったクマの若者が、自分の奥さんと子供を連れて写真屋さんにやってきました。


挿絵(By みてみん)


くまナぱは、懐かしそうに目を細めて、一枚の古い写真を取り出しました。


「おや、ひさしぶりだね。ほら、これは君だよ」


そこには、お母さんのクマに抱かれて、すやすやと眠る赤ちゃんのクマが写っていました。


「えっ、これがぼく?」


若者は驚いて写真をのぞき込みました。


「そうだよ。君が生まれたばかりのとき、ぼくが撮ったんだ。とても可愛い赤ちゃんだったよ」


くまナぱは、別の写真も取り出しました。


「あなたのおばあちゃんは、とてもきれいだったんだよ」


若者の子供に、きれいな毛並みのツキノワグマの写真を渡しました。


「おばあちゃん、こんなにきれいだったの?」


「そうだよ。おばあちゃんは、とても優しくて、みんなに愛されていたんだ」


クマたちは、くまナぱの写真を見て、自分の成長や、亡くなった家族のことを思い出して、涙ぐんだり、笑ったりしました。


くまナぱの写真は、クマたちの心を繋ぐだけでなく、大切な思い出を永遠に残してくれる「宝物」でした。



8. 星空の下で


ある日のこと、くまナぱは、仲間たちに静かな声で伝えました。


「ぼく、しばらくあっちの星まで写真を撮りに行ってくるよ」


「まだ灯せていない心がある気がするんだ」


クマたちは寂しく思いましたが、くまナぱの新しい冒険を応援しました。


「星の写真も、きっときれいだろうね」「気をつけて行ってくるんだよ」


くまナぱは、最後のシャッターを、静かに切りました。


「遠くの誰かも、きっと待っているから」


カシャッ


そして、頭の火を「ぽうっ」と点して、一人ひとりに手を振りました。


「うん、またね。たくさんの星の写真を撮ってくるからね」


「またね!」


クマたちの「またね」の声が、森の中に優しく響きました。


くまナぱは、カメラの横にある木の椅子の上に、 シャッターのふくらみが一つだけついた、きれいに巻かれたコードを大切そうに置きました。


挿絵(By みてみん)


くまナぱは、世界の願いを叶えました。


争いで冷え切ったクマたちの心を、写真と自分の火で温めたのです。


――くまナぱは、最後に空を見上げました。


そして、カメラを残したまま、頭の火をゆらゆらと揺らしながら、ゆっくりと夜空の星へと帰っていきました。



9. 永遠の約束


それから長い、長い年月が流れました。


クマたちの世界は、くまナぱのおかげで、すっかり温かくなりました。


異なるクマたちが仲良く暮らし、お互いの良さを認め合うようになったのです。


くまナぱが残したカメラは、森の中の星空の下、花畑の中に大切に守られていました。


木の上には、「火ぐまのひかりカメラ」と書かれた古い木の看板がかけられ、夜にはくまナぱの火のように不思議で温かい光が、カメラをそっと照らしています。


クマたちは、そのカメラを見るたびに、くまナぱのことを思い出します。


「くまナぱの火、温かかったな」「彼の写真、みんなを笑顔にしてくれたな」


そして、星空を見上げては、こう誓うのです。


「くまナぱがまた来たときは、今度はぼくたちが、くまナぱの写真を撮ってあげようね。一番素敵な笑顔でね」


星空の下、花畑の真ん中にたたずむ古いカメラは、くまナぱの火のように優しい光に包まれて、クマたちの絆を静かに見守り続けています。


「次にシャッターを切る誰かのために」


「まだ終わらない物語のために」


そして、クマたちは言いました。


(少しの静寂)


 「またね」 と。


挿絵(By みてみん)


  (おしまい)


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。m(__)m


くまナぱの頭に灯る火は、世界の「ねがい」から生まれたものでした。


現代を生きる私たちにとっても、時に自分の「個性」や「情熱」が、周囲との摩擦を生んでしまうことがあるかもしれません。


けれど、くまナぱがカメラを使って光を操り、時には「影」を作って相手を守ったように、私たちの持っている性質も、使い道ひとつで誰かを包み込む優しさに変えることができます。


「近づきすぎなくても、想うことはできる。触れられなくても、知ることはできる」


この物語が、大切な誰かとの距離感に戸惑うあなたの心を、くまナぱの火のように、ほんのりと温めるものになれば幸いです。


「優しさは、距離を間違えると届かない。でも、形を変えれば世界を変えられる」

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頭の火のせいでみんなに近づこうとするほど、独りぼっちになってしまうくまナぱ。とても寂しい状況でどうなるかと思いました。 でも、カメラを扱うことで、 近づかなくてもみんなの素敵なところを残してあげること…
くまナぱの火。 読む者の心まで温かく優してくれます。 素直でわかりやすいお話でした。
こちらから読ませていただきました。 火グマのおじさんの願いが、みんなを結び付けたのですね。 だけど、その思いが強ければ他者を退けてしまうという矛盾が何とも悲しい最初でした。 写真を撮るという距離で、み…
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