第31話 覚悟
冷たい指輪と火照った頬。
しばらく病室に戻るのはやめよう。
ちゃんと考えよう。
私は、糊さんを愛している。
でも、糊さんを愛している私は、いつか彼を壊す気がする。
それでもいいと思ってしまった瞬間、もう戻れなかった。
兄は私を閉じ込めたかった。弟は私を壊したかった。
でも私は、どちらにも愛されていたかった。
どんなに歪な愛と言われても、もう引き返せない。
引き返す気もない。
私は、私たちは、私たちの愛を貫くだけ。
そうだ。私は糊さんを愛していて、例えそれがどんな道でも貫くだけだ。
休憩室の水を一口飲む。
「よし!」
私は覚悟を決めて病室へと戻っていった。
病室へ戻ると、看護師さんに二人が正座されてお説教されていた。
「まったく!頭を打ったかもしれないのでこれから精密検査に行きますよ!」
「……はい」
「弟さんは付き添いで来られますか?」
その問いに答える前にわたしを見つけた弟の方の糊さんは笑顔になった。
「いいえ。兄一人で大丈夫だと思うので、よろしくお願いします」
「分かりました。さ、行きますよ」
「はい」
兄の方の糊さんがちらりとこちらを見て看護師さんについていく。
この短時間でだいぶ区別がつくようになったなぁ。
「精密検査だって」
「私を庇って階段から落ちたんだもん。当然だよ」
「心配?」
「心配」
素直な気持ちだ。
「さっき、どう思った?」
「さっきって?」
二人で主人のいなくなった病室のベッドに腰掛ける。
「キスした時」
「……。嬉しかった」
「嫌じゃなかったってことだよね?二人にされて」
「うん」
糊さんが破顔した。
「嬉しい」
そう言って擦り寄って甘えてくる。
「可愛い」
頭を撫でると、もっとというように頭をぐりぐりされる。
糊さんが帰ってくるまで頭を撫でて、時々キスして、手を繋いで、指輪はもう冷たくなかった。
糊さんが帰ってくる頃にはなんでもない顔をしてソファに座っていた。
なんとなく勘づいたようだけれど、何も言われなかった。
「もう帰っていいって」
「問題ないってこと?よかった」
「先生達が送ってくれるって。君も車に乗せてもらいなよ」
そうだ!先生!
「先生に見られたかな……」
「ずっといたんだからあの修羅場から全部見られていたでしょ」
冷静な糊さんに反して私は赤くなる。
明日からどういう顔をして学校に行けばいいんだろう。
「何も心配しなくていいよ。もう、他のなんて要らないんだから」
「そうだよ。三人で繋がっていればいいんだから」
糊さん達はそう言う。
それもそうかも。
だって、学校ではもう糊さんの側しか居場所がない。
「うん」
私は笑って答えた。
病室から先生達に送ってもらう時、三人で手を繋いでいる姿を見て先生は何か言いたそうだけれど言葉を噤んだ。
認められたわけじゃないけど、何も言えないんだろう。
だって、これが私達の愛の形だから。




