第30話 砂上の城
教室から浮くようになった私と糊さん。
完璧に三人だけの世界になっている。
糊さんは楽しそうにしている。
糊さんが楽しそうだと私も嬉しい。
おかしいと言われても、後ろ指を刺されても、私だけは彼を、彼達を好きでいたい。
歪な感情と関係だってわかっている。
それでも止められない。
だって、好きになっちゃったんだもん。
もっと早く知っていたらこんなに深みにハマることなんてなかったのかな?
でも、SNSで糊さんが私のなんてことない写真をいいねしてくれた時から糊さんは私の特別だ。
「そういえば、私のアカウントを最初に炎上させたのって糊さん?」
何気なく聞いた言葉はストンと私の中に落ちた。
私に執着する糊さん。
私を一人にしたかった糊さん。
三人だけの世界に閉じこもる糊さん。
「そうだよ」
ずっと疑念だったことがすっと晴れていった。
「なんでそんなことをしたの?」
「好きだから」
「好きでもしていいことと悪いことがあるんだよ」
「ごめん。でも、君は頼ってくれた」
うん。私の炎上からだよね。仲が深まったの。
そこまでして私からの信頼を得たかった糊さんが愛おしい。
私も充分おかしい自覚はある。
けど、糊さんはないんだろう。
この兄弟は無邪気に、ただただ、執着したものを愛しているだけで、愛されたいだけだ。
それが分かるから、許せる。
「仕方がないなぁ」
笑って許してしまう。
あんなに怖い思いをして、毎日怖くて震えていたのに、糊さんが力になってくれて、そばにいてくれて、でもその犯人が糊さんでも、私は糊さんを愛している。
だから許す。
愛しているから壊したい糊さん達と、愛しているから許す私。
歪なパーツがぴたりと嵌って私たちという世界になる。
「次の授業があるから行こうか」
「うん」
学校でお兄さんの糊さんと二人だけになれる昼休みが終わってしまった。
バイト先は、夜遅くなることもなることがあるから来なくていいよって言われている。
「それでも、来てくれたら送るけど」
少し照れて言う糊さんが可愛い。
でも、お兄さんの糊さんは可愛いは好きじゃないみたい。
双子なんて似るかと思ったけど、兄弟で変わるものだなぁ。
なんてのんびりと思っていたら階段で足を踏み外した。
あ、と思った時には蒼白で腕をこちらに広げている糊さんが見えた。
私はそのまま落ちて、糊さんが下敷きになった。
糊さんが目を開かない。
「糊さん?糊さん!」
近くにいた学生が先生達を呼んできている。
私は揺らしちゃダメだと思いながら泣きながら目を開かない糊さんに縋りついた。
糊さんがいなくなったらどうしよう。
私たち、三人で愛し合ってるんじゃないの!?
二人じゃダメなんだよ!
誰が欠けてもだめなんだ!
男の先生と保険医が来て保健室に運ばれていく糊さんに泣きながら後を追いかける。
しばらくして救急車が来て私は乗せてもらえず、懇願して何度も頼み込んで病院名だけ教えてもらってその日の授業が終わるのを待たずに病院へ向かった。
そこで彼の本名ってなんだっけ?って、重要な疑問に思い当たって立ち尽くした。
ずっと糊さんって呼んでいて、その前はクラスの後ろの男子って、認識で、私は糊さんの名前すら知らないんだと愕然とした。
「大丈夫!」
弟の方の糊さんだ!
「糊さん!糊さんが!」
「事情は聞いているよ!あいつならきっと大丈夫。病室はこっちだから着いてきて」
そう言われて手を引かれて、エレベーター内で泣いていた瞳を擦る。
「擦ったら跡になるよ」
ドアを向いたまま振り向かずに糊さんが言う。
「糊さんには、笑顔でいたいから」
「……それって、どっちの糊?」
「え?」
「なんでもない病室はここだよ」
振り向いた糊さんは、いつもの無邪気な笑顔で、案内してくれた個室の扉を開ける。
「糊さん!」
糊さんはまだ目覚めないままだった。
「糊さん……」
「大丈夫だよ。双子の俺が言うんだもん」
「糊さん、自分のこと俺って言うんだね」
「あいつとお揃いの時は合わせて僕だよ」
私が疑問に思って問いかけると、なんて事のないように言われる。
と、いうことは今まではお兄さんに合わせていたんだ。
「ご両親は?」
「あいつらなら来ないよ、多分。死んだらさすがに来るんじゃない」
「それは……」
糊さん達が歪な理由が垣間見えて、私は口を噤んだ。
「そんなに固く閉じたら血が出るよ」
そのまま顔が近付いてキスされた。
「糊さん」
「抜け駆け。あいつが先に仕掛けたのにもたもたしているから。ねぇ」
そう言ってベッドの方を見ると、糊さんが見たこともない顔でこちらを睨んでいた。
「糊さん!よかった!」
私がベッドに近付いて糊さんに縋ると、顔を上げられさせてお兄さんの糊さんにもキスされた。
「お前は昔から人のものを取るのが上手いよな」
「兄さんは昔から考えすぎて遅いよね」
私達が上手く嵌っていたと思っていたピースは、本当に歪で、些細なことであっという間に砕け散る砂上の城のようだと今更思い知った。




