第29話 三人でのデート
翌日の学校で、糊さんに話し掛けられた。
「今日の僕はどっちだと思う?」
「そうやって聞くってことは弟くんの方?」
「正解!」
合っていてよかった。
私は内心安堵した。
弟の方の糊さんは、兄の方の糊さんより私を試したり、無邪気なところがある。
かわいい。
ふっと、笑ってしまう。
「あー!笑われた!」
「だって、可愛いんだもん」
「それならいいかな?」
可愛いのはいいんだ。
お兄さんの糊さんは落ち着いていて、でも、恐怖を感じるのはお兄さんの方なのかもしれない。
「今日は入れ替わってきたの?」
「うん。みんなには内緒だよ」
「もちろん」
神妙に頷くとふわりと微笑まれた。
そういうところはお兄さんの糊さんに似ている。
「三人でのデート、楽しみだね」
「そうだね」
そう言いながら穏やかな時間が流れていく。
ずっとこうならいいのに。
でも、もう一人の糊さんが加わったらどうしよう。
私は二人を比べられずに好きでいられるのかな。
「どうかした?」
「なんでもない」
目敏い。
ここも兄弟で似ている。
ふふふ、と笑うと訝しげに覗き込まれる。
「やっぱりおかしい」
「なんでもなーい!」
けらけら笑いながら他愛無い話をして、デート当日に何をするかとか話し合ったりした。
大丈夫。私はどっちの糊さんもすき。
それだけは言い切れる。
デート当日。
ずっと前からおしゃれの勉強をして、可愛く見えるように鏡の前で試行錯誤した。
糊さんは可愛いって思ってくれるかなぁ。
待ち合わせ場所に向かうと、もう二人とも揃っていた。
二人とも、私服だとイメージが違う。
双子だけどキャラが違う。
マネキンみたい。
「お待たせ!」
「待ってないよ」
「大丈夫」
リアルで三人で会うのは初めてだから、どうしていいか戸惑っていると両手を二人に片側ずつ手を握られた。
「行こうか」
これは多分お兄さん。
「どこ行く?」
こっちは弟くん。
「どこでも、二人となら楽しいよ」
私は笑って言った。
それから三人でショッピングモールであれこれ見たりして、三人でお揃いの指輪を買った。
手にキラキラと輝くそれは、とても綺麗で、高校生にしては少し高価くらいなものだけれど、私の気持ちはとても昂っていた。
「ありがとう!糊さん!」
「喜んでくれて嬉しいよ」
「いつか、本物をプレゼントするから」
それはプロポーズだろうか。
顔が赤くなる。
「僕が言いたかった」
「言ったもん勝ちだよ」
兄弟喧嘩が始まったけれど、それも微笑ましい。
見守っていると、疎遠になっていたクラスメイトと遭遇した。
「あれ?久し振り……て、え?」
糊さんたちを見て固まる。
「双子なんだって」
「えっ、付き合っているんだよね?え、どっちと?」
「両方!」
私が笑顔で答えると、糊さんたちは満足そうだ。
でも、クラスメイトは違うみたい。
「おかしいよ、それ」
奇異なものを見る目で見られて、私は硬直する。
そうだよね。
おかしいよね。
「でも、二人とも好きなの」
私は弁明する。
「……そうなんだ」
そう言って、ヒソヒソ話しながらクラスメイトは去っていった。
「気にしなくていいよ」
「そうだよ。君には僕達だけいればいいでしょ」
「……うん」
そうだけど、そうじゃない。
私はなんとも言えない気持ちのまま三人でのデートを続けた。
休日が明けて登校する月曜日。
異様にドキドキする。
「おはよう」
私が言いながらドアを開けると、それまで賑やかだった教室がシンとする。
どうしたのかなんてすぐに思い当たった。
デートの時に会ったクラスメイトがこちらを見てヒソヒソ話をしている。
彼女達だ。
私は、なんとか足を引きずって自分の席に座る。
糊さん、早くきて。
祈りに似た気持ちで彼を待つ。
「おはよう」
また扉が開かれた。
同じようにシンとした教室で、糊さんは首を傾げた。
でも、私を見ると、微笑んで言ってくれた。
「おはよう」
「おはよう」
糊さんがいるから、息が出来る。
私は、共依存というものにどんどんハマっていく自覚を持ちながらも逃れたいなんて思えなくなっていった。




