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1.銀行家×債務者

「……確認しました。確かに規格内ちょうどですね」

 国王府の会議室は、乾いた空気が充満していた。

 机の向こうに座っているのは軍務卿、財務卿、そして参謀たちだ。中央に置かれた結晶の瓶を眺めると、財務卿は視線をこちらに向ける。

「兵士三百人分の、安全放出量に相当する魔力。返済は九十日後、波長は調節済み。問題ないのは確かだな?」


 マリウス・カピタールは静かに頷いた。

 彼は低く弾みのない声で言う。

「お言葉ですが軍務卿、マリウス魔力銀行は信用が第一であります」

「疑うつもりはない。ただの確認だ」

 外の景色は雲ひとつない快晴、マリウスは機嫌がよかった。軍務卿の答えに対して、何も言うことなくまた静かに頷く。


「それにしても……」

 参謀の一人が首をかしげる。彼はまだマリウス魔力銀行の名をほとんど耳にしたことがなかった。

「一体どうやってこれほどの魔力を?」

 マリウスは一言も喋らない。


「企業秘密ですね。では返済出来なかった場合について確認をしましょうか」

 彼は笑みを浮かべる。財務卿は書類をめくり、書かれていた文字を読み上げる。

「借りた額、五百マギアに対し、返済額は五百五十マギア。返済が出来なかった場合、兵站の権限は自動的にマリウス伯爵へ移譲される」

「異議はありません」

 即答だった。


 王国公認魔力銀行家。

 レクシオン勲章佩用者。

 これらはマリウス・カピタール伯爵が持つ肩書きの一つに過ぎない。彼は席から立ち上がると、革の鞄を持って国王府の会議室を後にした。

「我がマリウス魔力銀行はお客様と信用が第一です」

 彼はそう言い残すのだった。


 * * * * *


 国王府を出たマリウスは、石畳の通りを歩いていた。昼下がりの街は平穏で、行商人が大きな声で接客をしている。

 人々はマリウスの姿を見ると、無意識に道を空けた。

 その静けさを引き裂くように、破裂音が鳴り響く。


 バンッ。

 続けざまに発砲音と悲鳴。人々が散り散りに逃げ出す。露店の天幕が揺れ、籠に入っていた野菜が転がった。通りの中央に陣取り、銃を乱射したのは一人の男だ。片手に回転式拳銃を握っている。


 無骨な木製のグリップ。六つの薬室を持つ錆びたシリンダー。そして、一発撃つ事に重い撃鉄を起こさなければならない代物だ。これらの回転式拳銃を持っているのは一部のコレクター、或いは武装しようにもまともな銃を買う金がない貧乏人くらいだ。


 男は笑っている。彼は破産者だ。魔力を借り、返せず、人生を狂わされた存在だ。破産者は大抵冒険者なことが多い。

 彼の視線は逃げ惑う群衆の向こうで止まる。

 マリウス・カピタール。革の鞄を提げ、立ち止まっている男。


「銀行屋ァ!」

 男は銃口をマリウスに向けた。

「決闘だ!俺と決闘しろ!」

 マリウス、及び彼が率いる魔法銀行は一切の容赦がない。借金を返済できなかった場合は担保としてありとあらゆる物を持っていく。先の国王府との取引の場合は兵站の権限が担保だ。

 この男は無理な借金をした結果、ギルドの称号も、家も、そして残っていた僅かな財産すらも差し押さえられた。


「合図は?」

 マリウスは静かに聞いた。彼は今銃を持っていない。

 しかし逃げなかった。

「俺が言ったら撃つ!文句はないな!」

 鞄を地面に置いた。マリウスは着ていた背広を脱ぐと、鞄の上にそっと置く。

 男は勝ち誇ったように笑い、撃鉄を起こした。


「やれやれ、ルーカス・フェルト……だったかな?お前は最後のチャンスを棒に振ったようだな。私に銃口を向けていなかったら、牢獄で冷たい飯を貪る程度で済んだのにな」

「黙れ!決闘で勝てば俺の罪は無くなる!」

「……愚かだな」


 その瞬間。


 引き金は引かれなかった。

 代わりにルーカスの体が硬直する。

 マリウスは彼を見つめたまま、指先を僅かに動かしていた。


 彼が貸す魔力には、微量ながら彼自身の魔力が含まれている。借りた者の魔力は、彼の魔力を通じて借りた者の意思とは無関係に回収される。


 来る者拒まず(ノーリジェクション)


 利息分の魔力がルーカスの体から抜けていく。

 男の膝が崩れ、拳銃が石畳の上に落ちる。

 次の瞬間、男は前のめりに倒れた。


「返済を確認。思った以上に回収できたな」


 マリウスは背広を着て、鞄を拾い上げると歩き出した。

 大きな取引が終わったからなのか体が重い。

 ──帰ったら優雅にティータイムとでもいこうか。


 人々はマリウスの後ろ姿を見ながら、改めて彼を実感した。彼は引き金を引かず、刃も振るわない。

 一人の人間として、ただ借りた物を返してもらっただけなのだと。

こんにちは。最近寒いですね、暖房つけても全然暖かくならないので辛いです。

とりあえずこちらの作品は、なんか思いつきです

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