第3話 盗賊退治で成り上がり 《成功率:上昇》
ミナは寝た。
熱はまだある。でも、さっきより呼吸が落ち着いている。
俺は胸を撫で下ろした……と言いたいのに、できなかった。
《注目度:上昇》
あの文字が出るたび、嫌な予感が増える。
まるで「見てるぞ」と言われているみたいで。
俺はミナの隠れ家を出て、夜の街を歩いた。
ギルドの依頼書のことを思い出す。護衛。簡単なやつ。金が入る。
金があれば、薬も買える。宿にも泊まれる。
ミナを寝かせる場所も作れる。
……でも、金だけじゃ足りない。
情報もいる。あのログのこと。均衡徴収のこと。
結局、ギルドに戻った。
受付嬢は俺を見るなり、あからさまにため息をついた。
「まだ何か?」
「依頼を変えたい。もっと金になるやつ」
「初日で欲張りますね。実力は?」
「……あると思う」
自分で言って、少し腹が立った。
リーアを救えなかったくせに、何が“実力”だ。
でも、俺は村で何人も治した。狼も止めた。
できることは増えてる。増えてるのが怖い。
受付嬢はカウンターの下から紙を出した。
「じゃあ、これ。最近、街道で盗賊が出ます。商人が困ってる。討伐依頼。報酬はそこそこ」
紙を受け取った瞬間、視界の端がちかっとした。
《成功率:上昇》
「……は?」
俺は固まった。
成功率って何だよ。そんなの、いま言うな。
受付嬢は不思議そうに首をかしげた。
「どうかしました?」
「……いや。なんでもない」
俺は依頼書を握りしめた。
成功率が上がる。つまり、勝てる。
勝てるなら――“盛り上がる”。
盛り上がったら、帳尻が来る。
嫌な連想が頭をよぎる。
でも、やらないと金がない。ミナを救えない。
「行くしかないか……」
街道の外れ。森に入ったあたりで、護衛対象の商人と合流した。
荷車が二台。護衛は俺ひとり。商人は不安そうだ。
「本当に……あなた一人で大丈夫ですか?」
「大丈夫……たぶん」
俺は自分の言い方に気づいて、内心で苦笑した。
断定すると世界が喜ぶ。だから、最近はこうなる。
商人は俺の腰を見た。剣がない。
「武器は……?」
「ない。でも、なんとかなる」
「えぇ……」
商人が青くなったところで、前方の草むらが揺れた。
「止まれぇ!」
男たちが飛び出してきた。五人。
汚い革鎧、手斧、短剣。顔が悪い。
「積み荷を置いていけ!」
商人が震える。
「ひぃ……!」
俺は一歩前に出た。
「やめとけ。命が惜しいなら帰れ」
「はぁ? なんだてめぇ、丸腰じゃねぇか!」
盗賊の一人が笑った。周りも笑う。
……笑い声。
“盛り上がり”の匂いがする。
その瞬間、また文字が出た。
《成功率:上昇》
ふざけるな。
成功率を上げるな。盛り上げるな。
俺は息を吸って、なるべく淡々と言った。
「帰れ」
「うるせぇ!」
盗賊が突っ込んできた。
俺は手を出した。白い光が走る。
盗賊の体が止まった。
狼の時と同じ。動けない。
「なっ――!?」
周りの盗賊が固まる。
「魔法かよ……!」
俺は止まった盗賊の腹に拳を入れて倒した。
次のやつが短剣を振る。避ける。手を出す。止める。倒す。
自分でも怖くなるくらい、簡単だった。
体が勝手に最適解を選んでいるみたいだ。
五人全員、あっという間に地面に転がった。
商人がぽかんとしている。
「す、すげぇ……!」
俺は笑えなかった。
勝った。圧勝した。
だから次が来る。
俺は盗賊のリーダーらしい男の胸ぐらをつかんだ。
「お前ら、どこから来た」
「し、知らねぇ! 俺らはただ――」
嘘だ。
こういう連中は、裏に誰かいる。街の悪党か、貴族か。
「正直に言え」
俺が目を細めると、男の顔が引きつった。
……俺、威圧できる。ミナの時と同じだ。
「わ、分かった! 街の裏の……倉庫だ! そこに親分がいる!」
親分。
俺は商人を見た。
「荷車は先に行け。街に戻れ」
「で、でも……」
「大丈夫……いや、たぶん」
商人は何か言いたげだったが、頷いて荷車を動かした。
俺は盗賊の一人の縄をほどいて、わざと逃がした。
走らせた。倉庫まで案内させるためだ。
「ついてこい」
「ひぃ……!」
盗賊が泣きそうな声で走る。
俺は一定の距離で追う。
夜の街に戻る。裏路地。臭い。
人のいない倉庫街に着いた。
「こ、ここだ……!」
盗賊が指差す。
倉庫の前には見張りが二人。短剣。
「誰だ!」
見張りが叫ぶ。
俺は手を出す。光。止まる。
……簡単すぎる。
成功率が上がっている。そういう気がする。
倉庫の中に入ると、男がいた。
太っていて、指に金の指輪。後ろに部下が十人ほど。
「何だてめぇは」
「盗賊の親分か」
「そうだ。で?」
「街道で盗賊をやめろ」
親分が笑った。
「はは。正義の味方か? 冒険者ってやつは、ほんと頭が軽いな」
俺は一歩前に出た。
この場面、いつものなろうなら、ここで決め台詞だ。
“覚悟しろ”とか、“俺が裁く”とか。
……でも俺は言えない。
断定すると、世界が喜ぶ。
だから、言い方を変えた。
「……お前らがやめないなら、やめさせる」
親分の笑いが消えた。
「殺すぞ」
「やれるならやれ」
部下が一斉に動いた。
短剣、棒、斧。数が多い。
俺は息を吸って、手を振った。
白い光が、連続で走る。
一人止める。倒す。
二人止める。倒す。
三人止める。倒す。
止める。倒す。
止める。倒す。
……作業みたいだった。
最後に残った親分が、後ずさる。
「な、なんなんだよ、お前……!」
俺は親分の首元をつかんで、壁に押し付けた。
「金はどこだ」
「は、は?」
「盗んだ金だ。商人から奪った分。全部返す」
親分は青い顔で頷いた。
隠し金の場所を吐いた。俺は回収した。
その時、倉庫の外が騒がしくなった。
誰かが叫ぶ。足音。鎧の音。
「衛兵だ!」
親分が叫んだ。
逃げようとしたが、俺が止めた。
「動くな」
衛兵がなだれ込んできた。
隊長らしい男が俺を見て、驚いた顔をした。
「君が……やったのか?」
「盗賊の親分を捕まえた。街道の件もこいつら」
衛兵たちがざわついた。
「マジかよ……」
「一人で……?」
視線が俺に集まる。
称賛。驚き。期待。
……やめろ。見ないでくれ。
でも、止まらない。
《成功率:上昇》
文字が出た。
今度は胸の奥が、ぞわっとした。
「……またか」
隊長が俺の肩を叩いた。
「助かった。君の名は?」
名。
名を呼ばれる。英雄にされる。盛り上がる。
リーアが死んだ時の流れが、頭の中で重なる。
勝って、称賛されて、そして――持っていかれる。
俺は一瞬迷って、答えた。
「……レオン」
衛兵の一人が笑った。
「レオンって言ったか! すげぇな!」
周りも声を上げる。
その瞬間、視界の端がちかっとした。
《成功率:上昇》
笑い声が、遠くなる。
俺は喉が渇いた。
このまま行けば、確実に“盛り上がる”。
盛り上がれば、次が来る。
……誰が持っていかれる?
俺の頭に、ミナの顔が浮かんだ。
嫌だ。
あいつを、もう奪わせない。
俺は衛兵たちの歓声を背に、倉庫街を出た。
金袋を握りしめて、走った。
ミナのところへ戻るために。




