表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/21

第3話 盗賊退治で成り上がり 《成功率:上昇》

 ミナは寝た。


 熱はまだある。でも、さっきより呼吸が落ち着いている。

 俺は胸を撫で下ろした……と言いたいのに、できなかった。


《注目度:上昇》


 あの文字が出るたび、嫌な予感が増える。

 まるで「見てるぞ」と言われているみたいで。


 俺はミナの隠れ家を出て、夜の街を歩いた。

 ギルドの依頼書のことを思い出す。護衛。簡単なやつ。金が入る。


 金があれば、薬も買える。宿にも泊まれる。

 ミナを寝かせる場所も作れる。


 ……でも、金だけじゃ足りない。

 情報もいる。あのログのこと。均衡徴収のこと。


 結局、ギルドに戻った。


 受付嬢は俺を見るなり、あからさまにため息をついた。


「まだ何か?」


「依頼を変えたい。もっと金になるやつ」


「初日で欲張りますね。実力は?」


「……あると思う」


 自分で言って、少し腹が立った。

 リーアを救えなかったくせに、何が“実力”だ。


 でも、俺は村で何人も治した。狼も止めた。

 できることは増えてる。増えてるのが怖い。


 受付嬢はカウンターの下から紙を出した。


「じゃあ、これ。最近、街道で盗賊が出ます。商人が困ってる。討伐依頼。報酬はそこそこ」


 紙を受け取った瞬間、視界の端がちかっとした。


《成功率:上昇》


「……は?」


 俺は固まった。

 成功率って何だよ。そんなの、いま言うな。


 受付嬢は不思議そうに首をかしげた。


「どうかしました?」


「……いや。なんでもない」


 俺は依頼書を握りしめた。

 成功率が上がる。つまり、勝てる。

 勝てるなら――“盛り上がる”。


 盛り上がったら、帳尻が来る。


 嫌な連想が頭をよぎる。

 でも、やらないと金がない。ミナを救えない。


「行くしかないか……」


 街道の外れ。森に入ったあたりで、護衛対象の商人と合流した。

 荷車が二台。護衛は俺ひとり。商人は不安そうだ。


「本当に……あなた一人で大丈夫ですか?」


「大丈夫……たぶん」


 俺は自分の言い方に気づいて、内心で苦笑した。

 断定すると世界が喜ぶ。だから、最近はこうなる。


 商人は俺の腰を見た。剣がない。


「武器は……?」


「ない。でも、なんとかなる」


「えぇ……」


 商人が青くなったところで、前方の草むらが揺れた。


「止まれぇ!」


 男たちが飛び出してきた。五人。

 汚い革鎧、手斧、短剣。顔が悪い。


「積み荷を置いていけ!」


 商人が震える。


「ひぃ……!」


 俺は一歩前に出た。


「やめとけ。命が惜しいなら帰れ」


「はぁ? なんだてめぇ、丸腰じゃねぇか!」


 盗賊の一人が笑った。周りも笑う。


 ……笑い声。

 “盛り上がり”の匂いがする。


 その瞬間、また文字が出た。


《成功率:上昇》


 ふざけるな。

 成功率を上げるな。盛り上げるな。


 俺は息を吸って、なるべく淡々と言った。


「帰れ」


「うるせぇ!」


 盗賊が突っ込んできた。

 俺は手を出した。白い光が走る。


 盗賊の体が止まった。

 狼の時と同じ。動けない。


「なっ――!?」


 周りの盗賊が固まる。


「魔法かよ……!」


 俺は止まった盗賊の腹に拳を入れて倒した。

 次のやつが短剣を振る。避ける。手を出す。止める。倒す。


 自分でも怖くなるくらい、簡単だった。

 体が勝手に最適解を選んでいるみたいだ。


 五人全員、あっという間に地面に転がった。

 商人がぽかんとしている。


「す、すげぇ……!」


 俺は笑えなかった。

 勝った。圧勝した。

 だから次が来る。


 俺は盗賊のリーダーらしい男の胸ぐらをつかんだ。


「お前ら、どこから来た」


「し、知らねぇ! 俺らはただ――」


 嘘だ。

 こういう連中は、裏に誰かいる。街の悪党か、貴族か。


「正直に言え」


 俺が目を細めると、男の顔が引きつった。

 ……俺、威圧できる。ミナの時と同じだ。


「わ、分かった! 街の裏の……倉庫だ! そこに親分がいる!」


 親分。

 俺は商人を見た。


「荷車は先に行け。街に戻れ」


「で、でも……」


「大丈夫……いや、たぶん」


 商人は何か言いたげだったが、頷いて荷車を動かした。


 俺は盗賊の一人の縄をほどいて、わざと逃がした。

 走らせた。倉庫まで案内させるためだ。


「ついてこい」


「ひぃ……!」


 盗賊が泣きそうな声で走る。

 俺は一定の距離で追う。


 夜の街に戻る。裏路地。臭い。

 人のいない倉庫街に着いた。


「こ、ここだ……!」


 盗賊が指差す。

 倉庫の前には見張りが二人。短剣。


「誰だ!」


 見張りが叫ぶ。

 俺は手を出す。光。止まる。


 ……簡単すぎる。

 成功率が上がっている。そういう気がする。


 倉庫の中に入ると、男がいた。

 太っていて、指に金の指輪。後ろに部下が十人ほど。


「何だてめぇは」


「盗賊の親分か」


「そうだ。で?」


「街道で盗賊をやめろ」


 親分が笑った。


「はは。正義の味方か? 冒険者ってやつは、ほんと頭が軽いな」


 俺は一歩前に出た。


 この場面、いつものなろうなら、ここで決め台詞だ。

 “覚悟しろ”とか、“俺が裁く”とか。


 ……でも俺は言えない。

 断定すると、世界が喜ぶ。


 だから、言い方を変えた。


「……お前らがやめないなら、やめさせる」


 親分の笑いが消えた。


「殺すぞ」


「やれるならやれ」


 部下が一斉に動いた。

 短剣、棒、斧。数が多い。


 俺は息を吸って、手を振った。


 白い光が、連続で走る。


 一人止める。倒す。

 二人止める。倒す。

 三人止める。倒す。


 止める。倒す。

 止める。倒す。


 ……作業みたいだった。


 最後に残った親分が、後ずさる。


「な、なんなんだよ、お前……!」


 俺は親分の首元をつかんで、壁に押し付けた。


「金はどこだ」


「は、は?」


「盗んだ金だ。商人から奪った分。全部返す」


 親分は青い顔で頷いた。

 隠し金の場所を吐いた。俺は回収した。


 その時、倉庫の外が騒がしくなった。

 誰かが叫ぶ。足音。鎧の音。


「衛兵だ!」


 親分が叫んだ。

 逃げようとしたが、俺が止めた。


「動くな」


 衛兵がなだれ込んできた。

 隊長らしい男が俺を見て、驚いた顔をした。


「君が……やったのか?」


「盗賊の親分を捕まえた。街道の件もこいつら」


 衛兵たちがざわついた。


「マジかよ……」

「一人で……?」


 視線が俺に集まる。

 称賛。驚き。期待。


 ……やめろ。見ないでくれ。


 でも、止まらない。


《成功率:上昇》


 文字が出た。

 今度は胸の奥が、ぞわっとした。


「……またか」


 隊長が俺の肩を叩いた。


「助かった。君の名は?」


 名。

 名を呼ばれる。英雄にされる。盛り上がる。


 リーアが死んだ時の流れが、頭の中で重なる。

 勝って、称賛されて、そして――持っていかれる。


 俺は一瞬迷って、答えた。


「……レオン」


 衛兵の一人が笑った。


「レオンって言ったか! すげぇな!」


 周りも声を上げる。

 その瞬間、視界の端がちかっとした。


《成功率:上昇》


 笑い声が、遠くなる。

 俺は喉が渇いた。


 このまま行けば、確実に“盛り上がる”。

 盛り上がれば、次が来る。


 ……誰が持っていかれる?


 俺の頭に、ミナの顔が浮かんだ。


 嫌だ。

 あいつを、もう奪わせない。


 俺は衛兵たちの歓声を背に、倉庫街を出た。

 金袋を握りしめて、走った。


 ミナのところへ戻るために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ