第13話 辺境伯領の赴任 《イベント供給:配置》
王都は便利だ。
便利すぎて、都合の悪いことまで綺麗に消せる。
ユフィが死んだのも、そうやって「事故」にされた。
中庭の石灯籠が倒れた。
夜間で、見回りの目が薄い時間。
倒れた先に、たまたまユフィだけがいた――という扱い。
周りは口を揃える。
「不運だった」
「誰も悪くない」
「お嬢様が可哀想だ」
……違う。
俺は、もう三回見ている。
俺が活躍して、みんなが盛り上がって、英雄扱いされる。
その直後に、星痣のある女だけが死ぬ。
村の薬草師リーア。
盗賊都市のミナ。
迷宮都市のセラ。
そして四人目が、ユフィだった。
偶然のはずがない。
偶然なら、こんなに「綺麗に」同じ形で起きない。
俺の視界の端に、いつもの字幕が浮く。
《均衡徴収:実行》
《悲劇補正:実行》
――ほら。こういうやつだ。
世界は、俺が“気持ちよく勝つ”たびに、どこかから代金を取る。
その支払いに選ばれるのが、星痣持ちだ。
星痣。左鎖骨の下の小さな星形の痣。
周りは「加護」だの「選ばれし者」だの言うけど、実態は逆。
「物語的に美味しい位置に置かれやすい」印。
そして――代金の宛先になりやすい印。
俺は王宮で呼び出された。
褒賞と処分を、同じ口で読まれるやつ。
「レオン・グレイ。数々の功績を認め――」
「しかし、君は王都にとって扱いづらい存在となった」
「よって、辺境伯領への赴任を命ずる」
扱いづらい?
簡単に言えばこうだ。
俺がいると事件が起きる。
俺が動くと派手に解決する。
すると貴族社会の面子や利権がひっくり返る。
政治の都合で、俺は王都から追い出される。
同時に。
同時に、俺の視界に“別の都合”が出る。
《イベント供給:配置》
《対象:レオン》
《配置先:辺境伯領》
《目的:外縁イベント生成》
……ああ。こっちが本命だ。
王都が俺を遠ざけたい。
世界は俺を「イベントメーカー」として、別の場所に置き直したい。
人間の都合と、世界の都合。
出来すぎている。
両方とも俺を道具として扱っている。
馬車に押し込まれ、王都の門を出る。
護衛の騎士は無口で、役人は書類の話しかしない。
「到着は七日後です」
「辺境伯は実務家です」
「戦線の状況は厳しいですが、功績を立てる機会は多いでしょう」
功績。
機会。
――やめろ。そういう言い方をするな。
功績を立てる=盛り上がる。
盛り上がる=請求が来る。
請求=星痣持ちが死ぬ。
俺はもう、「英雄の定番台詞」が怖い。
俺が言うと世界が喜ぶ。
「任せろ」
「必ず守る」
「絶対に救う」
そういう“英雄ワード”を言った瞬間、ログが光る。
《注目度:上昇》
《称賛イベント:成功》
そして少し遅れて、決まってこれが来る。
《悲劇補正:実行》
《均衡徴収:実行》
つまり、こうだ。
勝って褒められる空気は、タダじゃない。
皆が気持ちよくなるぶん、誰かが払う。
払わされるのは、たいてい星痣持ちだ。
俺は馬車の中で、拳を握った。
これから先、また星痣持ちが出てくる。辺境に「次」がいる。
期待されている。
世界にも、周りにも。
――新しい星痣持ちが現れる。
――辺境で成り上がる。
――軍で無双する。
――称賛される。
「英雄として正しい流れ」だ。
だからこそ、俺はここで態度を切り替える。
今までは、勝ちたいから勝っていた。
目の前の困ってる人を助けたいから助けていた。
結果、星痣持ちが死んだ。
これからは順番を変える。
まず「生き残らせる」。
そのために勝ち方を選ぶ。
俺は口に出して、自分に釘を刺した。
「……派手に勝たない」
「盛り上がらない」
「英雄にならない」
英雄としては、最悪の誓いだ。
でも、星痣持ちを生かすためには、これしかない。
七日目。空が広くなり、土の匂いが濃くなった。
辺境伯領に到着する。
門で出迎えた軍務代行が、事務的に言った。
「お前がレオンか。歓迎会はない。仕事はある」
俺は頷く。
そして――視界のログが、わざとらしく決定する。
《イベント供給:配置》
《配置完了:辺境伯領》
《次の焦点:従軍司祭(星痣)》
《注目度:上昇(準備)》
最後の一行が、嫌に光った。
従軍司祭。星痣。
つまり、もう「決定」されている。
俺は心の中でだけ、返事をした。
分かったよ、世界。
お前が用意した「機会」ってやつだろ。
でも今回は、好きにさせない。
辺境の鐘が鳴る。
祈りか、出撃か――どちらにせよ、ここから新章だ。
俺は深く息を吸って、覚悟を決めた。
この章の目的は、勝つことじゃない。
生き残らせることだ。




