第1話 花冠の薬草師 《悲劇補正:実行》
《新規ルート開始:田舎の奇跡!感動導線を最適化します》
《推奨:弱者救済/初回覚醒/称賛イベント》
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村に入った瞬間、嫌なにおいがした。
薬のにおいと、汗のにおいと――病気のにおい。
静かすぎる。
犬も吠えない。子どもの声もしない。人が息をひそめている。
「……外の人?」
家の前にいた女の子が、こわそうに俺を見た。
髪を編んでいて、手が緑色に汚れている。薬草を触ったんだろう。
「助けが欲しい。病人がいるんだ」
俺が言うと、女の子は少しだけホッとした顔をした。
「……こっちです。私、リーア。薬草師の娘です」
家の中は熱気でむっとした。
藁の寝床に男が寝ていて、息が苦しそうで、熱で顔が真っ赤だった。
「熱病です。もう、村の人が何人も倒れてて……」
リーアは唇を噛んだ。でも泣かなかった。泣いてる時間がない顔だ。
「薬は?」
「作ってます。でも材料が足りない。森の奥にあるんですけど……私、村を空けられないから」
鍋の中で薬草が煮えている。でも薄い。
棚の瓶もほとんど空だ。
「じゃあ俺が取りに行く」
「道、分かりますか?」
「分からない。だから地図を描いて」
リーアは迷ったけど、すぐ紙を出して炭で線を引いた。
川、倒木、岩。筆圧が強い。紙が破れそうだ。
「ここをまっすぐ。黒い石が並んでるところを通って、二つ目の沢。そこに赤い実がついた草があります。それが効きます」
「分かった。すぐ戻る」
「……お願いします。戻ってきてください」
祈るみたいな声だった。
俺は強くうなずいた。
「約束する」
――その瞬間、目の端に文字が出た。
《英雄補正:発動準備》
《成功率:上昇》
「……は?」
俺は思わず立ち止まった。
今の、何だ?
でも考えてる時間はない。俺は森へ走った。
地図通りに進むと、本当に黒い石があって、本当に二つ目の沢があった。
言われた場所に、赤い実の草もあった。
「これか……!」
俺が草を取ろうとした時、後ろから唸り声がした。
狼。痩せてる。目が怖い。
「くそっ……!」
武器はない。逃げ――と思ったのに、体が勝手に動いた。
手を前に出した瞬間、白い光が走った。
狼が止まった。
空中で固まったみたいに動かない。
「な、何だよこれ……」
俺は震えながら赤い実の草をつかみ、全力で走った。
村へ戻ると、リーアが入口に立っていた。
俺を見た瞬間、表情が一瞬だけゆるんだ。
「戻った……!」
「約束だからな」
リーアは草を鍋に入れて、すぐ薬を作り始めた。
俺もできることを手伝う。
そして、寝ている男に手を当てた。
――さっきの光。
あれが出れば、治るんじゃないか。
「治れ……!」
白い光がにじむ。
男の顔の赤みが、少しずつ引いていった。咳も弱くなる。
「……うそ」
リーアが目を丸くした。
外から村人が集まってきた。
「奇跡だ」「助かった」「すげえ」
声がどんどん大きくなる。
《称賛イベント:成功》
《注目度:上昇》
また文字が出た。
さっきまで嬉しいはずなのに、なぜか背中が冷えた。
でも今は気にしていられない。
俺は次の家へ行った。次の家も。次の家も。
手を当てる。光を出す。熱が下がる。呼吸が整う。
村のあちこちで泣き声が上がって、それが少しずつ笑いに変わった。
――助かる。
全部助かる。
最後の家に入った時も、俺はそう思っていた。
寝ている少年はリーアの弟だという。顔が赤く、息が荒い。
「大丈夫。俺が治す」
俺は手を当てた。光を出した。
……出た。確かに出た。
少年の熱が下がる。
呼吸が落ち着く。咳も止まる。
「よし……!」
リーアが小さく息を吐いた。
その瞬間、村の外で誰かが歓声を上げたみたいに聞こえた。
俺も笑いそうになった。
――勝った。
村は救われた。
なのに。
最後に薬を配り終えたリーアが、ふらっと倒れた。
「リーア!?」
俺は慌てて抱き起こした。
リーアの体が異常に熱い。さっきまで動いてたのに、“今この瞬間”に熱が跳ね上がっていく。
「……私、ずっと熱かった。忙しくて、気づかないふりしてた」
リーアが胸元を押さえた。
見えてしまった。
左の鎖骨の下に、小さな星みたいな痣。
胸がざわっとした。
嫌な予感がする。分かりたくないのに、分かりそうになる。
「大丈夫だ。俺が治す」
俺は手を当てた。
いつも通り、光を出した。
……出た。確かに出た。
なのに、リーアの熱だけが下がらない。
光が触れた場所から、熱が“ずれる”。
治る方向じゃなく、治らない方向へ、わざわざ逃げていく。
「なんでだよ……! さっきまで、みんな治っただろ!」
俺は光を強くした。
でも強くすると、リーアの熱は形を変えて、もっと奥へ潜っていく。
まるで――治癒が通らないように調整されてるみたいに。
リーアが、俺の腕を弱く掴んだ。
「言わないで……」
「何をだよ……!」
リーアは胸元を押さえる。
星の痣のあたりが、じわっと赤くなっていた。
「……今、うずいた。熱くなった」
「あなたが『救う』って言いそうになった瞬間、ここが刺されるみたいに痛くなるの」
「は……?」
俺は息を呑んだ。
リーアは続けた。
「それで、そのあと必ず……何かが起きる」
「さっき、村のみんなが助かって喜んだでしょ。あの時も、うずいた。ここが“合図”みたいに」
《注目度:上昇》
タイミングを合わせたみたいに、文字が出た。
俺の喉が乾く。
「……だから言わないで。あなたが断定すると、“次”が来る」
「次って――」
《均衡徴収:対象=星痣個体》
《悲劇補正:実行》
文字が出た。
さっきの称賛と同じ調子で、淡々と。
「……は?」
理解したくないのに、理解してしまう。
みんな助かった。盛り上がった。
だから帳尻を合わせるみたいに――リーアだけが“持っていかれる”。
「やめろ……! ふざけんな……!」
俺は光を出した。何度も出した。
でも届かない。
届かないようにされている。
リーアは弱く笑った。
その笑い方が、泣くよりつらかった。
「……あなたのせいじゃない」
それだけ言って、リーアの呼吸が止まった。
村は救われた。
俺の腕の中で、リーアだけが死んだ。
俺は震える手で拳を握った。
爪が掌に食い込んでも、痛みを感じなかった。
「……次は」
言い切りそうになって、止めた。
断定したら、また“喜ばれる”気がした。
だから、言い方を変えた。
「仕組みを見つける」
「あのログの正体を。均衡徴収ってやつを」
***
《次章準備:都市編へ移行》
《注目度:維持》




