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第1話 花冠の薬草師 《悲劇補正:実行》

《新規ルート開始:田舎の奇跡!感動導線を最適化します》

《推奨:弱者救済/初回覚醒/称賛イベント》


***


 村に入った瞬間、嫌なにおいがした。

 薬のにおいと、汗のにおいと――病気のにおい。


 静かすぎる。

 犬も吠えない。子どもの声もしない。人が息をひそめている。


「……外の人?」


 家の前にいた女の子が、こわそうに俺を見た。

 髪を編んでいて、手が緑色に汚れている。薬草を触ったんだろう。


「助けが欲しい。病人がいるんだ」


 俺が言うと、女の子は少しだけホッとした顔をした。


「……こっちです。私、リーア。薬草師の娘です」


 家の中は熱気でむっとした。

 藁の寝床に男が寝ていて、息が苦しそうで、熱で顔が真っ赤だった。


「熱病です。もう、村の人が何人も倒れてて……」


 リーアは唇を噛んだ。でも泣かなかった。泣いてる時間がない顔だ。


「薬は?」


「作ってます。でも材料が足りない。森の奥にあるんですけど……私、村を空けられないから」


 鍋の中で薬草が煮えている。でも薄い。

 棚の瓶もほとんど空だ。


「じゃあ俺が取りに行く」


「道、分かりますか?」


「分からない。だから地図を描いて」


 リーアは迷ったけど、すぐ紙を出して炭で線を引いた。

 川、倒木、岩。筆圧が強い。紙が破れそうだ。


「ここをまっすぐ。黒い石が並んでるところを通って、二つ目の沢。そこに赤い実がついた草があります。それが効きます」


「分かった。すぐ戻る」


「……お願いします。戻ってきてください」


 祈るみたいな声だった。

 俺は強くうなずいた。


「約束する」


 ――その瞬間、目の端に文字が出た。


《英雄補正:発動準備》

《成功率:上昇》


「……は?」


 俺は思わず立ち止まった。

 今の、何だ?


 でも考えてる時間はない。俺は森へ走った。


 地図通りに進むと、本当に黒い石があって、本当に二つ目の沢があった。

 言われた場所に、赤い実の草もあった。


「これか……!」


 俺が草を取ろうとした時、後ろから唸り声がした。

 狼。痩せてる。目が怖い。


「くそっ……!」


 武器はない。逃げ――と思ったのに、体が勝手に動いた。


 手を前に出した瞬間、白い光が走った。


 狼が止まった。

 空中で固まったみたいに動かない。


「な、何だよこれ……」


 俺は震えながら赤い実の草をつかみ、全力で走った。


 村へ戻ると、リーアが入口に立っていた。

 俺を見た瞬間、表情が一瞬だけゆるんだ。


「戻った……!」


「約束だからな」


 リーアは草を鍋に入れて、すぐ薬を作り始めた。

 俺もできることを手伝う。


 そして、寝ている男に手を当てた。


 ――さっきの光。

 あれが出れば、治るんじゃないか。


「治れ……!」


 白い光がにじむ。

 男の顔の赤みが、少しずつ引いていった。咳も弱くなる。


「……うそ」


 リーアが目を丸くした。


 外から村人が集まってきた。

 「奇跡だ」「助かった」「すげえ」

 声がどんどん大きくなる。


《称賛イベント:成功》

《注目度:上昇》


 また文字が出た。

 さっきまで嬉しいはずなのに、なぜか背中が冷えた。


 でも今は気にしていられない。

 俺は次の家へ行った。次の家も。次の家も。


 手を当てる。光を出す。熱が下がる。呼吸が整う。

 村のあちこちで泣き声が上がって、それが少しずつ笑いに変わった。


 ――助かる。

 全部助かる。


 最後の家に入った時も、俺はそう思っていた。

 寝ている少年はリーアの弟だという。顔が赤く、息が荒い。


「大丈夫。俺が治す」


 俺は手を当てた。光を出した。


 ……出た。確かに出た。


 少年の熱が下がる。

 呼吸が落ち着く。咳も止まる。


「よし……!」


 リーアが小さく息を吐いた。

 その瞬間、村の外で誰かが歓声を上げたみたいに聞こえた。


 俺も笑いそうになった。


 ――勝った。

 村は救われた。


 なのに。


 最後に薬を配り終えたリーアが、ふらっと倒れた。


「リーア!?」


 俺は慌てて抱き起こした。

 リーアの体が異常に熱い。さっきまで動いてたのに、“今この瞬間”に熱が跳ね上がっていく。


「……私、ずっと熱かった。忙しくて、気づかないふりしてた」


 リーアが胸元を押さえた。

 見えてしまった。


 左の鎖骨の下に、小さな星みたいな痣。


 胸がざわっとした。

 嫌な予感がする。分かりたくないのに、分かりそうになる。


「大丈夫だ。俺が治す」


 俺は手を当てた。

 いつも通り、光を出した。


 ……出た。確かに出た。

 なのに、リーアの熱だけが下がらない。


 光が触れた場所から、熱が“ずれる”。

 治る方向じゃなく、治らない方向へ、わざわざ逃げていく。


「なんでだよ……! さっきまで、みんな治っただろ!」


 俺は光を強くした。

 でも強くすると、リーアの熱は形を変えて、もっと奥へ潜っていく。


 まるで――治癒が通らないように調整されてるみたいに。


 リーアが、俺の腕を弱く掴んだ。


「言わないで……」


「何をだよ……!」


 リーアは胸元を押さえる。

 星の痣のあたりが、じわっと赤くなっていた。


「……今、うずいた。熱くなった」

「あなたが『救う』って言いそうになった瞬間、ここが刺されるみたいに痛くなるの」


「は……?」


 俺は息を呑んだ。

 リーアは続けた。


「それで、そのあと必ず……何かが起きる」

「さっき、村のみんなが助かって喜んだでしょ。あの時も、うずいた。ここが“合図”みたいに」


《注目度:上昇》


 タイミングを合わせたみたいに、文字が出た。

 俺の喉が乾く。


「……だから言わないで。あなたが断定すると、“次”が来る」


「次って――」


《均衡徴収:対象=星痣個体》

《悲劇補正:実行》


 文字が出た。

 さっきの称賛と同じ調子で、淡々と。


「……は?」


 理解したくないのに、理解してしまう。


 みんな助かった。盛り上がった。

 だから帳尻を合わせるみたいに――リーアだけが“持っていかれる”。


「やめろ……! ふざけんな……!」


 俺は光を出した。何度も出した。

 でも届かない。

 届かないようにされている。


 リーアは弱く笑った。

 その笑い方が、泣くよりつらかった。


「……あなたのせいじゃない」


 それだけ言って、リーアの呼吸が止まった。


 村は救われた。

 俺の腕の中で、リーアだけが死んだ。


 俺は震える手で拳を握った。

 爪が掌に食い込んでも、痛みを感じなかった。


「……次は」


 言い切りそうになって、止めた。

 断定したら、また“喜ばれる”気がした。


 だから、言い方を変えた。


「仕組みを見つける」

「あのログの正体を。均衡徴収ってやつを」


***


《次章準備:都市編へ移行》

《注目度:維持》

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