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**第二話 水脈と偽りの日々**

第二話ですよろしくおねがいします。



夜明け前の闇が深い。島は、熱帯の湿気を含んだ冷たい空気に包まれていた。千嶋紗英は、リクトがまだ眠りについているのを確認してから、微かに目を開けた。洞窟の奥からは、規則的な水滴の落ちる音だけが響いている。


彼女は呼吸を整え、昨日一日の出来事を静かに反芻した。*150人の参加者。少なくとも3つの大きなグループが形成されつつある。あの筋肉質の男を中心とした「武力派」。知識層らしき人々が集まる「合理派」。そして、私たちのように取り残された「孤狼」たち...*


リクトが身じろぎした。紗英は瞬時に目を閉じ、無防備な眠りの姿勢に戻る。少年が起き上がり、彼女に掛けていた上着を直す気配。過剰な親切は疑わしい——それでも、この瞬間だけは、わずかな安らぎを感じる自分がいた。


「起きた?」リクトの声は、朝のしわがれが混じっている。


紗英は眠そうなふりをして目をこすり、「...おはよう」と呟いた。演技だったはずの言葉が、何故か少しだけ自然に聞こえた。


朝食は、配給された栄養補給ゼリーと、リクトが森で見つけてきたという見知らぬ赤い果実だった。


「これ、食べられるのかな?」紗英は意図的に不安げな声を出す。


「うん...多分。鳥が啄んでたから、たぶん大丈夫だと思う」


*「鳥が食べられるから人間も安全」——そんな単純な理屈が、この島では命取りになり得る。* 紗英は内心でため息をついた。しかし、彼女はその果実を受け取り、小さく一口かじった。甘酸っぱい。毒の可能性を計算しつつも、これは演技として必要だ。


「今日は...どうする?」リクトが尋ねた。


紗英はわずかに首を傾げ、「水...もっと必要だよね。あと、安全な場所」と、最も基本的な欲求を口にする。


彼らは洞窟を出て、ゆっくりと森の中を進み始めた。紗英は、訓練で学んだ方向感覚を完全に封印し、ごく普通の少女のように、足元の根に躓き、蜘蛛の巣に驚きながら歩く。その一方で、彼女の感官は最大限に研ぎ澄まされていた。遠くで聞こえる話し声、不自然に揺れる灌木、そして何より——至る所に設置された監視カメラの、微かな駆動音。


昼下がり、彼らはようやく小さな川にたどり着いた。水は澄んでいて、一見理想的だった。しかし、紗英はすぐに気づいた。この川のほとりが、地図上で「影の領域」と「青色エリア」の境界ぎりぎりにあることを。


「やった! 水だ!」リクトが嬉しそうに駆け寄ろうとした。


「待って!」紗英は思わず彼の袖を掴んだ。それは、計算された行動ではなかった。


リクトが振り返る。紗英は慌てて俯き、「ご、ごめん...その...あのカメラ、こっちまで回ってきてないみたいだし...危ないかも」と、噛みながら言う。


彼女の指さす先、約20メートル先の監視カメラは、明らかに別の方向を向いていた。この地点は、今この瞬間、確かに「影」に沈んでいる。


リクトの表情が硬くなる。彼もようやく、この状況の危うさを理解したようだ。


「...そうだね。じゃあ、さっと汲んで離れよう」


彼らは緊張した面持ちで水筒に水を汲み、すぐにその場を離れ、青色エリア内の見通しの良い岩陰に身を寄せた。


その直後だった。対岸の藪から、三人組の男たちが現れた。彼らはあちこちを見回し、何かを探しているようだ。紗英は息を殺す。*「あの男たち...昨日、略奪に関わっていた連中だ」*


男たちは小声で何か話し合い、やがて森の奥へと消えていった。


「あのさ...」リクトが囁く。「あの人たち、何を探してるんだろう?」


紗英は首を振った。しかし、彼女の心の中では分析が巡る。*「水場を押さえ、他の参加者を探している。資源と情報の確保——これは、組織的な動きだ」*


夕方、彼らは新たな寝場所を求めて移動を続けた。紗英は、リクトが提案するたびにわざとらしく頷き、時に「こっちの方がいいんじゃない?」と控えめな意見を述べる。それは、無力な少女を演じつつ、実際にはリクトを本当に安全な方向へと誘導する、危うい綱渡りだった。


日が暮れ始める頃、彼らは花崗岩の切り立った崖の中腹に、理想的な隠れ家を見つけた——浅い洞窟と、そこへ続く細い獣道。入り口は灌木で自然に隠され、眼前には森と一部の海岸線を見渡せる。何より、洞窟の入口付近は常に青色エリアに覆われている。


「ここだ!」リクトが満面の笑みを向ける。「紗英ちゃん、すごい! こっちを選んでくれてありがとう」


紗英は、照れくさそうにうつむいた。*「これで、少なくとも今夜は安心できる」*


夜、リクトが疲れて眠りについた後、紗英はようやく本来の任務に取りかかった。小型端末を起動し、一日かけて記録した「影の領域」の移動パターンを入力する。データが蓄積され、地図上に無数の線が描き出されていく。


そして、ある確信が彼女の胸に沈んでいく。


*「これらの“影”は、ランダムではない...。まるで、誰かを特定の場所へと誘導するかのような、人為的な経路だ」*


彼女は目を上げ、闇に浮かぶ監視カメラの青い光点を見つめた。その無機質なレンズの向こう側に、彼女の動きを、いや、全ての参加者の動きを、興味深そうに見つめる誰かがいる。


第三話も近いうちに出します!ブクマや評価で応援していただけると嬉しいです。

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