異性の幼馴染を保護した?−another 1-
それってどう言うことかわかってます?
前に書いた作品とあまり変わりませんが、元々はこちらがベースになっています。
でも一番最初に考えていたのとはこれもまたちょっと違うんですけどね。
そうですか、そちらの幼馴染の方を保護したと。
この方のことをご両親は?
へぇ快く受け入れたのですね、わかりました。
それはいつからのことで?
3月前…ですか。
それで…
そう…
へぇ…
…お話はこのあたりでよろしい?
えぇ、そちらの言いたいことは十分に分かりました。
では今後の事を後日両家での話し合いを致しましょう。
それでは今日はこれで失礼します。
お久しぶりでございますわね。
この1ヶ月何も音沙汰がないのは何故ですか。
1ヶ月をかけて色々と調べることがありましたから。
それでも手紙くらい…ですか。
その必要がないからです。
今日、貴方をお呼びしたのは今後のお話をするためです。最後に。
えぇ、最後です。
何故ですか。
その疑問を持っていることが答えの様なものですけど。
ちなみに貴方のご両親は今、私の両親に呼び出されて同じ説明をされていることでしょう。
何の説明…ですか。
私と貴方の婚約解消に対する説明です。
もちろん貴方有責の。
何故叫ばれているのでしょう?
貴方がやらかした結果ですわよ。
しかもタチの悪いことに家族ぐるみで隠蔽までして。
何も疾しいことはない…ですか。
貴方の中ではそうなのでしょうね。
ですが対外的にはそれは通用しませんのよ。
はぁ、これほどまでに…。
ならきちんとご説明致します。
最後まで叫ばずにお聞き願えますか?
無理でしたら代理人を立てますけど。
そうですか、ではお話致します。
きっかけは貴方が助けた幼馴染さんです。
えぇ、貴方にとっては人助けで何も疾しいことなどなかったのでしょう。
ですが、助けた段階もしくはその前に婚約者である私もしくは私の家に相談すべきでした。
それを3月も経った後に何の説明もなく婚約者同士の逢瀬の所に連れてくる。
これがどういう意味をなすかわかりますか?
少なくとも我が家からは結婚前に愛人を見繕ったにしか見えませんのよ?
侮辱するな?
それはこちらのセリフですね。
貴方が虐げられていた幼馴染を不憫に思って保護することが悪いとは言いません。
ですが妙齢の男女が同じ家に住む。
例え客間であったとしてもすでに3月もの間一緒に過ごしてる。
それを貴方のご両親も了承され、そして私の家には隠していた。
これは不貞を隠していたと思われても仕方ないのですよ。
そして堂々と婚約者同士の語らいの場に、先に何も伝えずに連れてくる。
それがこちらを侮辱してないと言えますか?
逆に私が異性の幼馴染を匿って家に連れ込んでいた場合どうでしょうか?
貴方は私に疑いの目を向けずにいられますか?
えぇ、ようやくお分かりになられましたか。
貴方がやったことは人助けなのかもしれません。
ですがやり方が悪い上に、軽率で周りの目を判断できない愚か者という事実を突きつけたのですよ。
ご両親共々。
私、貴方ともご家族ともそれなりに上手くやっていたつもりだったのですが、このような仕打ちをされるほど本当は嫌われていたなんて。
あら?私との婚約を厭っていたからこそ、異性の幼馴染さんを軽率に家に入れたのではないのですか?
違うと。ただの保護だと。
でも別邸もしくは離れたところでの保護ではなく我が物顔で本邸にいらっしゃるのでしょう?
ではその方と貴方との間に男女の関係が“ない”という証明ができないのでは?対外的に。
ね?
お分かりになられまして?
今更疾しいことがないと言い募っても無意味なのですよ。
そんな証明できませんから。
それと幼馴染さんが愛人ではないならこの先どうするおつもりだったのでしょう?
保護したままずっとお家に居させる予定だったのでは?
…違うと。
では幼馴染さんにどう身を振る様にさせるおつもりだったのでしょうか?具体的には?
まだ話す前段階でしたか。
ですがその前に何故私の所に無断で連れて来られたのですか?堂々と。
しかも私と仲良くなって欲しいと!
これが本妻に対して愛妾と仲良くなれと言ってる様に捉えられても仕方ないのですよ。
まぁまだ結婚してませんでしたけど。
そしてこれからも婚姻は結びませんけど。
…そんなつもりなかったと。
ただ私に友人になって欲しいかったからだと。
幼馴染さんが私に会ってみたいとも言っていたと。
それこそ何様のおつもりなのかしら?
あら、本当にわかっておいででないのね。
今の説明ではつまり、男爵令嬢が身分が上の子爵令息に対して命令して、更に上の伯爵令嬢である私を呼びつけた。
そう捉えられても仕方ないのですよ?
もしくは幼馴染さん恋人?愛人?に強請られて貴方が安請け合いを勝手にして伯爵令嬢婚約者を呼びつけた。
どちらにしても男爵令嬢である彼女が軽々しくしていいことではありませんわ。
安請け合いする貴方もまた。
私と幼馴染さんが友人もしくは知人であったならばまだ良いですけど、全くの他人を呼びつけるなんて…大層なご身分ですこと。
そんな風に悪い様に捉えないでくれ?
でしたら何故もっと前に根回ししないのですか?
幼馴染を保護したこと、その方に対する相談事についても私と私の家に根回ししていないから、こう言うことが起こるのです。
そして起こってしまったことについてはもう取り返しがつきません。
彼女が使用人同然に虐げられていたなら、きちんとした教育が受けられずに貴族としてのルールや秩序に対して詳しくなかったのかもしれません。
ですが貴方は?そして貴方の家族は?
彼女が頭が回らないなら、きちんと教育されてきた貴方と貴方のご家族がもっとちゃんとすべきだったでしょう。
それなのに、なすべきことがなされていなかった。しかも私が指摘するまで理解もしていなかった。
これは由々しきことなのです。
そんなつもりなかった…ですか。
今更言い募っても何の意味もないです。
ただ本当に幼馴染さんの友人になって欲しかっただけ…ですか。
無理ですね。
前提としてこう言った形ではなく、別の形で紹介を受けた上で、彼女を気に入っていたのであれば友人になることはできたかもしれません。
一応、彼女の境遇には同情は致します。
ですが、異性の幼馴染を頼るのは良いにしてもあまつさえその家の“本邸”に住み込み、幼馴染の婚約者の前に堂々と姿を現した時点で無理です。
しかも幼馴染同士にしかわからないお話を延々と聞かされて…それ以外にできる話がなかったのかもしれませんが。
それにしてもあまりに配慮がないと思いません?これは身分関係なく人として。
無駄な時間が経つばかりで…馬鹿になさるのもいい加減にして欲しいと怒鳴りたくなるくらいにくだらない時間でしたわ。しませんけど。
そして、そんなに彼女のことを思うなら彼女を婚約者に据えたらよろしい。と私が思ってしまうこともまた仕方ないと思いませんか?
そこまで思わせておいて婚約の継続など言いませんよね?
私としては思うことはあっても穏便に解消できるなら別に構いませんわ。
あら、何故と?
貴方への情が幼馴染さんへの対応の悪さから霧散されたからです。
貴方と貴方の家の浅はかさが露呈されて、この先私が貴方ともご家族ともやっていられないと判断したからです。
もちろん私の家族もまた同じ判断を下しました。
ですから婚約の解消です。
無理矢理縛る程のものなどありませんから両家の婚約に。
それに私の家にそこまでの旨みもない婚約でしたから解消したところで…
それに私、既に貴方の所業をおしゃべりしてしまったものですから。
えぇ、この1ヶ月は貴方が出れない高位貴族のお茶会や夜会に出て色々とおしゃべり致しましたわ。
私の母もまた色々と夫人の集まるところで、
お話されていますわ。
貴方と幼馴染さんの絆の物語とそれに対して私が潔く身を引こうとしていることをね。
えぇもちろん今後のための根回しと布石です。
貴方達のヒーロー談に皆さん感動され、そして私の潔さに同情して頂きました。
そして友人やご夫人達からは同情と共に新しい婚約者候補まで見繕ってくださると言って頂きましたわ。
私に瑕疵はないですし、この国では婚約を解消しただけで価値が下がるほどでもないですし。
家の事情で婚約を変更することはありますし、相性が悪すぎる相手との結婚で刃傷沙汰が度々起こったことで無理な婚約・婚姻が問題視されたことがあってから余計に。
あら顔色が優れませんね。
既に噂になっているやもしれませんね。
貴方は恋人を既に囲っていると。
この様なお家に新たに嫁いで来られる方いらっしゃったら良いのですが。まぁ無理でしょう。
貴方が娶れるのはその幼馴染さんだけでしょうね。
彼女のために婚約を解消するのですから、彼女以外を選んだ段階で爪弾きに合うかと。
まぁ最もきちんと教育されていない没落貴族の女性を娶ったところで…ね。
婚約解消を撤回してくれ?ですか。
何故でしょう?
私への侮辱行為を平気でされるお家に何故嫁がねばいけないのでしょう?
しかもまだ幼馴染さんの処遇にも言及されてませんし、中途半端なことをしてらっしゃることにお気づきでないのですか?
私を愛してる?
そんなの言い訳にもなりませんわ。
むしろ貴方は私を愛していながら幼馴染を囲ってる、愛がいくつもある浮気者にしか思えません。
これ以上言われるのでしたら破棄に変えてもよろしいのですよ?
あと代理人を立てて裁判沙汰にするのもアリですわね。
その方が困る?
でしたらこの婚約解消の書類に素直にサインしてくださいませ。
私の家は伯爵家、貴方は子爵家。
わかっておいでですか?
それに私達が語った貴方達の絆の物語にきちんと、男爵令嬢が伯爵令嬢を平気で呼びつけたことも入っておりますのよ?
高位貴族に方々はその辺りもきっちり読み取っていますから、貴方は婚約者とはいえ高位貴族を平気で恋人の男爵令嬢のために呼びつける様な男だと認識されております。
ヒーロー談を語らせるためにお茶会や夜会に呼ばれることもあるでしょう。
しばらくは貴方が普段出ない所にまで呼ばれることもあるでしょう。
ですが、それだけですね需要は。
それ以降は幼馴染さんと盛り立てる様に頑張らないと難しいですわね。
そうそう調べたところ、私が周りに話す前から既に貴方と幼馴染さんの噂が流れ始めていることを知っておいでで?
あら、貴方もご家族もご存知なかったのですか。
おかしいとは思いませんでしたか?
貴方の家でずっと彼女を静養させることに。
私の家にはそこまで旨みはなくとも大事な政略結婚であったのですよ、私と貴方の婚約は。
幸い私と貴方との相性も悪くなかったので今まで問題がなかったですが、そこに亀裂が入った。
原因は貴方が保護した幼馴染さんの実家の男爵家ではなく、その親族の伯爵家。
伯父に当たるご当主と祖父に当たる先代が原因なのは調べたらすぐに出てきましたわ。
貴方が緊急で保護して彼女の親族に連絡された段階で、彼女を伯爵家の方に保護させるべきでしたね。
彼女があまりにも痩せ細っていたために静養が必要であっても、他人の家に3月も居候させる段階でおかしいのです。
領地ではなく王都の邸宅間の移動なのですから、そちらに保護してもらうべきなのです。
末端とは言え貴族の子女なのですよ?
誘拐と捉えられる様な事にもなりかねないので、親族の家に保護してもらうのが正しい。
もちろん親族であっても誘拐だと騒ぐ可能性はありますけど。
それでも親族がいるのに他家がずっと保護するのはまずいことなのは自明の理。それなのに…何の疑問も思わずに保護したまま。
しかも婚約者である私の家に報告や相談がされていなかった。
これは本当に由々しき事態なのです。
私の家が貴方の家より身分が高かったので余計にまずいのですよ。
貴族は体面や矜持を大事にします。
それを平気で蔑ろにされれば黙ってはいません。
そんなつもりはなかった、親族の伯爵家からお願いされて仕方なく?
そうだったとしてももっと早い段階でこちらに相談しないといけなかったのです。
その上貴方と彼女とのヒーロー談、美談が流布されつつある。それも彼女の親族から。
これはこちらに対する敵対行動と取られても仕方ないのです。
貴方の家もそれに追随していると思われているのですよ。
ようやく対応の不味さに気づきましたか?
そしてそちらのお家の立ち位置の危うさとこれからの事とを。
ですからこちらはその噂に便乗することにしましたのよ。
親族の伯爵家からも私の家からも貴方と幼馴染さんの美談が流れておりますから流れは止められません。
そして世間はそう言った娯楽が好きですわ。
苦難を乗り越えた先にヒーローと結ばれる悲劇のヒロインという娯楽が。
ですので、火消しをするよりもそのまま貴方の婚約者に彼女を据える様に持っていくと方が良いのです。
貴方のお気持ちなどもうどうだって良いのです。意味がないのです。残念ながら。
私とてそれなりに友好を深めてきた貴方とのお別れに思うことはあります。
私はまだ貴方に明確に恋はしていませんでした。ですが今後もっと仲良くできる様にと色々と考えておりました。
そのための準備もしておりました。
それなのに貴方は…
私への好意も今になって言うなんて…
私の両親と兄弟はとても怒っております。
それなりに歴史のある伯爵家の我が家。
それを敵に回したのです。
しかも母は侯爵家出身、現在の王妃陛下と旧知の中。
つまり貴方や幼馴染さんそしてその家族・親族はそれを敵に回した。
わかりやすい敵は私の家と母の実家や実家に関わる家ですが、潜在的な敵はもっと多いとお考えください。
ちなみに幼馴染さんの生家である男爵家はお取り潰しが既に決定しております。
今回の騒動の一番の問題はそこではないですけど、弱い者から潰されていくのです。
見せしめの意味もあるかもしれませんね。
それに男爵家は別の件でも色々あった様ですので、不要と判断されました。
領地は王領としてしばらく王家が預かる形になるやもしれませんし、近くの領地に吸収される場合もあります。
貴方の家と伯爵家は…そうですね。
しばらくは美談によって多少守られるでしょう。
伯爵家に養女として入ってから貴方の元に嫁ぐでしょうから。
それが婚約解消における慰謝料を減額する条件の一つに致しましたから。
ですがこの先はどうでしょうか?
伯爵令嬢との政略を蹴ってまで虐げられた没落貴族の幼馴染を取った。
伯爵家の養女となったとは言え、使用人同然の淑女としての教育も貴族の夫人になる教養もないであろう彼女には、険しい道のりになるでしょう。
婚約・結婚が終わりではありませんもの。
むしろ始まりです。
最初は大目に見てもらえても、そのままであればすぐに爪弾きにされるでしょう。
そんな彼女を養女にした伯爵家もそれまでの対応の不味さに敵は多いので斜陽となるでしょう。
何故か?そもそも貴方の家が保護する前に、伯爵家がきちんと介入して彼女を救っていれば良かったのですよ。
それなのにその尻拭いを貴方の家に押し付けた。
貴方達の善意を利用したのです。
そのせいでこちらの家もまた明るい未来は望めない。
ですが、それが貴方達のやったことの結果なのです。
貴方はいい人なのでしょうが流されやすく安易に考え過ぎている。
そして今までこう言った問題と無縁だったのでしょう。貴方のご家族も。
ですが貴族としてこれからも生きるのであればもうそうは言っていられません。
それを肝に銘じてください。
最後に、幼馴染さんとどの様な結婚生活をされるかは分かりませんが、彼女との子供は諦めておいた方が無難です。
彼女のバックボーンの問題ではなく、彼女の身体の問題です。
男爵家で使用人同然に過ごしてきた逞しさはあるのでしょうが、身体が小さく細く儚い様に見えるのが心配ですわ。
成長期にきちんとした生活が見込めない場合、身体の器官が未熟なまま成長してしまっていることがそれなりにあるそうです。
そう言った方は子を宿すことがそもそも難しい、もしくは宿しても流れてしまって育たない、更には宿して育ってもお産に耐えられないと言った悪い状況に追い込まれやすいそうです。
もちろん絶対ではありませんが早めにお医者様にかかられた方が良いかと。
彼女のためにも貴方のためにもお家のためにも。
そして早めに養子を考えられた方がよろしいかと。
貴方自身のお子様はあまり望まない方が良いでしょう。
彼女以外と子どもを作った場合、その子を表舞台に立たせるには貴方と彼女の美談が邪魔をします。
そしてそれが明るみになった時、貴方と貴方の子を宿したお相手は悪意の標的になるでしょう。
彼女が早くに儚くなって喪に服してから後妻をとるならまだマシですが、そうでないなら…
ですので、その辺りは慎重になさってくださいね。
これは2人の絆を目の当たりにして潔く身を引く私からの最後の忠告ですわ。
これ以上私と私の家を失望させないでくださいね。
今後のご多幸をお祈りしておりますわ。
帰結は基本同じですが、相手の伯爵家の方には悪意があったと言う含みを入れたのと、幼馴染さんに子を成せない可能性が高いと言う内容を入れました。
婚約者とその家族はいい人ではありました。
ですが、多分貴族には向いていなかったのだと思います。