遊興
「妹さんは治りましたよ」
薄暗い病室だが、先生の笑顔は明るい
真っ白ながらも何処か汚れたベッドでは、妹が上躰を起こした姿勢で虚ろな表情をしていた
僕は安堵の表情で妹に駆け寄ると、名前を呼んで彼女の肩に優しく手を置いた
「あ゛…あ゛あ゛…………」
虚ろな眼をしたまま、妹が声にならない声で呻く
僕は聞き間違いなのではないかと、彼女の口に耳を近付けた
「あ゛…あ゛あ゛あ゛……う゛…………」
僕は狼狽えながら先生を視る
先生は「まだ」「術後の錯乱状態が続いているのです」と言うと、眼鏡を直す仕草をした
僕は妹の腕に触れると、彼女を安心させる為にさすろうとした
冷たい
妹の腕は、石のように冷たく硬かった
僕は慌てて手を離す
先生を視ると、先生はにっこりしながら「手術は成功しましたよ」と言った
視界の端で、何かが「がしゃん」と倒れる音がする
妹だった
彼女の躰はベッドからはみ出るような姿勢で倒れ、取れた左腕と頭が、無機物のような静けさで床に転がっていた
腕や頭の取れた断面から、数え切れない程の歯車と剃刀が飛び出ているのが視える
床に転げた頭が、突然「あ゛あ゛あ゛あ゛……」と呻き始めた
僕は先生を視る
先生は、「妹さんは治りましたよ」と嗤った