お隣のお客さんはちょっと意地悪だ
「飲み物はいかがされますか?」
今度はお母さんが営業スマイルな声で尋ねた。
「う〜ん、そうですね。俺はビールにしようかな」
「お兄ちゃん、昼間からビールなんだ。わたしはカモミールティーにしようかな」
「かしこまりました。飲み物はビールとカモミールティーですね」
注文を取り終えお父さんとお母さんが厨房に戻ろうとしたその時。
「あら、こんにちは。可愛らしいお嬢さんと猫ちゃんだね」
と、わたしとモフにゃーに女性が視線を向け言った。わっ! 気づかれた。
「こ、こんにちは。アリナです」
「こんにちはにゃん。モフにゃーだにゃん」
わたし達はちょっと慌てながら挨拶をする。まあ、モフにゃーは余裕か。
女性は、わたし達に微笑みを浮かべそれから、両親に視線を移し「しっかりしたお嬢さんですね。猫ちゃんはキュートね」と言った。
「にゃはは、わたしキュートなんだ。嬉しいにゃん」
「あはは、あの猫ちゃん。あ、モフにゃーか牙が飛び出してるぞ」
男性が可笑しそうに笑った。
「なぬぬにゃん」
モフにゃーはちょっと気に入らない様子だ。
「おっと、モフにゃーちゃんが怒っているぞ。しかも牙がより飛び出しているじゃないか」
男性は美しい顔を歪め意地悪な微笑みを浮かべた。
「ちょっとお兄ちゃんってば。モフにゃーちゃんお兄ちゃんがごめんね」
モフにゃーはむむっにゃんと怒っているけれど、女性が謝ってくれたのでなんとか落ち着きを取り戻す。
「さて、美味しい料理を作るぞ」
「そうしましょう」
お父さんとお母さんはそう言いながらこちらに向かって来た。そして、わたしとモフにゃーの肩を優しくぽんぽんと叩き微笑みを浮かべ厨房に入った。
「あの人達ってば失礼しちゃうにゃん。お父さんとお母さんの料理を食べてぎゃふんとしたら良いのだにゃん」
モフにゃーはぷりぷり怒りながら尻尾を揺らしお父さんとお母さんの後を追いかける。あのもふもふな尻尾可愛い。もぎゅとつかんでもふもふしたいな。きっと、怒られちゃうな。
そんなことを考えながらわたしは、チラリとテーブルに向かい合って座る二人に視線を向ける。何やら楽しそうに話をしていた。
それからわたしもみんなの後を追いかけ厨房に入る。
「あの二人は何をしに来たのかしらね?」
「きっと、敵情視察だろうよ。まあ、この店を気にしているってことだから良しとしよう」
お父さんは腕まくりをして魔道具の冷蔵庫からワッフルの材料である卵や牛乳、バターを取り出していた。
わたしはぼんやりとそんなお父さんを眺めていた。
「わたしも料理が出来たらな……楽しいかもな〜」
「にゃはは、アリナちゃんってば一度チャレンジして大失敗したもんにゃ〜」
モフにゃーは長い牙を見せてにゃーと笑う。
「あ、モフにゃーってば失礼な猫ちゃんだね〜」
「だって、本当のことだにゃん。それにわたしは猫聖獣だにゃ〜ん」
「ふんだ!」
「アリナちゃんってば拗ねて可愛らしいにゃん。でも、あのお菓子を丸焦げにしたのも砂糖を全部こぼして砂糖まみれになったのもおもしろかっにゃんね」
モフにゃーはそれは可笑しそうにお腹を抱えて笑った。
「モフにゃーって本当にわたしの眷属なのかな~」
わたしはほっぺたを最大限に膨らませた。
「アリナはまだ小さいからよ。これからお料理上手になれるわよ」
お母さんは冷やしておいたイチゴタルトを魔道具の冷蔵庫から取り出しながら優しく言った。
「そうだよ。わたしはこれからだもんね」
わたしはふふんと胸を張ってみせた。けれど、地球時代も料理上手ではなかったことを思い出した。