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2 お客さんとおでん(その隣でもふもふ達が騒がしい)


 男性はおでんの大根から食べた。わたしは、その食べている姿をドキドキしながらじっと眺めた。


「う〜ん、味が大根にしみしみ染み込んでいて美味しいな」


 男性は顔全体を緩ませほくほく顔になっている。そんなゆるゆるとした表情を見ているとなんとも言えないくらい懐かしい気持ちが込み上げてくる。


 次は、じゃがいもに箸を伸ばす。


「うわぁ~ほくほくしている。もう体中がほくほくぽかぽかで堪らない。それになんて懐かしい味がするのだ」


 男性のその表情はわたしのお父さんに負けないくらいとろけるような笑顔になっていた。


 わたしはチラリとお父さんに視線を向けると、それはもうとろけるような笑顔になっていた。


「幸せで身も心もあたたかくてほくほくになるよ」


 男性はおでんのじゃがいもをぺろりと完食し、お次はウインナーに箸を伸ばす。


「う〜ん、このウインナーパリッパリでジューシーで堪らない美味しさだ。ああ、幸せが倍増します」  


 男性のとろける笑顔が先程よりももっともっととろとろにとろけた。


 その時。


「わ、わ、わたしのウインナーがにゃん!!」

「ライオン魔獣鳥である俺のウインナーが!!」


 ともふもふな二匹がドタバタとやって来てやかましい声を上げた。


「ん? どうしたんだ」


 男性はもふもふな二匹に気づき首を傾げた。



「おじさん、そのウインナーわたしのだにゃん」

「いやいや、そのウインナーはこのライオン魔獣鳥である俺のウインナーだ。おじさん食べてしまったのだな」


 モフにゃーとギャップはお客さんである男性に失礼なことを言っている。


「ギャップちゃんのウインナーじゃないにゃん。じゃがいもをあげたにゃん」

「モフにゃー主何を言うのだ。このライオン魔獣鳥である俺がじゃがいもと大根を譲ったではないか」


 モフにゃーとギャップはまたまた醜い譲り合いを繰り広げている。


「……俺はもふもふさん達のおでんを食べてしまったのかな? 大根もじゃがいもも胃の中にあるよ……」


 男性は申し訳なさそうに食いしん坊なもふもふ二匹を見た。


「そうだにゃん。わたしのおでんだにゃん」

「そうだぞ。俺のおでんだ」


 モフにゃーにギャップよ。君達は間違えているよ。


「モフにゃーにギャップちゃん。違う〜」


 わたしはもふもふな二匹に視線を向け言った。


「うにゃん?」

「ん?」


 モフにゃーとギャップは可愛らしく首を横に傾げきょとん顔だ。その姿があまりにもキュートで思わずぎゅっと抱きしめたくなる。けれど、ここは我慢しなくては。だって、わたしはお客さんに日本料理をおもてなしするんだもんね。


「そのおでんはねお客さんのおでんなんだよ」


 わたしは、ちょっと強めの口調で言った。


「えっ? わたしおでん食べたいのににゃん」

「へっ? 俺もおでんとやらを食べたいぞ」


 モフにゃーとギャップはうるうるした目でわたしとお客さんのおでん皿を交互に見つめる。


「食べたくても我慢しなくちゃいけないんだよ」

「我慢にゃん……」

「我慢……」

「うん、そうだよ。モフにゃーもギャップちゃんもここの店員さんだよね」


 わたしはモフにゃーとギャップの前に立ち二匹のもふもふな肩に手を置き「わかった」と言った。

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