エプロンだよ
「わっ! ギャップちゃん。忘れていた」
「ギャップちゃんだにゃん。忘れていたにゃん」
わたしとモフにゃーは思わず忘れていたと本当のことを言ってしまった。
「……こ、このライオン魔獣鳥である俺のことを忘れていたと言ったのかい? アリナちゃんにモフにゃー主は……」
ギャップは、目を三角形にしてご立腹しているみたいだ。
「ギャップちゃんごめんね」
「にゃははにゃん」
「モフにゃー主……笑っているのかい?」
ギャップがガォーと吠えかかったその時。
「お〜い! ギャップちゃん、可愛いエプロンだぞ〜」と言いながらお父さんが洗い場に入って来た。
「な、なぬぬ、可愛いエプロンだと?」
ギャップは目をキラキラと輝かせくるりと振り向いた。
「こ、これは……可愛い。いや、カッコいいエプロンではないか」
ギャップのその声はとても嬉しそうだった。
「ぐふふん、ぬふふん。このエプロンで俺の可愛さ、いや、俺のカッコ良さが激増したぞ」
ギャップはお父さんから受け取ったエプロンをじーっと見つめご満悦顔だ。
「お〜っ、ギャップちゃん気に入ってくれたかい」
「もちろんだよ。だって、この俺ライオン魔獣鳥の姿がバ~ンと描かれているんだからな」
ギャップは腰に手を当てふふんと笑いそれからそのエプロンをつけた。
「みんなどうだ。このエプロン俺に似合っているよな」
ギャップはドヤ顔でわたし達の顔を順番に見る。
「ギャップちゃんはもちろん可愛いぞ。俺の見立てに間違いはなかったな」
お父さんは得意げに言った。
「ぐふふ、だよな。ライオン魔獣鳥である俺に似合っているよな。可愛いよりカッコいいんだけどな。まあ、いっか」
ギャップは水色のエプロンにライオン魔獣鳥の絵がデカデカとプリントされているエプロンを身に着けニマニマ顔だ。
「アリナちゃんにモフにゃー主もどう思う?」
ギャップはわたしとモフにゃーを交互に見る。
「ギャップちゃんにとても似合っているよ」
「ギャップちゃん可愛いにゃん」
わたしとモフにゃーがそう答えるとギャップは「ぐふふ、俺はライオン魔獣鳥だからね」と言って胸を張った。
「ねえ、でも今思ったんだけどにゃん」
「ん? モフにゃーどうしたの?」
「不公平だと思わにゃい。ギャップちゃんだけライオン魔獣鳥柄のエプロンをお父さんに貰ってにゃん」
モフにゃーは不満げにその可愛らしいお口を尖らせ、ギャップとライオン魔獣鳥柄のエプロンをじろーっと見た。
「むむっ、モフにゃー主を差し置き俺としたことが……」
ギャップは俯きライオン魔獣鳥柄のエプロンに視線を落とす。
「ギャップちゃんにゃん。そんなつもりはなかったにゃん。ただ、ちょっと羨ましくてにゃん」
モフにゃーはその可愛らしい肉球のある手をカジカジ噛りながら言った。
「モ、モフにゃー主……」
「ギャップちゃんにゃん……」
ギャップとモフにゃーは見つめ合う。
そんな二匹の姿を見ていると涙がぽろりと零れそうになるよ。
その時。お父さんが。
「実は、モフにゃーとアリナのエプロンもあるんだな」と言った。
「えっ!!」
「わたしのもあるにゃん!!」
「なんと!!」
わたし達はびっくりして声を上げた。
お父さんからエプロンを受け取ったわたしとモフにゃーは満面の笑みを浮かべた。
だって、わたしアリナにそっくりな幼女柄のエプロンとモフにゃーにそっくりなもふもふな猫の絵がプリントされたエプロンだったんだもん。
しかもわたしアリナは洗い物と創造料理中のイラストなんだよ。モフにゃーは食器を運んでいる。
わたし達は嬉しくて早速新しいエプロンにつけ替えた。
「モフにゃー可愛らしいね」
「にゃはは、照れるにゃ。アリナちゃんこそ可愛いにゃん」
「あはは、嬉しい照れるな」
「にゃはは」
なんて、わたしとモフにゃーは言い合う。
「アリナにモフにゃーそのエプロン気に入ってくれたんだね」
お父さんもわたしとモフにゃーをとろけるような笑顔を浮かべ眺め嬉しそうだ。
「うん、気に入ったよ。ありがとう、お父さん」
「気に入ってたにゃん。ありがとう、お父さんにゃん」
わたし達は笑顔で返事をした。
「俺達お揃いだな」
ギャップがわたしとモフにゃーの肩をぽんぽんと優しく叩いた。
「うん、みんなで可愛らしくなったね」
「わたし達み〜んな可愛いにゃん」
わたしとモフにゃーはニコニコ笑顔だ。
洗い場にキラキラと輝く笑顔が溢れたその時。
カランカランとドアベルが鳴った。
「あ、お客さんが来たね」
本日第一号のお客さんはどんな人かな? 楽しみだ。よし、頑張らなくてはとわたしは気合いを入れる。
「みんな、よろしく頼むぞ」
お父さんがわたし達の顔を見て言った。
「了解で〜す」
「任せておけ」
「了解だにゃん」
わたし達はスチャッとこめかみの辺りに右手をかざし敬礼のポーズをとる。
「うわぁ~みんな可愛いぞ。キュートだ。では、頑張ろうな」
お父さんはとろけるような笑顔を浮かべ、「いらっしゃいませ〜」と言いながら洗い場から出ていった。




