美味しい料理とお客さん
イチゴタルト美味しいですよ。
「さて、アリナにモフにゃーそろそろお昼ご飯にしようか」
洗い場にやって来たお父さんが笑顔で言った。
わたしとモフにゃーはやったーとバンザイをする。
小さな休憩室のテーブルに賄いの料理が並べられいる。
野菜たっぷりの豚肉入りスープにライ麦パンや白パンにデザートはイチゴタルト。飲み物は紅茶だ。
この世界はイチゴタルトが人気でわたしも大好物。だけど、時々日本の記憶がよみがえりデザートも料理も種類が少ないなと感じる。
「さあ、食べよう。いただきま〜す」とお父さんが手を合わせた。
「いただきま〜す」とわたしとお母さんもそれに続き手を合わせる。モフにゃーも肉球のある可愛らしい手を合わせている。とってもキュートだよ。モフにゃー。
先ず、ライ麦パンに手を伸ばす。そのライ麦パンをちぎってスープに浸し柔らかくて食べる。
うん、スープの汁がライ麦パンに染み込み美味しい。熱々ほくほくはふはふだ。家族でご飯を食べている。ただ、それだけなのにわたしはもう幸せな気持ちになる。
「アリナ美味しいかい?」
「うん、お父さん。とっても美味しいよ~」
「それは良かったぞ。お父さんはアリナの美味しそうに食べているその姿を見ているだけで幸せなんだよ」
そう言ってニコニコと笑うお父さん。その隣に座るお母さんも微笑みを浮かべている。
それから、モフにゃーも無我夢中で食べている。因みにモフにゃーは食事中やお仕事の際は猫ちゃんサイズからわたしと同じくらいのサイズに巨大化する。
えへへ。わたしは幸せ者だなとほくほく笑顔を浮かべていると、カランカランとドアベルが鳴った。
お客さんだ。
「いらっしゃいませ〜」
食事中だったけれど、お父さんとお母さんはドアベルに素早く反応して椅子から立ち上がる。
仕事熱心だなと思いながらわたしは、大好物のイチゴタルトを大きな口を開けて食べる。うん、クリームの甘さとイチゴの甘酢っぱさがマッチしている。
えへへ。わたしはお客さんより食べることを優先するのだ。
お父さんとお母さんの休憩室から出ていく後ろ姿を眺めながらわたしは優雅に紅茶を飲む。
うん、紅茶も最高だ。
その時。男性の大きな声が聞こえてきた。何だろう? と思いわたしは椅子から立ち上がる。
「ふ〜ん、雰囲気の良いお店ですね」と言っているようなんだけれど、なんだかその声は褒めているのとちょっと違う気がした。
「モフにゃーわたし達も行こう!」
「んにゃん? わたし、イチゴタルトをむしゃむしゃしているだにゃん」
「そんなの後でいいから」
「え〜むしゃむしゃぱくぱく中なのににゃん」
モフにゃーはイチゴタルトにかぶりつきながら返事をする。
「モフにゃーはわたしの眷属なんでしょう?」
わたしはニヤリと笑ってみせた。
「ず、ズルいにゃん。アリナちゃんってば……でも仕方ないにゃん。主のいうことだもんにゃん。渋々だにゃん」
モフにゃーは食べかけのイチゴタルトをお皿に戻し椅子から立ち上がった。
わたしとモフにゃーがそーっと店内に顔を出すと声の主がそこに居た。
「イチゴタルトでも食べようかな?」
「わたしはワッフルを食べようかな〜」
男性と女性がメニュー表を眺めながら言った。
男性はアプリコット色の髪に目は海の色を思わせるようなアクアマリン色だった。男性なのにとっても色白で美しくてちょっと妖しげな雰囲気が漂っている。
そして、女性はストロベリーブロンドヘアがとっても似合っていて目の色はアメジスト色で丸っこい目がキュートだ。
って、ちょっと待ってよ。この人達は……。どうしてうちの店にいるのかな?
この人達は……。
「お客さん、お隣の食堂の方ですよね?」
と、お父さんが尋ねた。
「はい、そうですよ。それが何か?」
男性はそう答え首を横に傾げる。
「食べに来たんですよ〜」と女性も明るい声で返事をする。
そうなのだ。この人達はお隣の人気食堂のオーナーさん兄妹だったのだ。
「あの人達はどうしてこの店に来たのかなにゃん?」
モフにゃーがわたしの耳元で呟いた。
「まさか偵察かな? でもうちの店より流行っているのにね。悔しいけど……」
なんて、モフにゃーと小声で話していると。
「それはありがとうございます」とお父さんは明るい営業スマイルな声で言った。