異世界のアリナ
「さあ、今日もはりきって料理を作るぞ」
コックコートに着替えたお父さんが腕まくりをして気合いを入れた。
「美味しい料理を作らなくてはね」
ストライプ柄のシャツにエプロンをつけ黒のデニムを穿いたお母さんも同じく腕まくりをする。
一方、わたしとモフにゃーはそんな二人をぼんやりと眺めていた。
「お父さんとお母さんはりきっているね」
「今日はお客さんたくさん来るといいにゃんね」
「お料理は美味しいのに流行らないなんて不思議だね」
「お隣の食堂にお客さんを取られているにゃん」
わたしは木製の丸テーブルに肘をつき頬杖をつく。その丸テーブルの上にちょこんと座るモフにゃーと顔を見合わせた。
「そっか……お隣さんのご飯美味しそうだもんね」
「わたしこの前食べたにゃん。美味しくてほっぺたが落ちたにゃん」
「え? 食べたの! まさか盗み食い?」
「ピンポーンにゃん」
「モ、モフにゃーってば〜わたしも食べたかったなぁ。って違う〜!」
なんてやり取りをしている場合ではなかった。
「さて、わたし達もお手伝いをしなきゃね」
わたしはスチャッと椅子から立ち上がる。
「わたしもお手伝いだにゃ〜ん」
モフにゃーも丸テーブルからにゃーんと飛び降り見事な着地を決める。
「モフにゃーカッコいいよ」
トテトテ、にゃんにゃんとわたしとモフにゃーはカフェ食堂の更衣室に向かう。
わたしは幼女用の制服に着替えモフにゃーは猫用の制服に着替えるのだ。
白地のシャツにお気に入りのエプロンをつける。わたしは洗い物担当なので防水加工のあるエプロンをつけている。これがまた可愛らしいのだ。
ポケット付きのピンク地のエプロンなんだけれど、そのエプロンのポケットからネコさんとウサギさんがニョキニョキーンとこんにちはしているイラスト入りエプロンなんだ。
このエプロンをつける度わたしは、嬉しくなっちゃう。それと、ベレー帽も被るのだけど、これもお気に入りだ。
幼女になって嬉しいのは可愛いものがより可愛らしく見えるところかな。ただ、十八歳だった安莉奈の記憶があるのになぜだか心もちょっぴり幼女化している。
ううっ。どうしてかな?
一方、モフにゃーの制服は。
ピンク色のフリルレースエプロンをつけている。それとわたしとお揃いのベレー帽を斜めに被っているのだ。
もう、そのモフにゃーの姿があまりにも可愛らしくてキュンキュンする。
「これでよし。モフにゃーお仕事頑張ろうね」
「はいにゃん」
わたしとモフにゃーも気合いを入れる。
この世界は子供も猫もお仕事をしていたりするのだ。
さあ、洗い物をしよう。
お父さん、お母さん美味しい料理を作ってね。
「ねえ、お父さん、お母さん洗い物はまだかな〜?」
木製のキッチン子供用の踏み台の上から振り返りわたしは、尋ねる。
「まだ、お客さんが来てないから洗い物がないのよね」
お母さんはふぅーと溜め息を零す。
「そっか、残念……」
「残念にゃん」
わたしの隣に立ち布巾を手に持つモフにゃーも残念そうだ。
「アリナ、お父さんの料理は美味しいよな?」
洗い場に入って来たお父さんが尋ねる。
「うん、わたしお父さんのご飯大好きだよ〜」
「おぅ。そうかそうかそれは嬉しいな」
お父さんは嬉しそうにふにゃふにゃとした表情になる。
「だから、もっとお客さんに食べてもらいたいよ」
「そっか、アリナよ。嬉しいことを言ってくれるな」
お父さんのその表情はふにゃふにゃふにゃふにゃふにゃふにゃとそれはもう緩んでいる。
「アリナ、お父さんは頑張るからな」
「うん。わたし応援してるね」
わたしはにっこりと笑った。
「おぅ。アリナのその笑顔がお父さんのパワーになるぞ〜」
ふにゃふにゃふにゃふにゃふにゃーりととろけてしまいそうな柔らかい笑顔を浮かべるお父さん。嬉しいけれど、ちょっぴり鬱陶しいかもしれないよ。
異世界のアリナとモフにゃーです。読んで頂きありがとうございます。
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