名前を付けてにゃん
「わたしが猫ちゃんの主!?」
びっくりして目を大きく見開くわたし。そんなわたしを猫は期待のこもった眼差しで見ている。
「はいにゃん。なので可愛らしい名前をお願いにゃん」
「わ、わかった……。主っていうのはちょっと違和感があるけど名前だったら付けてあげられるよ」
わたしは真っ白なもふもふ猫をじっと見つめ名前を考える。やっぱりキュートでとっても可愛らしい。この子が神様に拾われて良かったな。
さて、猫ちゃんに名前を付けよう。白猫だから白ちゃん? いやいやそれだとあまりにも単純すぎるよね。うーんと思わず唸ってしまう。
猫に名前を付けるのって意外と難しい。複雑な名前よりかシンプルな方が呼びやすいよね。
わたしはもふもふな猫をじっと眺めなんて名前にしようかなと思ったその時、あ、そうだ。もふもふな猫だから。
ピンと閃いた。
「モフにゃーはいかがかな?」
わたしは目を輝かせ言った。
「モフにゃー。わたしモフにゃーなんだね。ありがとう安莉奈ちゃん」
猫改めモフにゃーはバンザイをしたかと思うと、にゃぱーと笑いにゃんにゃんにゃーんと肉球のある両手を広げわたしにガシッと飛びついてきた。
「モフにゃーちゃん。うわぁ〜めちゃくちゃもふもふだよ〜」
わたしは飛びついてきたモフにゃーをむぎゅーとしてふんわりと柔らかい感触を堪能した。
ああ、幸せだ。
わたしの眷属になったらしいモフにゃーともふもふタイムを満喫していたその時。
ガチャとドアが開く音がしたので振り向くと、シルバーヘアの男性と赤みのあるヘアの西洋人らしき四十代くらいの男女が部屋に入って来た。
「気がついたのね」
女性が柔らかい笑みを浮かべながら言った。その隣に立っている男性もニコニコと笑っている。
「おっ! 気づいたのか。良かったぞ。体は大丈夫かい?」
男性も頬を緩めわたしを見ている。
この人達は一体誰だろう? わたしのことを心配してくれているみたいだけど。
「大丈夫にゃん」とわたしの隣に二本足で立っているモフにゃーが返事をした。
「おっと、猫ちゃんはお話しもできるのだな。可愛いな〜」
男性は頬をだらしなく緩めモフにゃーに視線を向ける。
「はいにゃん。お喋りできるようになりましたにゃん。わたし安莉奈ちゃんにモフにゃーって名前も付けてもらったんだにゃん」
モフにゃーは得意げに胸を張る。
「おっ。そうかそうか。猫ちゃんはモフにゃーか。可愛い名前を付けてもらったんだね」と言った。そして、「それから君はアリナなんだね」と視線をわたしに移し頬を緩めた。
「はい、安莉奈です。わたちどうしちゃったんですか?」
あ、わたちなんて言っちゃった。ああ、恥ずかしいよ。
「アリナちゃん。なんてしっかりしているんだ!! まだ、二歳だよね?」
男性はしゃがみわたしに目線を合わせながらニコニコと笑った。
「へ? わたし二歳でちゅか?」
うわぁー。わたしと言えたけれど、今度はでちゅかなんて言ってしまったよ。恥ずかしくて顔に熱が集まる。だって、でちゅかだよ。
そんなこと気にする素振りもなく男性は「アリナちゃんが二歳と答えたんだよ」と言いながらわたしの頭を撫でた。
その手はちょっとゴツゴツしていたけれどとても温かかった。なぜだか涙が出そうになる。
「そうよ、アリナちゃんはねうちの庭で倒れていたのよ。どうしたの? 大丈夫? 何歳?って聞いたら二歳って答えたわ。それと、お父さんとお母さんはって聞くといないと……もね……」
女性もわたしの目の高さに合わせしゃがみ眉間に皺を寄せながら言った。
「そうだったの……」
これはもう二歳の幼女を演じた方が良いかもと思えてきた。どうして二歳と答えたのかよくわからないけれど。
「アリナちゃんどうだいうちの子になるかい? モフにゃーちゃんもうちの猫にな」
「アリナちゃんだったら大歓迎よ。モフにゃーちゃんもね」
二人は心がぽかぽかしてくる春の暖かい日のような笑顔を浮かべている。
わたしは気づくと「はい」と即答していた。
モフにゃーも「はいにゃん」と答えた。
その時、ふわーと風が吹き何処かから声が聞こえてきた。
『決定だな。安莉奈はアリナとしてこのグリーン王国で生きていけ。猫ちゃんもモフにゃーとしてな』
気がつくと目の前に神様が立っていた。
「か、神様……!!」
「か、神様にゃん……!!」
神様の宝石のように美しいブルーの瞳がわたし達をじっと見つめてこう言った。
『お前達は安莉奈と捨て猫の記憶を忘れて生きていけ~!!』
その声を聞いたわたしとモフにゃーから地球での記憶は消えた。
そう、熱を出した三歳のあの日までは。
次回異世界での生活が始まります。
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