黄色のバス
するとその時。わたしのチラチラ見ている視線に気がついたのか隣の席に座るおじいさんがこちらを向いた。
おじいさんと目が合った。あ、やっぱりこのおじいさんと何処かで会ったことがあるなと確信した。
でも何処で? うーん、思い出せない。うーん、うーんとわたしは考える。
「お嬢ちゃんわしの顔に何かくっついているかい?」とおじいさんが首を傾げながら言葉を発した。
あ!! この声! 思い出した。
「お、おじいさん黄色のバスに乗っていましたよね?」
わたしは興奮して尋ねた。
「ん? 黄色のバス?」
「うん、黄色のバスだよ」
おじいさんはこめかみに人差し指を当て考えているみたいだ。
「黄色のバス……う〜ん、まさかグリーン王国へやって来た時のバスかい!?」
おじいさんは目を大きく見開きわたしを見た。
「うん、黄色のバスに乗ってこのグリーン王国へやって来たよね?」
「ああ、そうだよ。黄色のバスに乗って着いた先がこのグリーン王国だったぞ……だけど、幼女なお嬢ちゃんなんてあのバスに乗っていたかな?」
おじいさんは食い入るようにわたしの顔を眺め首を捻る。
「はい、わたし幼女の姿じゃないけど黄色のバスに乗っていたよ」
「幼女の姿じゃないじゃと?」
おじいさんは訳がわからないといった顔をしている。
「ねえ、黄色のバスってあのバスのことかしら?」
それまで黙っていた年配の女性がわたしとおじいさんを交互に見て尋ねた。
「はい、そうだよ」とわたしは返事をする。
「そうさ、あの黄色のバスのことだよ。わしはこの幼女なお嬢ちゃんに見覚えがないんだよな。カーナは見覚えがあるかい? あ、でも幼女の姿じゃないと意味不明なことを言っているんだよな」
おじいさんはうーんと唸る。
「わたしも幼女なお嬢ちゃんのこと覚えていないわ」
カーナと呼ばれた年配の女性はそう答えわたしのことをじっと見る。
「わたし、十八歳の女性の姿だったんだよ。というか十八歳だったの」
「え? 十八歳の女性の姿!」
「へ? 幼女にしか見えないお嬢ちゃんが十八歳とはな……」
おじいさんとカーナさんは目を丸くした。
「はい、わたし十八歳の女性だったんだけど、でも気を失ってしまったの。それで目を覚ますと何故か幼女になっていたんだよ」
「不思議なこともあるのね」
「そうじゃな。まあ、わし達がこの世界に居ることそのものが不思議なことではあるけどな」
わたしとカーナさんの顔を交互に見て「なっ」と言うおじいさん。
「わたしはアリナです。おじいさん達はこの世界で何をしているんですか? あ、おじいさんお名前は? 何処に住んでいるのかな?」
わたしは気になったことを一気に質問してしまう。
「あはは、アリナちゃん。そんなに矢継ぎ早に質問しなくてもいいじゃろう。わしの名はタイゾーじゃ。地球名は泰造じゃがな。あ、カーナは加奈だぞ」
タイゾーおじいさんはホッホッホと笑った。
カーナさんもうふふと笑っている。
ああ、わたし笑われてしまったよ。
「このグリーン王国でわしは農家をしている」
「わたしもタイゾーさんと一緒に農家のお手伝いよ」
「農家ですか。美味しい食べ物が掘れたり収穫できたりするのかな? あ、サツマイモのホリホリとか楽しくて美味しそう」
わたしはタイゾーおじいさんとカーナさんがサツマイモをスコップで掘り起こしている姿を思い浮かべてしまった。
「にゃぬぬ、サツマイモにゃん」
「なぬぬ、サツマイモじゃと」
それまで黙ってスープをもぐもぐと食べていたモフにゃーとギャップがサツマイモに反応した。ってちょっとそのスープわたしの食べ残しだよ。




