神様に召喚された
「え?」
泣いている姿を誰かに見られたかもしれないと思うと恥ずかしくて焦ってしまう。ってちょっと待てよ「君を迎えに来たよ」とはこの猫ちゃんをとのことかな?
それだったら嬉しいなと思いわたしは手の甲で涙を拭い声の主を探す。
すると、不思議な光景が目に入って来た。それは……。
一台のバスが停まっていた。それも黄色だ。それになんだかキラキラと輝いているようにも見える。
どうして神社の境内にバスが停まっているの? 神社にド派手なバスって場違いじゃないの?
不思議に思い首を傾げていると、バスから人が降りてきた。その人とわたしの目が合う。まるで宝石のように美しいブルーの目だ。それにこの世のものとは思えないオーラに目を奪われる。
髪の色はひんやりとした青みがかった色合いでサラサラのロングヘアだ。この人美しいけれど、男性だよね?
神社にバスに美しい男性。
「ど、どうなっているの?」と思わず声に出してしまった。
すると、
「君を迎えに来たよ」と返事をするではないか。声の主はこの男性だったんだ。
君をとはもちろんこの猫ちゃんのことだよね? 男性と猫の顔を交互に見るわたしだけど……。
男性の目はわたしを見ているようだ。
そして、もう一度「君を迎えに来たよ」とその男性は微笑みを浮かべながら言った。
「へ?」
わたしをですか!? この男性日本人じゃないよね。わたし外国人の知り合いなんていないよ。
それに外国人とも異なるなんとも言えないオーラが漂っているんですけど。
「さあ、お嬢さんバスに乗って」
男性は青みがかったサラサラな髪を風になびかせにこやかな微笑みを浮かべている。
「わ、わ、わ、わたしですか?」
「そうだ。君だよ。あ、そうだ、そこの猫ちゃんもついでにどうぞ」
にゃん! と猫は鳴いた。まるで、『はいにゃん』と返事をしているかのようだ。
「猫ちゃんはバスに乗る気満々だよ。さあ、早く乗って。君を迎えに来たんだからね」
男性のふわりと包み込むような微笑みにわたしは思わず「はい」と返事をしてしまった。
わたしは入口と書かれているバスの後ろ扉から乗り込む。猫もにゃんにゃんとバスに乗り込んだ。
車内にはわたし以外の老若男女が数名乗っていた。この人達もこの男性に迎えに来られたのだろうか。
わたし達はこれからどこへ行くの? 幸せが満ち溢れている場所だったら嬉しいな。そう願いながらわたしはゆっくり目を閉じた。
そして、再び目を開けるとそこは異世界でした。って……。
なんでやねん!! なぜだか関西弁になってしまった。
「ようこそ、グリーン王国へ」
男性はにこやかな微笑みを浮かべ両手を横に広げわたし達を歓迎している。
「グリーン王国?」
バスの乗客だったわたし達の声が揃う。
猫も「にゃん?」と鳴いた。
「そうだよ。ここはグリーン王国だ。君達の世界とは別世界のね」
男性が言うように緑に溢れた空間ではあるし空を見上げると犬のような顔をした鳥が飛んでいる。ちょっと怖いよ。震えちゃう。
「別世界?」と誰かが言った。
「そうだよ。君達は選ばれし人間なんだよ」
男性は妖しげな微笑みを浮かべた。よく見ると髪だけではなく服装も変だ。ヒラヒラな白の布を纏ったような古代風プラスファンタジーを混ぜ合わせような出で立ちなのだ。
「選ばれし人間ですか?」とわたしが尋ねる。
「そうだよ。わたしが君達をこのグリーン王国に召喚したのだ」
妖しげな男性は口元に手を当ててうふふと笑った。
召喚って一体どういうことなのだろうか? この男性の言っている意味がわからない。
その時。
「召喚ってまさかライトノベルとかによく出てくるあのファンタジーの異世界召喚のことですか?」
と、くりくりな目がちょっと可愛らしい中学生くらいの男の子が質問した。
「ん? ライトノベルにファンタジーとはなんだろう? まあ、そう言うことかもしれないな。君達の世界からこのグリーン王国に召喚したんだからな。君達はこの世界に必要な存在だからね」
そして、男性はニヤリと笑い、「申し遅れたがわたしは神様だ」と言った。
「神様!!」
バスの乗客だったわたし達の声がまたまた揃う。
猫も「にゃん!!」と鳴いた。
「そうだよ。わたしはこの世界の神様だ。君達にこの世界をより良くしてもらいたくてね。よろしく頼むよ」
神様は両手を大きく広げ満面の笑みを浮かべた。ってちょっと待ってくださいよ。それって自分勝手じゃないですか? わたしがそう考えていると、
「ワシは嫌だ。君達の王国などワシには関係ない。ワシは日本に帰るぞ」と白髪頭のおじいさんが言った。
その通りだ。おじいさんよく言ってくれましたとわたしは思わず拍手を送りたくなった。
「わたしもそう思うね」と年配の女性も頷く。
「僕はこの世界で生きていくのも良いかも。あ、因みに僕は勇者とかになれるんですか?」
これは先程のくりくりお目目の中学生くらいの男の子だ。
「わたしもこの世界で生きていきたいかも〜」
そう言ってにっこりと笑ったのは高校生くらいのおさげ頭の女の子だった。
そして、わたしはどうしたいの? と自分自身に問いかけてみるけど、答えが出なかった。
「みんな様々な思いがあるようだね。だが、申し訳ないが帰ることはできないよ」
「帰ることができないとは何故だ?」
おじいさんは神様に詰め寄る。
「それはこのバスは片道乗車だからね……」
「は? 片道乗車?」
「うむ。このバスは君達の地球からグリーン王国行きの片道乗車しかできないのだ」
神様は大きく頷きながら答えた。
「それはおかしいじゃないか。だって、神様はこのバスでグリーン王国とやからワシらの地球へやって来たんだよな」
おじいさんは神様に顔を近づけ抗議をする。
「それはわたしが神様だからだ。君達はこのグリーン王国に必要な存在であるしそれに君達はわたしの呼びかけに答えたではないか」
神様は威厳に満ちた顔でわたし達を順番に見る。
「それは……だがしかし」
おじいさんは弱腰になる。
「さあ、諦めてこの世界で楽しく生きることを考えるのだな」
神様の宝石のように美しいブルーの瞳がキラリと輝き青みがかった髪がサラサラと風に揺れた。
わたしは、その瞳と髪を眺め綺麗だなとぼんやりと思った。
「君達にわたしから特別な力をプレゼントしてやろう。この世界を良き世界へと導いてくれ。それと君達も幸せになってくれ」
そして、宝石のようなブルーの瞳が再びキラッと光ったと思うとわたしの気が遠のいた。