名前を付けてくれ
そんなことってあるの? 嘘でしょう。わたしは目の前の光景にただただ驚いた。
だって、ライオン魔獣鳥が金色の光に包まれ倒れていたのだから。そのライオン魔獣鳥をモフにゃーが誇らしげに見下ろしていた。
「モ、モフにゃー、一体……何をしたの?」
「わたしライオン魔獣鳥に勝ったみたいだにゃん」
モフにゃーは目を大きく見開き驚いている。
「ライオン魔獣鳥はどうなったの?」
わたしは恐る恐る尋ねる。
「生きてはいるみたいだにゃん」
モフにゃーは自身の足元に倒れているライオン魔獣鳥に目を落としじっと眺めながら答えた。
「よ、良かった〜」
わたしはほっと胸を撫で下ろした。そうほっとしたのとほぼ同時にあることに気がついた。
「モフにゃー逃げなきゃ〜また、攻撃されたら大変だよ〜」
「それもそうだにゃん」
「早く逃げよう」
「はいにゃん」
わたしとモフにゃーが逃げようとしたその時。
「待つのだ」と声が聞こえた。
この声はまさか……。
わたしとモフにゃーは顔を見合わせ、後ろ振り向く。すると、ライオン魔獣鳥がわたし達をじっと見ていた。
う、うげっ! こ、怖いよ。と、わたしはビクビクしたんだけれど、そのライオン魔獣鳥は尻尾を真上にピンと立てている。
え? これってなんだか嬉しそうに見えるよ。まさかね。
ライオン魔獣鳥が猫のように嬉しそうにしているなんてあり得ないよね。
と、思ったんだけど……。
「そこの猫ちゃん主よ、俺に名前を付けてくれ」とライオン魔獣鳥はモフにゃーを見て言った。
「んにゃん? わたしにゃん?」
モフにゃーはそれはもう驚いた様子で自身を指差す。
「そうだ。この俺を手懐けたのだからな」
ライオン魔獣鳥はそう言ってガォーと吠えた。
「へ!? わたしがライオン魔獣鳥を手懐けたにゃん?」
「そうだ。この百獣の王ライオン魔獣鳥をテイムしたのだからな……信じられない猫ちゃん主だよ」
ライオン魔獣鳥は信じられないと言いつつ口元を緩め嬉しそうに見える。
「わたし猫ちゃんじゃないにゃ。聖獣猫のモフにゃーだにゃん」
モフにゃーは鼻の穴をぷくっと広げにゃははにゃんと胸を張る。
「モフにゃーそれは失礼した。では、改めて聖獣猫のモフにゃーよ。俺に可愛らしい名前を付けてくれ」
ライオン魔獣鳥はそう言ってモフにゃーの顔を真面目な表情で見つめた。
百獣の王ライオン魔獣鳥と言いつつ可愛らしい名前を付けてほしいんだと思うと可笑しくってわたしはクスッと笑ってしまった。
「おい! そこの幼女さん」
「あ、はい。わたしのことですか?」
わたしは、ライオンの体に羽を生やしたそれはそれは恐ろしい姿の魔獣相手に笑ってしまったよーと焦る。
わたしってばバカバカ。アンポンタンだ。手をグーにして自分の頭をポンスカポンポンと叩く。
「そうだ。幼女さん。俺のことを笑ったな」
「ご、ごめんなさい。えっとその怖い姿なのに可愛らしい名前を付けてほしいなんて愛らしいな〜と思ったんだよ」
わたしはビクビクしながら答えた。
「なぬぬ、俺を愛らしいと言ったのかい」
「うわぁ〜ごめんなさい。だって、怖い姿なのに可愛らしいんだもん」
わたしはペコペコと頭を下げた。
「アリナちゃんを許してあげてにゃん」
モフにゃーも一緒に謝ってくれた。
「あはは、許すも何も俺は怒っていないぞ。可愛らしいや愛らしいと言われると嬉しいのだからな。それはそうと、モフにゃー主よ早く俺に名前を付けるのだ〜」
「うん、わかったにゃん」
モフにゃーは顎に手を当てて考えている。
そんなモフにゃーをライオン魔獣鳥は期待に満ち溢れた表情で眺めている。
なんだかライオン魔獣鳥が可愛らしく見えてきた。わたしはもふもふ好きなんだもん。
わたしがライオン魔獣鳥を眺めニコニコしていると、モフにゃーが「ライオン魔獣鳥の名前を決めたにゃん」と言った。
果たしてその名前は……。




