美味しいイチゴタルトとワッフルをどうぞ
「さて、出来上がったぞ」
気がつくとお父さんが魔道具の二枚の鉄板で挟みワッフルを焼き上げていた。
「わっ! とっても美味しそうな香り〜食べたくなる」
「わっ! ヨダレが出そうだにゃん」
わたしとモフにゃーは食いしん坊なことを言ってしまった。
だって、バターの香りがもうたまらなく美味しそうなんだもん。これは食べたくなるのは仕方ないよね。
「あはは、アリナとモフにゃーはそっくりだな。姉妹みたいだぞ」
お父さんはわたしとモフにゃーの顔を見てニコニコする。
「そっかな?」
「そっかなにゃん?」
わたしとモフにゃーはお互いの顔を見る。うーん、わたしってこんなにキュートかな?
「仕方ないな。一枚食べさせてあげるよ」
お父さんはわたしに甘いから大好き。時々鬱陶しいけれど、基本は大好きだ。
そして、真っ白なお皿に載せた四角い形の焼き立てのワッフルにわたしの大好物であるはちみつをたっぷりかける。
うわぁーもう食べる前から美味しいということがわかる。
「アリナなんて顔をしているんだよ。とろけそうな顔になっているぞ」
そう言ったお父さんの顔もとろけそうになっていた。
そして、準備してくれたフォークを手に取りモフにゃーと一緒にいただきますだ。
ワッフルを口に運ぶとはちみつがじわっと染み込んでいてとても美味しい。ああ、なんて幸せなんだ。
「美味しい〜」
「美味しいにゃ〜ん」
わたしとモフにゃーはほぼ同時に感嘆の声を上げる。
「アリナにモフにゃー美味しかったかい。良かった良かった。さて、あちらのお客さんも美味しいと言ってくれるかな」
お父さんはウィンクをした。
お隣の食堂経営者の兄妹の目の前にイチゴタルトとワッフルにビールとカモミールティーが置かれている。
それを二人はじっと眺め「う〜ん、まあ、美味しそうだね」と兄が言い、「わっ! わたしの大好物なワッフルだよ」と妹は嬉しそうな声を出した。
「まあ、美味しそうってなんだよね。美味しいに決まっているんだからね」
「あはは、アリナちゃんめちゃくちゃ怒っているにゃん」
「だって、なんだか嫌味ぽい言い方なんだもん」
わたしはぷんすかぷりぷり怒る。
「だよね。わかるにゃん」
と、わたしとモフにゃーは柱の影からこっそり眺め言い合う。
一方、お隣の食堂経営者の兄妹は。
兄はビールジョッキを口に近づけグビグビ飲んだ。
「ちょっとビールよりイチゴタルトを食べるんだよ」
そして、妹も優雅にカモミールティーを飲んでいる。
「あ、妹さんも食べる前にカモミールティーを飲んでいるにゃん」
わたしとモフにゃーは柱の影から文句を言い合う。
「ちょっと落ち着こう」
「はいにゃん」
わたしがスーハースーハーと深呼吸をすると、モフにゃーもわたしを真似てスーハースーハーにゃんと深呼吸をした。
「うん、ビールはなかなかの味だな」
兄は首を縦に振り満足しているようだ。
「お兄ちゃん、このカモミールティーも甘いリンゴのような香りに癒されるよ」
妹もカモミールティーに癒され心地良さげだ。
「さあ、イチゴタルトを食べるとしようか」
「わたしは、ワッフルを食べるよ」
兄妹はようやくフォークを手に取った。
わたしとモフにゃーは柱の影から兄妹をじっと観察している。なんだか探偵さんにでもなった気分だよ。
兄は器用にナイフを使い切り分けている。そして、イチゴとタルトを一緒に口に運ぶ。
妹もはちみつたっぷりのワッフルを口に運んだ。
果たして美味しいと言うだろうか。わたしの心臓はドキドキしてきた。
「う〜ん。このイチゴタルトは……」
兄はお皿に残っている食べかけのイチゴタルトに視線を落としじっと見ている。
妹も同じくお皿に残っている食べかけのワッフルに視線を落としじっと見ている。
「このワッフルは……」
もう、どうして次の言葉を発さず間をあけるのよ。
「そうだな。このイチゴのタルトは美味しいけどさ……平凡なんだよね。パンチが足りないって言うかこのカフェ食堂でわざわざ食べなくてもいいと言うか……そんな感じだよね」
「お、お兄ちゃん。言い過ぎだよ。でもそうかもね……」
兄妹はこの店の味がありきたりだと言っている。それってちょっと酷いよ。お父さんとお母さんが一生懸命作ったのに。
わたしは悔しくてエプロンの裾をぎゅっと握りしめた。
モフにゃーに視線を向けるとわたしと同じようにエプロンの裾をぎゅっと握りしめていた。
それと、カウンターの前に立つお父さんとお母さんに視線を移すと苦悶の表情を浮かべていた。
その時。




