解術師はティーパーティに招かれる③
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「ーー、嘘でしょ…。あの女性…、毒を隠し持ってる…」
アノンと皇妃が部屋に戻る少し前、ルディアナはティーパーティ会場を不穏な動きをしている人間はいないか、ひたすら眺めていた。
「彼女は…確か、ママル家の分家出身だわ。先日の潜入捜査の報復なのかしら…?」
ルディアナは、毒を隠し持ってる人間の行動をじっと観察した。人間に有害な毒物が存在する場合、解術師の眼には、動く度に、黒い煤のような影のような膜が見えてくる。
ルディアナが見つけた女性も、左手付近に黒い膜を纏いながら周囲を警戒する仕草を見せていた。
(オーラは、そこまで汚れてはいない…。きっと、誰かに指示を受けて毒物持ち込んでいるのだわ)
『ーー、ルディ、何かを見つけたようね?』
「ー! アノン! 驚かさないで!! ーー! 皇妃様もお戻りでしたか…」
ルディアナがアノンの言葉に驚きながらも振り向くと、皇妃がにこやかにルディアナに微笑んだ。
「ルディアナ、何を見つけたのです?」
「は、はい。今、パーティ会場に入ってきた、ママル家の分家出身の女性ーー、あ、あの方です! 薄紫色のドレスの女性、左手付近に毒物を持ち込んでいます」
「分かったわ、衛兵!! 直ぐにここへ!!」
ルディアナの報告にきゅっと顔をしかめた皇妃は直ぐに入り口に控えている衛兵を呼び寄せ、指示を出し始めた。
衛兵は指示を受けるやいなや、直ぐに毒物を持ち込んでいる女性を確保するために走り出した。
『ーー、ルディは良く貴族の顔と名前を覚えているわよね…。なのに、貴族の噂に疎いとは…』
「へ? 何? 噂ってーー」
アノンは、ルディアナが貴族図鑑が破れて読めなくなるまで、必死に貴族情報を覚えた事を知っていた。そして、ルディアナにとっては、あくまで解術師の任務を遂行するためだけの努力だということも。
『ーー、もったいないわよね。きちんとした貴婦人になれる素養はあるのに…』
「ねぇ? さっきからアノンってば、何を…」
「ーー、さぁさ、いくら、招待客が毒を隠し持ってると言っても、彼女の件は、裏で処理をしますからね? ティーパーティを始めますよ。ルディアナ、よろしくお願い、ね?」
皇妃はルディアナとアノンのやり取りを眺めていたが、ルディアナのいつもと変わらない様子に少しだけ安堵の表情をした。そして、予定通りパーティを進めるため、侍女達に促され、招待客が待つ会場へ移動することにした。
ルディアナも遅れをとらないよう、皇妃の列に続こうと足を踏み足した時、ふと皇妃が何か思い出したかのように、少しだけルディアナに顔を向けた。
「ーー、あぁ、ルディアナ、今後は任務でも、プライベートでも、ナダリア侯爵家からの贈り物は身に付けてはいけませんよ。特にカイルアンは婚約者がいなく、変な噂になったら困りますからね? ーー、そうね。これからは、カトリーヌを頼りなさい。彼女は、貴方の母とも友人ですし、ドレスや宝飾品に詳しいですからね?」
「えぇ?」
カトリーヌとは、先程まで一緒にいたコーエン公爵夫人だ。
(そう言えば、コーエン公爵夫人はどちらに? 先に会場へ向かわれたのかしら?)
「ルディアナ、分かりましたね?」
「は、はい!! 仰せのままに!!」
返事を明確に返さなかったルディアナに皇妃が少しだけ強めに畳み掛けると、ルディアナはブンブンと頭を縦に振った。
『ルディ、あんた、首をおかしくするわよ…』
アノンがため息をつきながら、そんなルディアナを見ていたが、ルディアナはすでにパーティ会場の警備について考え始めていた。
カイルアンもノアレイアスも今だかつて婚約者がいたことがない。それなのに、皇妃からコーエン公爵夫人を頼れだなんて言われれば、普通の貴族令嬢ならば、自分とノアレイアスとの縁談があるのかもと期待する。
しかし、ルディアナは皇妃の言葉を上部だけ飲み込み、適当に返事をしていた。
「ーー、ティーパーティ、他に怪しい人間はいないか…、見落とさない様にしなくちゃ! アノンも協力してね!!」
ぐっと、力強く拳を握り締めるルディアナに、ノアレイアスの恋心がルディアナに届くのはまだまだ先だなと、アノンはもう一度ため息をついた。
◇◇◇◇◇
ティーパーティの席は上位貴族から庭園の花が見易い席順になっていた。
先程、ママル家の人間が騎士達に取り囲まれ、連れていかれたのに、その場は何事もなかったかのように、和やかな雰囲気が流れている。
(貴族って、本当にすごい…)
自分も貴族の端くれなのにルディアナは、周りの貴族達の平常心に痛く感心した。
コーエン公爵夫人が欠席となり、皇妃の横に空席ができたため、マーシャル公爵夫人が席についた。
ルディアナは、マーシャル公爵夫人をチラリと観察したが、不審な仕草やオーラは見当たらず、ひとまず安心して、隅にある席に腰をおろした。
すると一斉に、ルディアナと同じテーブルに座っている伯爵家や侯爵家の令嬢達がヒソヒソと陰口を言い出す。
ご丁寧に、ルディアナには聞こえるように、そして、となりのテーブルには聞こえないよう声量まで調節済みだ。
「ーー、何故ここに、子爵家の者がいるのかしら? あぁ、嫌になっちゃう!!」
「アルム家と言えば、財務関連の官僚ですわよね? 親のコネで皇妃陛下のティーパーティに潜り込むなんて…!!」
(1人で参加する久しぶりのティパーティだけれど…。サルマ夫人がいないと、こうも違うのね…)
今までのティーパーティなら、伯爵夫人達の既婚者のテーブル横の侍女達にルディアナは紛れていた。ルディアナの横には、サルマ夫人もいて浮いた存在ではなかった。しかし、今回からは皇妃に貴族令嬢として成長するため、テーブルについて参加するよう厳命されていたのだ。
今更ながら、ルディアナは解術師として独り立ちする心細さを痛感した。
『この子達、バカなの? さっき、ルディが皇妃と会場入りしたの見てないのかしら? うーんと、こっちは、チーカス伯爵家の娘で、そっちはルルモンド侯爵家の娘で……』
令嬢達の陰口にアノンはうんざり気味で、一人一人の顔と家名をチェックし始めた。
(ーー、ちょっと、アノン、後で報復なんて、しないわよね…)
アノンのむすっとした表情を見ていると、ルディアナは何だか気持ちが落ち着いてきた。
(私の代わりに怒ってくれているのよね…? うん、私にはアノンがいるもの! 大丈夫、解術師として、何とか乗ってみせるわ!)
ルディアナが下降気味だった気分を奮い立たせると、ティーパーティの会場入り口付近が急にざわついた。
従者達が慌てて皇妃に来客を知らせに走ってやって来る。
「まぁ、皇妃陛下のティーパーティに遅れてくるなんて、なんて常識のないーー!!」
「また、子爵家の娘が身分も弁えずに、来たのかもしれなくてよ?」
クスクスとルディアナを見ながら、同じテーブルの令嬢達の蔑む笑いが広がる。
馬鹿にされてルディアナは気分が良くなかったが、それよりも、ティーパーティに途中参加する人間がいるとは聞いていなく、不安になる。予定にはない人間の登場にルディアナは緊張し、意識を集中させた。
(もしも、皇妃陛下の敵対する勢力の人間ならどう対応すれば…)
ルディアナが不安そうにアノンの浮遊している所を見やれば、アノンは意地悪そうな顔をして笑った。
(これは、危害のない人間がやって来たということ?)
アノンが慌てることもなく浮遊しているので、ルディアナも落ち着いて、テーブルの令嬢達の嫌味を聞き流した。
皇妃をチラリと見れば、ちょうど皇妃もルディアナを見ていたようで、目が合った。すると、アノンよりももっと悪巧みを思い付いたような悪い笑みを浮かべていた。
(皇妃様? 一体何がーー)
「皇太子殿下のおなーりー!!」
読んで頂きありがとうございます!
まだまだ話は続きます。
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