解術師はティーパーティに招かれる①
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「あら? ルディアナ、そのドレス……、どちらの店のものかしら?」
皇宮のガーデンには、上位貴族の夫人や妙齢の令嬢達が、皇妃主催のティーパーティの始まりを今か今かと待っているところだ。
ルディアナは、そこから少し離れた室内で、皇妃とコーエン公爵夫人と少しの時間、打ち合わせのために面会をする約束をしていた。
ティーパーティでも、皇族を狙った謀反がある事を警戒しなくてはいけない。そのため、予め犯罪に手を出しそうな貴族はいないか、会場から少し離れた場所で、参加者のオーラを毎回こっそり確かめているのだ。
(遠くからオーラを確認するだけじゃ、駄目だって言うから。ティーパーティ用のドレスを着てきたのに…。気に障るデザインだったかしら…?)
ルディアナにドレスを訊ねてきたのは皇妃で、ルディアナの返事をにこやかに待っている。コーエン公爵夫人も笑ってルディアナを見てはいるが、何故か目が怖いように見える。いつもルディアナに優しいコーエン公爵夫人が鬼の様に見えるのは、気のせいかもしれないとルディアナは思い込もうとした。
「これは、その、ナダリア侯爵家の方に、この間の任務の、、パーティのパートナーのお礼に、あの、頂き…ました…」
ルディアナの今日のドレスは、カイルアンから、先日の潜入捜査への協力の御礼として贈られたのだ。潜入捜査も業務命令だからと言って、ルディアナは当初、受け取りを拒否した。けれども、何故かカイルアンは無理矢理にドレスをルディアナに押し付けたのである。
(ナダリア侯爵家、御用達のブティックのドレスだと、カイルアンから聞いていたのだけれど…。えっ? まさか、似合ってなくて、可笑しかった?)
いつもなら、サルマ夫人も同行する皇宮のティーパーティは、本日からルディアナが解術師として独り立ちすることになっていた。
舞踏会よりも、人数が幾分少ないティーパーティならば、ルディアナの気分もそこまで悪くならないだろうと、徐々に解術師として経験を積んでいく計画なのだ。
初めてのパーティで浮いては任務に差し障りがあると、ルディアナは気合いをいれて、色々と準備してきた筈なのだが…。
「ーーナダリア、ですって? まさか…! カイルアン=ナダリアのことかしら?」
「え、ええ……。確かにカイルアンに頂きましたが…。申し訳ありません、ティーパーティには、その、、合っていなかったでしょうか?」
物凄い剣幕で、コーエン公爵夫人がルディアナに詰め寄り、ルディアナはティーパーティが始まる前に、任務から逃げ出したくなった。
皇族でもあるコーエン公爵夫人に怒られたと感じたルディアナは、すでに涙目だ。
「ーーいえ、ティーパーティには合っていますよ。えぇ、さすがナダリア侯爵家の御用達のブティックですね……」
皇妃が何とか怒りを抑えて、怯えきったルディアナに声をかけた。しかし、コーエン公爵夫人も皇妃も目が据わっている。
「ーーうちの子、何をやっているのかしら? ナダリアの倅に先を越されるとは、情けない…!!」
ルディアナを目で捉えながら、ぶつぶつと小言を言うコーエン公爵夫人は恐ろしい。ルディアナはもはや怖くて、公爵夫人から視線を外すのがやっとだった。
(コーエン公爵夫人と皇妃陛下は、何を怒っていらっしゃるの?!)
『ちょっと、、あんた達のせいで、ルディが怯えきってるじゃない! 怒りは、帰ってからコーエンのボンボンにぶつけなさいよ!』
ルディアナが青い顔をしながら、あたふたし始めたのを我慢できず、アノンが壁からポンっと出てきた。
皇妃並びにコーエン公爵夫人は皇族の直系血族ではないが、王族との婚姻を結んだ時からアノンが見えるのだ。
「あら、アノン様。お言葉ではありますが、我がコーエン公爵家からの縁談を、ア…ム、こほん、子爵当主にアノン様がストップをかけたのが、そもそものはじまりでは?」
(あら? ノアにも縁談話があったのね? しかも、子爵令嬢とは…? あら、大変!! 物凄く身分差が激しいわ! どちらの令嬢なのかしら?)
ルディアナの幼馴染みであるコーエン公爵家の一人息子の縁談話に、急に話が切り替わった。コーエン公爵家の一人息子の縁談話は、今まで社交界での噂に上がったこともない。
あまりの特ダネにミーハーでは決してないルディアナも俄然興味をひかれた。
(ノアは王族特有の金髪で碧眼だもの! 婚約者が今までいなかったのがおかしいかったのよ!!)
『…、一人前になる迄、少し待てとは、確かに子爵に伝えたわよ? だからって、こんなに長々と待つとは思わなかったのよ!』
アノンの言葉に納得いかないのか、コーエン公爵夫人は、ムッとした表情を隠そうともしない。
「では、今度こそは、アノン様の許可を得られるのですね? ならば早々に公爵家からもう一度、縁談を申し入れましょう。次は、アノン様もお邪魔をなさぬよう」
「へ?! アノンってば、まさか、ノアの婚約者候補を知ってるの?」
ルディアナはあまりの驚きに、皇妃とコーエン公爵夫人の前でうっかり大声を出してしまった。
(あっ、やば!!)
自分の出した音量に慌てて、ルディアナは開かれた窓からパーティ会場を確認したが、こちらを見ている人間は誰も見えなかった。
「ーー、ルディアナ…」
名前を呼ばれて視線を室内に戻せば、大きな溜め息を吐きながら、皇妃は残念な人間を目の前にしたかの様にルディアナを見ていた。
「急に大声を出してしまい、大変申し訳ございませんでした!!」
(皇妃様は、怒ってはいなさそうね…?)
ルディアナは深々と頭を下げ、皇妃とコーエン公爵夫人に謝罪をした。2人ともそんなルディアナの様子を見て、溜め息と共に頭を軽く振ると、悩ましげな表情をした。
「まぁ、良いわ。ルディアナはしばらく、ここで会場の安全確認を続けなさい。何か不審な事があれば、直ぐに報告を。コーエン公爵夫人とアノン様は、あちらの部屋に」
パチンと手に持っていた扇子を鳴らし、皇妃は2人を隣室へ連れていく。
心なしかアノンのルディアナを見る目が冷たかったようで、ルディアナは不安を感じた。
「ーー、私、何かやらかして、しまった…?」
3人が去った部屋に残され、ルディアナはかなり心細かった。
いつもなら、サルマ夫人が場を取り仕切って、今ごろは会場の最終確認をしている頃だ。
窓の外からはひっきりなしに、来場者をフットマンが伝えていた。
(いけない! 今日は私がサルマ夫人から独り立ちした記念日よ!! ちゃんと仕事をしなくちゃ!)
ルディアナは気合いを入れ直し、窓からティーパーティ会場を凝視した。
ティーパーティとは気楽に言っても、ポットや菓子に毒を持っていないか、来場客や警備、メイド等に不審な様子はないかどうかを見ていく。オーラを一つ一つ隅から隅まで確認しなければならなく、見落とす事は決して許されない。
今は、アノンが皇妃達に連れていかれてしまったので、ルディアナ独りで会場を確認する必要があるのだ。
「大丈夫、きっと、私なら、やれるわ!!」
ルディアナは窓から身を乗り出す勢いで、くまなく会場に目を凝らした。
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まだまだ話は続きます。
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